高知のショウガと大阪の伝統野菜のパン
ミル・ヴィラージュ 店内
大阪は千里万博公園にほど近い「ミル・ヴィラージュ」は、2002年にパリで開催されたパンのワールドカップ、クープ・デュ・モンドで日本を初優勝に導いた職人さんの一人、渡辺明生さんのお店です。一時は世界と勝負する舞台に立ちながらも、現在は生まれ育った場所に店を構え、朝は7時半からパンを販売しています。
ハード系からお総菜パンや菓子パンまでさまざまなパンが並ぶ
他にもさまざまな製パンコンテストの受賞歴がある渡辺さんは、お題を掲げたらなんでもおいしいパンに変えてしまう人かもしれません。
たとえば今ここに、ショウガがあるとしたら……。
限界突破ショウガ
取材の日、店で最初に目にしたのがこれ、高知県大豊町ラッキー農園産の有機栽培「限界突破ショウガ」(210円)です。渡辺さんは「飾りパン」で世界一になった人なので、高知県で開催された飾りパンコンテストに審査員として呼ばれて行くうちに、高知の10軒もの農家さんとの繋がりができ、農産物をこうして販売したり、パンの素材としているのだそうです。
ジャンジャンブル(断面)
ショウガのパンで定番は「ジャンジャンブル」(500円)。すりおろしたショウガを練り込んだ黒蜜のパンはふんわりとしていて、甘く煮たショウガがたっぷり巻き込まれています。
ジンジャーレモン
もうひとつは「ジンジャーレモン」(230円)。こちらはリュスティックをアレンジしたもっちりとしたパンで、ショウガのすりおろしとレモンピール入り。隠し味には「酵豆粉」なる無塩の味噌粉が入っています。味噌の味はしませんが、どこか和を感じるパンです。
石本農場のこだわり卵を使ったクリームパン
新鮮な卵も販売
最近、店内で青果を販売するパン屋さんがありますが、ミル・ヴィラージュもそうで、この日はショウガのほかに、広島の石本農場のこだわり卵や地元吹田の野菜が販売されていました。さらに生産者の方が自転車で小芋を持って来られたのにも遭遇。雪がちらつく日でしたが、なんてのどかで温かな、その雰囲気!
地元の野菜を販売
地元の生産者は4軒ほどで、大阪しろな、田辺大根、吹田くわい、天王寺かぶらなど、なにわ伝統野菜を使ったパンをつくることもあるそうです。クリのような味になるクワイは、ドライの無花果と合わせるのだとか。
野菜には時季があるのでお店を訪れた時次第となりますが、本物の季節の味が楽しめるのはいいですね。そして生産者のことを知る機会は貴重です。私はこの日、ひとつひとつ虫を手で取り除いて丁寧につくられる「限界突破ショウガ」のことを知りました。
本日の野菜(スナップエンドウ、パプリカ、玉ねぎ)を国産小麦のカンパーニュにベーコンとともに巻き込んだ「野菜たっぷりパン」
水を使わずトマトだけで仕込んだセミドライトマト入りのライ麦パン「トマト」
バゲットと食パン、そしてシナモンロール
角食パンは一番人気のパン
ミル・ヴィラージュで一番人気のパンは「角食パン」(300円)。この店ならではの特徴は、タンパクが少なくでんぷんが多い薄力粉を湯種にして用い、生地にもブレンドして甘味を出しているところです。トーストすると生地の甘味と、サクッと香ばしいミミのバランスがとてもいいパンです。
シナモンロール
この食パンの生地をひも状にして、シナモンシュガーをまぶして編んだのが「シナモンロール」(130円)。ドーナツと見紛うそのフォルムですが、食感はドーナツよりやさしく軽く、内部にまで巻き込まれたシナモンシュガーがたっぷり満喫できます。
発酵バターのクロワッサン
ラムレーズンとバターが入った「レーズンバター」
渡辺さんはベテランのパン職人なので、ベーシックな食パンやバゲットやクロワッサンはどれも質が高くておすすめですが、それらをアレンジしたパンも楽しいのです。
香
バゲット生地のパンでぜひ味わってもらいたいのが「香(かおり)」(220円)。ライ麦、もち粉、トウモロコシ粉もブレンドされていて、皮はパリッと、中はしっとりとして口どけがよく、その名の通り、香り高いパンです。
パリパリのクラストの中身はしっとり
バゲット
ベーシックな「バゲット」(210円)はフランス小麦60%。低温長時間発酵で旨みを引き出しています。「こんど地元の老人会のパン教室でもバゲットを作ろうと思っています」と渡辺さん。バゲットは成形が難しいので、生地を引っ張ってねじるだけの形にするそうです。それもまたおいしそう。そして、「いつもはサラダやスープを合わせて皆で食べるんですが、今回はおでんを合わせようと思っているんですよ」と。
他にも魅力的なハード系。石臼挽きバゲット、みなみのめぐみのカンパーニュなど
おでんとパンを合わせる? おでんの具材「ちくわぶ」が小麦粉のかたまりであることを考えれば、合いそうな気がしてきました。
渡辺さんはここ数年、酒粕や味噌、餅、桜、そしてショウガなど、日本の伝統的な食材とパンの組み合わせをいくつも提案しています。昔から身近にあった食材や味覚は、パンと合わせてもすっと馴染みやすいものかもしれません。
リュスティックに桜の花と葉の塩漬けを入れた「桜」
新作は東欧発、ニューヨーク経由「バブカ」
フランスから来たバゲットに日本のおでん。
パンという食べ物の面白さのひとつは小麦粉を媒介として食文化と食文化を融合させてしまうところです。
そしておいしいパンはみんなに愛され、世界を旅してしまうのです。ミル・ヴィラージュにいると、そんなことを感じます。新顔は「バブカ」。
バブカ
「バブカ」はもとは東欧の家庭でつくられていた伝統的なパンで、ニューヨークに渡ってチョコレートを巻き込んだリッチな生地に進化し、パン屋さんの人気アイテムとしてブレイク。昨年くらいから日本でも流行の兆しにあります。
バブカ(断面)
ミル・ヴィラージュで昨年末デビューしたバブカ(600円)はデニッシュタイプ。クーベルチュールをふんだんに用いたガナッシュクリームとカカオ成分の高いチョコチップを編み込み、素材の6割がチョコで出来上がっている濃厚なパンです。このパンが今後どのように進化していくのか、追ってみたいと思っています。
ウエディングパーティのウエルカムボードに飾りパンを
ミル・ヴィラージュは2017年の今年、10周年を迎えます。
「2007年の夏にオープンして以来、がむしゃらにやってきましたが、病気も事故もなくやって来れたことは有り難かったです。これからの10年ですか?なにか新しいことができるかな。でも、今までと同じようにやっていくかもしれません」と、はにかむように笑いながら、淡々と語る渡辺さん。今年は10周年のお楽しみ企画を計画中だそうです。
オーナーシェフの渡辺明生さん
そうそう、他のパンやさんにはあまりない、ミル・ヴィラージュならではのメニューは「飾りパン」です。おもにウェディングパーティのウエルカムボードとしての依頼が多いそうですが、新郎新婦の思い出をモチーフに、二人も制作に参加して楽しんでもらうのだそうです。パン好きカップルにおすすめです。詳細はミル・ヴィラージュのホームページからお問い合わせください。
ミル・ヴィラージュ
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ミル・ヴィラージュ
住所:大阪府吹田市千里万博公園14-13 BARONG 1F
電話:06-6877-7070
営業時間:7時半~19時半
定休日:月・火
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