朝ドラ、大河ドラマ、深夜ドラマ、コメディ、社会派ドラマ、どんなジャンルのドラマに出演しても違和感のない高橋一生。平凡かというと、そうではなく非常に個性的です。落ち着いた低い声が視聴者を魅了していますが、その声の奥底にあるラジカルな要素や小心者の虚勢など、人間味をうまく引き出して見せてくれる俳優です。まずは、どんな役を演じてきたのか振り返りましょう。
高橋一生が演じた魅力あふれる人物たち
1. 人間の危うさを純粋に映した『相棒』『相棒』season4とseason5では殺人鬼に傾倒していく精神科医の助手安斉直太郎を好演。穏やかな表情の奥に、抑えきれない衝動を垣間見せる演技は不気味さより、気を抜くと吸い込まれそうになる不思議な透明感すら感じさせました。
2.平常心を貫くおかしなリズム『民王』
金曜ナイトドラマ 池井戸潤原作 民王 公式サイトより
3.時代に翻弄される葛藤が切ない『信長協奏曲』
低い声、先走りしないもの言い、高橋一生のいいところが全面に映えた作品のひとつです。苦悩しながらも背中を丸めなかった武将浅井長政を熱演、涙した人も多かったのではないでしょうか。小栗旬演じる天真爛漫、豪快な織田信長とのコントラストが心地よく、哀しいのに、なぜか清々しさを感じました。
4.変化をサラリと見せた『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
高良健吾演じる曽田練が勤務する運送会社の先輩を演じていたのは記憶に新しいところ。冷酷で平気で人を傷つける金髪の青年でしたが、いつの間に黒髪のふつうの大人に変わり、作品の時間が一気に流れました。高橋一生は違和感なく時間の経過を「サラリ」と表現。表情からトゲを抜き、人間的にグッと深みを増した佐引を見せてくれました。
引き算で演じることができる。
高橋一生が演じる人物たちは、人間味があふれています。「キャラを立てて演じる」わけでもなく「憑依する」わけでもありません。そつなくこなしているという表現もあてはまらない気がします。演じる人物の内面を露わにするさじ加減を、作品ごとにコントロールしているかのようです。特別な引き算といってもいいかもしれません。そしてそれは、とても美しい演技です。演じる人物を100として150に見せるのではなく、95くらいで演じる。ほんの少しの引き算がグッと演技を引き締めます。見る側の余白も計算して演じているのかもしれません。高橋一生の演技を見る機会が増えても、お腹いっぱいになることなく、ごくごく自然に受け入れてしまうでしょう。
紙一重の紙が極端に薄い
高橋一生が演じてきた人間には忠誠に徹する人物もいれば、裏切り者もいます。どちらもそれが、そのひとの真実、忠実と裏切りは紙一重。その紙が極端に薄いのが高橋一生だと感じます。人間は嘘をつく。その嘘の背景にあるやさしさも悪意も、同じ温度で演じてしまうのが高橋一生。やさしさと悪意は、意外に近いのかもしれない。そんなことを考えさせるチカラがあります。
『カルテット』に見る情けなさの美しさ
高橋一生演じるヴィオラの奏者、家森諭高は、面倒であまのじゃく。情けなさも、こう色々だと、実はイケているんじゃないかと錯覚しそうになります。ワケありの様相も、ムキになってのもの言いも、気が付くと「カッコイイ」に変換されている演技。それはほのかな色香と言えるかも。思えば、世の女性をムズきゅんさせた『逃げるは恥だが役に立つ』の平匡も不器用で面倒。タイプは違うものの家森も平匡も癖のあるやっかいな大人です。しかし平匡は星野源が、家森は高橋一生が演じたからなのか、憎めない! それどころかどきどきしてしまう。マジメすぎるやっかいの次に、マジメが足りないやっかいを見せられ翻弄されるところは、似ているのかもしれません。
いよいよ大河ドラマ『おんな城主 直虎』もスタート。つかみどころのない『カルテット』の家森と、内に秘めたるものが熱い『直虎』の聡明な小野正次、どちらも見逃せません。しっかり楽しみたいですね。