自分が仕事に対してどのような価値を求めるか
自分の成長ステージなどにより、最適な働き方は違う
なぜなら、問題の本質は労働時間の長さではなく、自分が目指す姿、家庭環境などプライベートの状況、自分の成長ステージなどにより、最適な働き方は違うし、それも変わっていくものだからです。
体力がある時期かない時期か、新人かベテランか、新しい挑戦かルーチンか、子育てや親の介護が必要な時期か、独身か家庭持ちか、家が会社の近くか遠いのか……。
あるいは、仕事に対するスタンスによっても、ストレスと感じるか、充実感を覚えるか違ってきます。私個人の経験では、仕事が楽しくてのめりこんでいるときは、長時間労働してもさほど疲れません。
いや、疲れることは疲れるのですが、へたり込んだりため息をつきたくなるような疲れではなく、達成感のある爽やかな疲労とでもいうのでしょうか。これが、ハイプレッシャーな仕事が長期間続くと、呼吸が浅くなって動悸も速くなり、寝ても疲れが取れないという状況になります。
もちろん、人を使う側、つまり企業サイドとして、従業員に負担を強い過ぎない労働環境を整備するのは結構なことです。
しかしそれは経営者や幹部が経営マターとして考えることで、私たち個々の労働者はまた別の視点で考える必要があります。それは自分が、仕事に対してどのような価値を求めるか、です。
それによって最適な働き方は千差万別にもかかわらず、全員に同じような働き方を強いる昨今の風潮には疑問を持っています。
私の場合で恐縮ですが、私が20代から30代半ばのころは、「自分の実力を高める」ことが最優先であり、能力の劣る自分が抜きん出るためには、人よりよけいに働くしかありませんでした。
能力を高めるのにもまた、負荷が必要
当時は体力もありましたから、コンビニ時代も経営コンサル時代も、起業したての時期も、1日15時間以上、土日も関係なく働いていました。そうやって、他人が1日に1の経験をするとしたら、自分は10の経験をする。他人がサイコロを1回振る間に、自分は10回振る。その結果、他人よりもたくさんの引き出しを持つことができ、40冊を超える書籍を出版できるほどのネタにつながっています。
40歳を迎えるくらいになると、今までよりも短時間でも質の高い仕事、短時間でもより適切な判断、同じ時間でも単価の高い仕事ができるようになりました。
そして現在、1日の実質的な労働時間は2~3時間程度、カフェでパソコンをちょこちょこいじって終わり、あとは好きなことをして自由に過ごしています。もちろん、まったく仕事をしない日もあれば、10時間ほどぶっ続けの日もありますが、自分が好きでやっていることなので苦にならないですし、基本的には自由にコントロールできます。それでも年収は毎年上がっています。
ではもし私が当時からワークライフバランスといって9時5時の勤務形態だったら、今のような働き方を実現できたかというと、正直自信はありません。かといって、今の年齢でかつてのような働き方をしたいかというと、それは遠慮したいです。
「質は量に転換する」という言葉を聞いたことがあると思います。
たとえばDM(ダイレクトメール)を封筒に封入する作業でも、1日100通入れる人と、1,000通入れる人とでは、そのスピードは後者のほうが速くなるのはわかりやすいと思います。あるいはフルマラソン完走という目標がある人が、上位選手でも2時間かかるにも関わらず、無理をしてはいけないと1日1時間のジョギングだけでその目標を達成できるでしょうか。
筋力をつけるには負荷を与えることが必要なように、能力を高めるのもまた、負荷が必要です。そして、そうすべき時期はいったいいつなのか。
それに私たちは今後、65歳を超えても仕事をして稼がなければならない時代に突入しようとしています。では今の社会が要請しているような働き方を続けた先に、自分はそのような人材になれるのでしょうか。
もちろん、終身雇用で解雇されたり会社がなくなるリスクがほとんどないとか、細々と暮らせればいいという人には関係のない話かもしれません。しかし、「働き方改革」というなんとなく美しい響きの言葉に流され、社会の圧力に同調してしまうと、下流へ改革させられるリスクをはらんでいます。
これは何も長時間労働をしろということではありません。健康を害しては元も子もありませんから。自分が目指す能力や収入、そして目指す姿があるとしたら、今の自分の働き方は、それを実現させる方法として適切なのかどうかを考えようということです。
私たち個人は、周りや社会風潮がどう変わろうと、会社がどのような勤務制度に変わろうと、自己責任において働き方を決める必要があります。
とはいえ、多くの人が短時間労働で終わってくれれば、人よりちょっとの努力で抜きん出られるチャンスが増えるわけですから、本コラムの読者にとっては望ましいことかもしれません。