「気分の問題」ではない? なぜうつ病は今なお誤解されやすいのか
「そのうち治る」と自他ともに軽く考えられがちなうつ病。放置すべきでない理由とは?
うつ病になると気分がひどく落ち込み、何をやっても楽しさを感じられず、やる気も起きません。社会的機能も低下してしまいます。
しかし、「憂うつな気持ち」は多くの人になじみがあるものなので、深刻なうつ病を発症していても「気持ちが落ち込んでいるだけなら、そのうち治る」「時間が解決してくれる」と考えてしまいがちです。これは、大きな誤解です。うつ病は放っておいて自然に治る病気ではないのです。
うつ病の怖い点は、自死との関連が無視できないことです。うつ病になると自責の念や死にたい気持ちが強くなってしまう上に、判断力も低下してしまうため、リスクは大きくなります。統計的にも重症うつ患者の自死率は低くなく、年間自殺者の大半がうつ病に関連した症状を抱えていると考えられています。
うつ病による人生の損失は? 障害調整生命年(DALYs)による
うつ病になってしまうと、本来楽しめるはずの時間が、うつ症状で苦しむ時間に置き換わってしまいます。症状が悪化して自死に至り、人生そのものを失ってしまった場合は、大きな悲劇ですが、命を失わなくとも人生において大きな損失が生じます。
うつになると元気がなくなり、今まで楽しめていたことが楽しめなくなります。何をするにも億劫になり、仕事の能率は落ち、ノルマをこなせなくなることもあります。家庭内で会話が減り、関係が悪化することもあるでしょう。うつ病が人生に及ぼす損失は非常に大きいのです。
糖尿病やがんなどの病気と比べるとどうでしょうか。異なる病気ごとの人生の損失を評価するために、『DALYs(Disability Adjusted Life Years:障害調整生命年)』という指標があります。これは病気などによって失われた「健康な人生の年数」を表すものです。
意外に思われるかもしれませんが、うつ病のDALYsは失明や下半身麻痺と同じレベルとされています。もちろん失明や下半身麻痺になっても様々なサポートを受け、充実した人生を送っていくことは可能です。しかし、その生活に慣れるまでに大変な苦労があるだろうと、多くの人は想像できると思います。大切なのは、うつ病も同様に大変な病気の一つであり、決して「気持ちの問題」などと軽く考えてはいけないということです。
うつ病が社会全体にもたらす経済的損失
次に、うつ病が社会全体にもたらす経済的損失について考えてみましょう。今世紀初頭のデータになりますが、WHOによる『Global Burden of Disease(疾病負担)」では、DALYsを用いて各疾患による損失が示されています。| 各疾患 | 疾患によってもたらされた損失 (DALYsを用いて測定 単位:100万) |
トータルに対する割合 |
| 虚血性心疾患 | 8.9 | 9.0% |
| うつ病 | 6.7 | 6.8% |
| 循環器疾患 | 5.0 | 5.0% |
| 飲酒 | 4.7 | 4.7% |
| 交通事故 | 4.3 | 4.4% |
| 肺癌&上気道の癌 | 3.0 | 3.0% |
| 痴呆&中枢神経系の変性疾患 | 2.9 | 2.9% |
| 変形性関節症 | 2.7 | 2.7% |
| 糖尿病 | 2.4 | 2.4% |
| 慢性閉塞性肺疾患 | 2.3 | 2.3% |
この報告によると、うつ病による社会全体の損失は全疾患のうち6.8%を占め、虚血性心疾患に次いで第2位となっています。意外かもしれませんが、うつ病が社会にもたらす影響は非常に大きいのです。
うつ病による人生の損失を抑えるためには「適切な治療」が重要
うつ病は、抗うつ薬や心理療法などの適切な治療を受けることで、大部分の方が完治します。しかし実際には、うつ病が疑われる人の半数以上は病院での治療を受けていません。精神科の受診経験がないことから抵抗を感じたり、うつ病と診断されることへ不安があったりすることが理由として考えられます。
しかし、うつ病は放置していて自然によくなることはまれです。症状は悪化するケースが少なくなく、結果的に治療に時間がかかることになります。一度精神科を受診し、相談することが大切です。
うつ病は決して珍しい病気ではありません。一生のうちにうつ病にかかる人は、少なく見積もっても15人に1人と考えられています。普段より元気が出ずつらい状態が続く場合は、うつ病の可能性があること、早期の対処が重要であることを、頭の隅に置いておくことが重要です。







