5月26~28日=シアター1010(プレビュー公演)、6月3~4日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、6月8~22日=シアタークリエ、6月23日=刈谷市総合文化センターアイリス
【見どころ】
『CLUB SEVEN-ZERO-』
玉野和紀さんが構成から脚本、演出、振付までを手掛け、吉野圭吾さん、東山義久さん、西村直人さんらの実力派キャストとともに出演してきたニュー・エンタテインメントショー『CLUB SEVEN』 。ダンスに歌、ミニ・ミュージカルにスケッチ集……と様々な要素が詰め込まれ、100曲近いナンバーを歌い踊るショーは回を重ねるごとに人気を呼び、15年4月に10回目の公演を数えました。
今回はこのお馴染みメンバーに加え、第三回に出演した香寿たつきさん、第六回に出演した原田優一さんと、初登場の蘭乃はなさんが参加。腕に覚えある“大人”のメンバーたちが“全力”で楽しませてくれるショーは、掛け値なしに観ごたえたっぷり。二幕冒頭のミニ・ミュージカルや怒涛の「50音順ヒットパレード」などの“お約束“もきっと登場する……かも? 日本のエンタテインメントの底力が、たっぷり味わえる公演です。
【観劇レポート
卓越した“腕”の持ち主たちが、惜しみなく
弾ける“大人のエンタテインメント・ショー”】
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima オープニングとエンディングはスタイリッシュに。
スタイリッシュなオープニングナンバーで7人がお目見えすると、1幕は玉野和紀さん作・演出のスケッチが続々登場。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima いったい誰?というほどの変身ぶりを見せるキャスト。答えは劇場にて。
帝劇の某・人気ミュージカルのパロディに始まって、普段はたおやかな香寿たつきさんが衝撃的な弾けっぷりを見せる「全力家族」、吉野圭吾さんの妖艶なおばあちゃん姿に不思議と違和感がない(?)「ご長寿クイズ」、玉野監督の無茶振りで出演者が渾身のアドリブをひねり出す撮影シーンなど、玉野さんのユーモア・センス炸裂の場面が続きます。そんな中で、全員が色とりどりの花柄のスーツ、ワンピースで軽やかに踊るナンバーがお洒落。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima お馴染みのキャラクターも健在です。
二幕冒頭のミニ・ミュージカルは今回、香寿さんが主演。あるスターの光と影を華やかに、そしてペーソスたっぷりに描きます。西村直人さん演じる、ナレーター兼・支配人、玉野さん演じる演出家の、実人生を彷彿とさせる信頼関係が温かく、支配人が演出家に向けてかける最後の台詞には思わず、ほろり。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima 玉野さんの“無茶振り”で大爆笑の直後に、クールなPV撮影シーンが登場。
続いてTシャツ姿で幕前に玉野さんが登場し、挨拶。今回はシリーズの原点に立ち戻るという意味で「ZERO」と名付けたこと、そしてあれもこれもやりたい……と考えているうちに到底3時間ではおさまらなくなり、A、Bの2パターンの上演となったことが語られます(この日はAパターンを上演)。メンバーが一人ずつ呼び込まれ、一言ずつ挨拶した後に、お待ちかねの「50音順ヒットメドレー」がスタート。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima ショービジネスの光と影が味わい深く演じられるミニ・ミュージカル。
東山義久さんの口笛で某・国民的グループのナンバーに始まり、昭和歌謡(東山さんらがポンポンを持って踊るスクールメイツが不思議にキュート。一方、某ナンバーでサンバを踊る原田優一さんは泣く子も黙る(?)怪演)、CMソング(蘭乃はなさんの体を張った某クリニックCMが可憐)、最近のヒット曲等、74曲ものナンバーを時にハイテンションで、時にしっとりと披露。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima 芸の細かい大道具にもご注目!この時歌われていたのは「ありがとう」ということで、背後を通り過ぎてゆくアリたち。
今回は「ZERO」ということでシリーズのお馴染み要素が無くなってしまうのか、との懸念もありましたが、全体の構成や人気コーナーはほぼ健在で、シリーズのファンも安心して観られる内容です。ナンセンスなコント・シーンにも一流の演奏がつき、わずか数秒、数十秒のシーンのために凝った映像や大道具が登場するのもこのシリーズならでは。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima 本家よりも巧まずして(?)カッコいいパロディも。
