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「地下室マンション」問題の背景と法律の限界

首都圏における新築マンション供給戸数がいまの2倍ほどの水準だった2000年頃、「地下室マンション」が大きな騒動になっていました。その後はこれを規制する条例などができたものの、現在でも考えておかなければならない問題がありそうです。(2017年改訂版、初出:2016年12月)

執筆者:平野 雅之


もうだいぶ前のことになりますが、「地下室マンション」の問題がテレビや新聞で繰り返し報道されていたのを覚えているでしょうか。横浜市などで傾斜地を利用した「地下室マンション」をめぐる近隣トラブルが、大きな騒動へと発展していたのです。

その騒動を契機に、横浜市では「地下室マンション」の建設を規制する条例が2004年6月に施行され、同様の動きが他のいくつかの自治体へも広がっていきました。その後あまり大きなトラブルは頻発していないようですが、依然として問題が生じているところもあるでしょう。

2016年11月には、横浜市で建設中の「地下室マンション」をめぐる訴訟で、東京地裁は民間の検査機関による建築確認を取り消す判決を出しました。

「地下室マンション」と聞いてもあまりピンとこないという人のために、簡単な説明をしておきましょう。傾斜地などに建築をする際には基準となる地盤面の算定方法があり、その基準面より上は地上階、基準面より下は地下階となります。

そうすると、たとえば見た目は8階建てでも、法律上の扱いは地上3階地下5階建てというようなマンションができあがってしまうわけです。

建物の高さ制限については地上階を対象とするため、本来であれば3階建て程度しかできないはずの地域に、突如として8階建てと「同じように見える」マンションが出現するのですから、近隣住民が反対するのも当然のことでしょう。

規制逃れのために地盤面の算定方法などで抜け穴を探した例もあるでしょうが、法律の規定どおりでも「地下室マンション」は可能な場合があり、違反していなければ行政側も原則として許可せざるを得ないのです。もちろん、近隣に対する配慮不足は否めませんが……。

そのような事態が起きた背景には、1994年の建築基準法改正があります。住宅の地階部分に関する容積率の規定が緩和されてマンションにも適用されたのですが、建築基準法ですから全国一律で緩和が実施されました。

建築基準法改正の目的は「土地の有効利用を図ること」でしたが、改正議論のなかでは、おそらくこのような「地下室マンション」の事態を想定していなかったでしょう。

「地下室マンション」の問題にかぎらず、全国一律で適用される法律では、地域の特性によって抜け穴も生じやすくなります。

法律の抜け穴によって大きな社会問題が生まれ、それに対処するために新たな条例が作られるなどすれば、該当する建物は「既存不適格建築物」として取り扱われることにも注意しなければなりません。

「うまいこと抜け穴を見つけたな」などと感心しながら物件を買えば、新たな条例や法改正などによって資産性を大きく損なうことにもなりかねないのです。

全国共通の法律には限界があるため、それを補完するためにそれぞれの地域の実情に即した条例が制定されるわけですが、「その自治体にどのような条例があるのか」自体が分かりづらい例も多いでしょう。

とくに、建築目的で土地を購入するときには注意が欠かせません。地元の不動産会社を通して地元の物件を買う場合は大丈夫かもしれませんが、そうでない場合は条例などの見落としがないように細心の注意を払うことが大切です。


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2007年3月公開の「不動産百考 vol.9」をもとに再構成したものです)


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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