5月8~29日=日生劇場、7月4~16日=梅田芸術劇場メインホール
【見どころ】
『グレート・ギャツビー』
アメリカを代表する作家のひとりF・スコット・フィッツジェラルドの小説で、1991年に小池修一郎さんが宝塚歌劇団のために世界初ミュージカル化した『華麗なるギャツビー』がこの度、タイトルを『グレート・ギャツビー』として脚本・演出・音楽を一新、井上芳雄さん主演で上演されます。小池さんが候補の中から選んだ作曲家は、新作『バンドスタンド』がブロードウェイで4月26日に開幕したばかりのリチャード・オベラッカー。なんと小学生の頃から本作の作曲を夢見てきたそうで、彼が時間をかけて練り上げてきた音楽は壮大にしてドラマティック。
また小池さんとの新作タッグは『モーツァルト!』以来15年ぶりの井上芳雄さんは、“ギャツビーは男優なら誰もが演じたいと憧れる、ロマンティックな人物。誰も観たことがない『グレート・ギャツビー』を御覧いただきたい”と意欲満々。その他、ギャツビーの昔の恋人デイジー役に夢咲ねねさん、その夫トム役に広瀬友祐さん、ナレーター的な役どころも担うニック役に田代万里生さん他、豪華な顔ぶれが集結。衣裳デザインは『エリザベート』の生澤美子さんが担当、“狂乱の20年代”の時代感を取り入れた衣裳にも期待が寄せられます。
【観劇レポート】
壮大にして憂いに満ちた旋律に彩られた
“狂騒の時代”の純愛物語
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部
出征前に愛した女性デイジーを忘れられず、成金となって毎週パーティーを催し、彼女の訪問を待ち続ける男ギャツビー。隣人ニックが彼女の遠縁であることを知ったギャツビーは、彼にデイジーを連れて来るよう頼み、二人は再会するが、デイジーは傲慢な大富豪トムと不幸な結婚生活を送っていた……。
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部
20世紀米国文学の最高峰と呼ばれる原作小説同様、舞台版は(作者フィッツジェラルドの分身とも言われる)道徳的な男、ニックの回想という形で、未曽有の好景気に沸く第一次大戦後の米国を象徴する男ギャツビーの愛の悲劇を描きます。ギャツビーが入り江の向こうに住むデイジーを想いながら歌う「グリーン・ライト」から、闇世界との決別を歌う「アイスキャッスルに別れを」まで、登場人物たちの心情表現として登場するリチャード・オベラッカーの楽曲は、どれもたっぷりとしたスケール感で日本語が乗りやすく、同時に朝靄のような憂いに満ち、何とも魅力的。特に1幕終盤でギャツビーとデイジーが互いの感情を確かめ合う「過去を乗り越えて」は一度聴けば耳から離れない旋律で、その後の楽曲にフレーズが再登場する度、はっとさせられます。
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部
先月ブロードウェイ・デビューを果たしたばかりの、このホットな作曲家の楽曲を、日本を代表するミュージカル俳優たちがいかに歌いこなすか。オベラッカーの作風が知られていないだけに大きな注目が集まりましたが、ギャツビー役の井上芳雄さんは、危険な商売に手を染めながらもかつての恋人に再会したい一心で生き抜いてきた人物を、力強くも誠実な歌声で表現。
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部
“天真爛漫な娘”から、しがらみに束縛された一児の母への変化を、美しい所作や声の出どこで見せるデイジー役・夢咲ねねさん、生まれながらの富豪として育ちの良さと不遜さの双方を漂わせるトム役・広瀬友祐さん、チャールストン風のナンバー「恋のホールインワン」等、軽やかなナンバーでその艶やかな歌声が抜群に生きるニック役・田代万里生さんら、そのほかのキャストもオベラッカーの楽曲を見事に歌いこなし、観る者を物語世界に引き込みます。中でも、国の繁栄の中で取り残された貧困層を象徴する自動車修理販売店オーナー、ジョージ役の畠中洋さんの佇まいや歌声に油の匂いの混ざったような生活感・哀感があり、物語に奥行きを与えています。
『グレート・ギャツビー』写真提供:東宝演劇部
“狂騒の時代”に対する作者フィッツジェラルドの批判精神ゆえか、原作でニックが語る物語にはどこか冷めた距離感が漂いますが、今回の舞台版ではぐっとギャツビーの“純愛”に寄り添った、温かな視線が特徴的です。結末は原作通りの悲劇的なものですが、終盤は希望に満ちたナンバーが続き、それを井上さんが自身のパーソナリティを生かして歌唱。切なくも、爽やかな感慨に包まれる舞台版『グレート・ギャツビー』です。
5月17~21日=ザ・ポケット
【見どころ】
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
世界各国で500万部のベストセラーとなっている東野圭吾さんの同名小説『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。三人の空き巣の若者たちが忍び込んだ廃屋で起こる、不思議な出来事の数々。その日はちょうど、店のポストを通して多くの子供たちの悩みに答えてきた雑貨店が、33年ぶりに復活する予定だった……。名もなき人々の苦悩と再生を描き、東野作品の中でも屈指の感動作と呼ばれる本作が、脚本に『エリザベート』等で俳優としても活躍する大谷美智浩さん、音楽に『キューティー・ブロンド』で音楽監督を務めた小澤時史さんを迎え、イッツフォーリーズによってミュージカル化されます。
手紙を通して浮かび上がる様々な人生模様に寄り添うのは、情感豊かな歌声と、ピアノ&チェロの生演奏。作曲の小澤さん曰く、コーラスの美しさに定評のあるイッツフォーリーズのため、今回は敢えて、ソロが引き立つメロディを心掛けたのだそう。小ぶりの劇場空間に包まれ、心洗われるひとときが過ごせることでしょう。
【観劇レポート
“名もなき人々”の悲喜こもごもを包み込み、
清々しい希望を与える“東野圭吾ワールド”】
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
廃屋と思って忍び込んだ店のポストに、次々投げ込まれる人生相談の手紙。なりゆきで返信してみた泥棒3人組は、実はそれらが時空を超えた手紙であることに気づく……。
手紙を介して様々な名もなき人々の人生に触れ、“どうせ自分なんか”とやさぐれていた青年たちが少しずつ変わってゆく様を、泥棒役の加藤木風舞さん、吉村健洋さん、井原和哉さんは嘘のない、芯の通った芝居で体現。店主役の森隆二さんも、実年齢よりずっと上の“老け”役を味わい深く演じ、進路に悩む音楽青年の母役、茂木沙月さんの叱責には厳しさと愛が同居。等身大のキャラクターたちに説得力を与えるこの劇団は、東野圭吾ワールドと相性抜群と言えましょう。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
そして全編に流れるピアノとチェロの音色(音楽・小澤時史さん)は、場面に応じて表情を変えながらも、登場人物の心に寄り添い、優しく包み込む。終盤のナンバー「白紙の地図」は、大谷美智浩さんの過不足のない歌詞とあいまって、その場その時間を共有する人々に等しく、清々しい希望と感動を与えます。
この日、満席の会場には原作ファンであるのか、男性の“おひとり様”も多々。ちょっと心にビタミンを補給したいと思った時にふらりと観にゆける、そんなロングランが実現してもいいのでは……と思える舞台です。
*次頁で『CLUB SEVEN-ZERO-』をご紹介します!