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賃貸住宅の不具合、借り手が負担するのはどこまで?(2ページ目)

春の新生活に向けて、これから新居への引っ越しシーズンを迎えます。初めて賃貸住宅を借りるという人も多いでしょう。でも、大家さんが負担するのはどこまでの範囲で、自分が負担するのはどこまでの範囲か知っていますか?

山本 久美子

執筆者:山本 久美子

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設問は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」や「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(東京都)」に基づいて作成したものです。ガイドラインによると正解は、
借主であるあなたが負担すべきものは偶数の項目
・貸主である大家さんが負担すべきものは奇数の項目

です。以下の設問に、どの程度正解できたでしょうか?

  1. 日差しで畳が焼けた(茶に変色)ことによる表替えの費用
  2. 禁止されていない喫煙でできたヤニによる変色、臭いの付着によるクロスの張り替え費用
  3. 居住期間中に家具を置いたことでできた床のへこみの補修・張り替え費用
  4. キャスター付きの家具で明らかについたフローリングの傷の補修・張り替え費用
  5. 冷蔵庫の後部壁面にできた大きな黒ずみの補修・張り替え費用
  6. 冷蔵庫の床にできたガンコなサビ跡の補修・張り替え費用
  7. 壁に貼ったポスターの画びょうの穴の補修・張り替え費用
  8. 壁に付けた棚のクギやネジの穴の補修・張り替え費用
  9. 借主が取り付けたエアコンの設置による壁のビス穴の補修費用
  10. 借主が取り付けたエアコンの水漏れをそのままにしてできた壁の腐食の補修費用

基本的な考え方として、
「建物や設備などが自然的に劣化・損耗するもの」(経年変化)や「賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの」(通常損耗)については、貸主負担というものです。

1.のように時間が経つことで劣化したものは、「経年変化」に該当します。通常の生活として家具や家電を置くことは想定されるので、家具の重みや電気焼けによるへこみや黒ずみは「通常損耗」に該当します。画びょうの穴など下地ボードの張り替えが不要な程度のものは通常の生活の想定内と見なされます。9.のエアコンの設置も、いまでは必需品なっているので、借主が取り付けた場合でも想定内とされます。

一方、喫煙が禁止されていなくても、部屋全体のクロスがヤニで変色したり臭いが付着したりする程度になれば、通常の汚損とは見なされず借主負担となります。汚れがひどくならないように、日ごろから清掃する必要があります。

キャスター付きの家具を使用するのであれば、床にキズが付くことが予測されるので、使用する際に十分注意する必要があるのに、それを怠ったので借主負担。冷蔵庫のサビが床に付着したのに、それを放置して床に汚損を発生させたので借主負担。と、通常の生活であっても、適切に使用したり清掃したりしないで、キズやサビを拡大させた場合などは、借主負担と見なされるのです。

したがって、10.の借主が取り付けたエアコンだけでなく、元から貸主が設置していたエアコンであっても、水漏れに対処せずに放置して壁を腐食された場合は、借主負担となります。

イメージ

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」での損耗・毀損事例の区分


ただし、借主の責任によって生じた損耗を補修する場合でも、「一部だけ張り替えると模様や色が合わなくなるために、壁全体を張り替えるので、全額負担しなければならないか」というと、そうではありません。ガイドラインでは、模様合わせ・色合わせによる張り替え部分は、貸主負担になるとしています。

こうした費用の負担の仕方についても、ガイドラインで細かく提示していますので、ガイドラインを参考にして、貸主と交渉してみるとよいでしょう。

入居・退去時の確認と契約内容が決め手に

このように見ていくと、誰がどうやって付けた損耗なのかが鍵を握ることがわかります。居前と退去時に、それぞれどういった状態であるか(内装のキズの有無や建具・設備機器の不具合の有無など)を借主・貸主双方が立ち会って確認しておくことが重要です。

ガイドラインでは、「入居時・退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」が用意されていますし、必要に応じて写真を撮るなど細かく記録に残しておくことが、トラブル防止に役立ちます。

物件状況確認リスト

「入居時・退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」(国土交通省)


これまで説明したのは、あくまでガイドラインの内容に沿ったものです。賃貸借契約は借主・貸主の双方の合意に基づくものなので、ガイドラインとは違う条件で契約を交わすことも可能です。

トラブル防止のためにも、「賃貸借契約書」に敷金の扱いや原状回復の範囲、費用負担などについて記載される必要があります。貸主負担が原則の通常損耗の一部について、借主負担とする「特約」をつけた契約も可能です。ただし、借主に過剰な負担をさせるものでなく、借主自身がそこまで負担することを認識していることなどが前提となります。

ガイドラインは、最高裁判所の判例といった法的な根拠に沿って策定されていますが、法的根拠を明確にするために、国会で審議される予定の「民法改正」では、敷金の定義や原状回復義務の範囲などが明文化される予定となっています。

筆者自身が住宅にかかわる前の若いころ、小さな汚れを理由に壁全体のクロスの張り替えの金額を賃貸住宅の管理会社から請求され、そのまま支払ってしまったことがあります。次の入居者のためのリフォームやクリーニング費用は、当然貸主が負担すべきものですから、知らないと知っているとでは大違いですね。

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