楽しい年末年始の帰省時、家族の元気がないと感じたら…
楽しいはずの年末の帰省。でも帰ってきた子どもが何だか暗かったり、久しぶりに帰った実家の様子が何だかおかしかった場合、その理由を察して対処することが問題を深刻化させないための第1歩です
高齢の親が認知症を発症していて、実家がごみ屋敷のようになっていた……といったケースも稀にありますが、そこまで目に見えた異変でなくとも、何だか元気がないと感じることはあるかもしれません。
今回は帰省時にご家族の様子が気にかかった時、適切に対処するために知っておきたいことを詳しく解説します。
いつもと違うと感じたら、原因を探ることも大切
例として、社会に出て独り立ちしたばかりの息子が1年ぶりに実家に帰省する状況で考えてみましょう。久しぶりの帰省を楽しみにしてくれる親が多いものだと思いますが、帰省した際に、父親にいつもの元気がないことに息子が気付いたとします。その理由を本人に直接尋ねるのは、少し難しいことかもしれません。精神的な問題はご家族間でも、ちょっと遠慮してしまうことも、ままあるものです。このような場合、母親に後でそっと聞いてみるようなことが多いかもしれませんが、場合によっては母親もそれに気付いてはいるものの、当人がはっきり言わずに困っているという場合もあるかと思います。実際、体調がかなり悪くてもご家族を心配させないようにと、はっきり言わない場合もあるものです。
元気をなくす要因はさまざまですが、場合によってはご家族全員で対処した方がよい問題もあります。特にうつ病の可能性が考えられる時は、ご家族全員で対処するのが望ましいのです。その点でも原因を探って、重症化してしまう前にサポートできることがないか、考える必要があります。
うつ病は通常の落ち込みや憂うつ感とは全く別のもの
うつ病は数ある精神疾患の中でも最も頻度の高い疾患の1つです。発症率は統計によって幅がありますが、人口のおよそ10%。100人中、少なく見積もっても、5~8人が一生のある時点でうつ病を発症すると言われています。誤解される方もいるかもしれませんが、うつ病を発症するこの5~8人は決して、いわゆる精神的に”弱い”人なのではありません。うつ病には遺伝子レベルである程度定まる、なりやすさもありますが、それは決して本人の性格や生活態度の問題ではなく、神経伝達物質が脳内で結合する受容体の構造といった生物学的な問題なのです。うつ病を発症する際は通常こうした生物学的な要因のほかに、日常のストレスや問題、生活習慣や職場環境、さらには冬季の日照量不足など、複数の要因が同時に関わってきます。
うつ病になれば、できるだけ早い段階で必要な治療を受けることが望ましいです。その始まりは通常の気持ちの落ち込みとかなり類似点があり、見逃してしまう事も少なくありません。両者の区別には、現れている症状のレベルと、その持続期間が重要です。
通常の落ち込みの場合でも、少し深刻な状態だと、一時的に食欲がなくなったり、寝つきが悪くなったり、好きな映画を見ても全然楽しめないといったこともあります。でも放っておいても、自然と元の自分に戻るものです。しかし、うつ病の場合、放っておくことで通常症状が次第に深刻化していきます。その原因は脳内の不調が治療薬の助けを必要とするほど深刻化しているためです。
うつ病で現れやすい気持ちの落ち込み以外の問題
うつ病を発症すると、気持ちが落ち込むと同時に思考内容もネガティブなものに変わっていきます。食欲の問題、睡眠障害なども一般的で、記憶力や集中力など認知機能にも問題が現れやすいです。うつ病の症状は多様で、どのような内容が実際に現れるかには個人差がかなりあります。食欲に関しても、ある人ははっきり食欲不振をあらわしますが、ある人は反対に甘いものが無性に欲しくなることもあり、一概には同じパターンでは括れません。以下にうつ病の発症時に現れやすい症状をまとめます。- 気持ちがひどく物悲しい
- 楽しいはずのことが全然楽しくない
- 食欲不振あるいは食欲亢進、そしてそれが引き起こす体重の増減
- 寝つきが悪い、早朝覚醒などの不眠症状あるいは反対に寝すぎてしまう過眠症状
- 不安、焦燥感が強まる
- 動作に以前の機敏さが失われ、立ち居振る舞いが緩慢になる
- 自責の念が強まり、物事に罪の意識を覚えやすい
- 頭の回転が緩慢になり、記憶力が低下する
- 物事を決断できない
- 疲れやすく、日中の活動量も低下している
- 死について考えてしまう時がある
うつ病の可能性に気付いたら早めの精神科受診を
うつ病を発症した際、症状をより深刻にしないためには、できるだけ早い段階で必要な治療を開始することが望ましいです。うつ病と通常の落ち込みとの違いは先にも述べましたが、通常の落ち込みならば放っておけば元に戻りますが、うつ病は放っておけば通常悪くなります。
もし帰省などの際に、家族の元気のなさなど気にかかることがあった場合、まずはまわりの皆でその事実を共有し、しばらく連絡を取り合うなどしながら、当人の様子をそれとなく見守るのがよいでしょう。そして、もしある一定の期間、上記のような抑うつ症状が持続していたら、うつ病の可能性をはっきり意識する必要があります。
世界中で広く使用される米国精神医学会の診断基準では、うつ病を診断する際には抑うつ症状の持続が2週間以上であることが要請されています。その意味するところは、抑うつ症状が2週間以上も持続するということは、それを引き起こしている脳内の問題が深刻化していて、まわりが元気が出るようにと、いかに当人に働きかけても効果はなく、回復には抗うつ薬が必要なレベルになっているともいえます。
うつ病をもし発症してしまった場合、それが疑わしい段階で精神科(神経科)を受診することが理想的です。もし仮に1週間以上、それまでにはない元気のなさが続いていたら、うつ病の可能性があることをまわりの方は頭に置いておいてください。
そして当人を見守る際は、口から出る言葉には注意してください。特にもし、「死にたい」といった言葉が本人の口から出ることがあれば、まわりの方は真剣に受け止める必要があります。うつ病の場合、自殺のリスクが15~25%もあります。言い換えれば、うつ病になれば、およそ4~7人に1人が自殺にいたることになります。もし仮にも死にたい気持ちを当人が訴えている場合、既にうつ病が重症化している可能性も充分あります。その際は大至急精神科受診をするように働きかけましょう。