なにより、玉野さんのもとに集った、日本のミュージカル・シーンの中でも卓越した腕とサービス精神の持ち主たちが、一切手抜きなく“大人の全力ぶり”を見せてくれるのが何とも爽快で楽しい。日常を忘れさせてくれるエンタテインメント・ショーとして、今、最もお勧めできるショーの開幕です。
『CLUB SEVEN-ZERO-』(C)Marino Matsushima このポーズで曲名がお分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、昭和の“あの”スターのナンバーも香寿さん、蘭乃さんの息の合った歌唱で次々披露。
5月28日~6月18日=赤坂ACTシアター、6月24~30日=オリックス劇場
『俺節』撮影:阿久津知宏
【見どころ】
“ミュージカル”とも“音楽劇”ともうたわれていませんが、ミュージカル・ファン、そしてミュージカルの作り手たちにもぜひご紹介したい舞台が登場しました。1991~93年に「ビッグコミックスピリッツ」に連載され、今も熱狂的なファンを持つ漫画『俺節』の舞台版。演歌歌手を目指して上京した青年の奮闘物語に不法滞在中のストリッパーとの恋が織り込まれ、様々な演歌のヒット曲とともに描かれます。不器用な主人公役に安田章大さん、彼と恋に落ちるストリッパー、テレサ役にシャーロット・ケイト・フォックスさん。ほか福士誠治さん、西岡徳馬さんらカラフルなキャストが、原作をこよなく愛する福原充則さん演出のもと、都会の片隅で熱く生きるドラマです。
【観劇レポート
懸命な“生”から溢れ出る
人間の本能的衝動としての“歌”】
*いわゆる「ネタバレ」を含みますので、未見の方はご注意下さい。
『俺節』撮影:阿久津知宏 テレサ(シャーロット・ケイト・フォックスさん)の働くストリップ劇場ではマリアン(高田聖子さん)ら、各国からやってきた不法滞在の女たちが日銭を稼いでいた。
気弱な青年コージは演歌歌手を目指し、津軽から上京。憧れの大歌手、北野波平の前で歌を披露する機会を得るが、緊張で声が出ず、弟子入りの夢はあっけなく敗れる。お調子者のギター弾き・オキナワに誘われ、彼が根城とする“みれん横丁”へとやってきた彼は、逃げ込んできたストリッパー・テレサを助けようと、ただ一人、ヤクザたちに立ち向かう……。
『俺節』撮影:阿久津知宏 コージは巧みな選曲センスと歌唱で人々の心を掴む流しの歌手、大野(六角精児さん)を師匠と仰ぐ。
大きな舞台空間をいっぱいに使いながらも猥雑な“昭和”の匂いが濃厚な“みれん横丁”のセット(美術・二村周作さん)。その住民たちも同様で、登場する一人一人がうさん臭く、今日を何とか生き延びようとする刹那的で強烈なバイタリティを放っています。そんな中で“世の中をとっくり返してやる”と意気込むコージは、不器用で“妥協”という言葉を知りません。精神的にも身体的にも殴られ、蹴られ、傷つくことの連続ですが、そんな中でも信念を通そうとする時、彼の言葉にならない思いは“歌”となり、体内からほとばしる。楽譜にもテクニックにも縛られない“魂の叫び”としてのその歌は、人々の心を動かし、日本語が完全ではないテレサに“なぜあの人の歌に感動するのだろう”と自問自答させます。一人の青年の青春物語を通して、最もプリミティブなレベルで“歌”、そして表現の本質とは何かを問う本作。その問いかけはすべてをかなぐり捨てて全身“歌”と化す歌唱が鮮烈なコージ役、安田章大さん、思いをうまく日本語に変換できず、もどかしさをやはり全身で表現するシャーロット・ケイト・フォックスさんはじめ、全ての出演者の懸命な生き様をもって、凄まじいエネルギーを放ちながら客席に迫ります。
『俺節』撮影:阿久津知宏 コージはテレサやオキナワ(福士誠治さん)と夢を追うが……。
終盤、テレサは前述の答えに気づき、衆目の中、コージと“魂の交信”を始めます。大雨に打たれながらのその様は一見ぶざまで、気がふれたようにすら見えますが、それまで彼らを見守り、彼らを理解している観客には、この上なく美しい光景に映ることでしょう。そしてコージが万感の思いで歌うオリジナルの演歌「俺節」(作詞・福原充則さん)。すべての答えが凝縮された歌詞と安田さんの絶唱が染み入り、強烈なインパクトを残します。
人物の感情の昂ぶりが歌となる劇構造は、まさしく“ミュージカル”の基本形。それを演歌という“日本のソウル・ミュージック”で体現する本作は、ともすればミュージカルの世界では敢えて問われることのない“歌の絶対的な存在意義”を鋭く問いかけるものでもあり、ミュージカルを愛するすべての方に、御覧いただきたい舞台です。