≪2017年基準地価は上昇地域が広がる一方で一部に停滞も≫ |
2016年(平成28年)の基準地価(都道府県地価調査価格)が、国土交通省から9月20日に発表されました。
全国平均では、住宅地が前年比マイナス0.8%で25年連続の下落となりましたが、下落率は7年連続で縮小し、9年ぶりに1%未満となりました。さらに、商業地はほぼ横ばい(プラス0.005%)となり、9年ぶりに下げ止まっています。
全用途(林地を除く)の合計では、上昇が4,894地点(前年4,701地点)で全体の23.6%、横ばいが3,775地点(同3,513地点)で18.2%、下落が12,087地点(同12,586地点)で58.2%となりました。
全国的には依然として6割近い地点で下落が続いているものの、徐々に上昇地点が広がりをみせている状況だといえるでしょう。
ただし、3大都市圏ではいずれも上昇地点数が減少しており、着実に上昇地点が増加しつつある地方圏とは異なる動きも表れ始めています。
2016年の基準地価の様子を、もう少し詳しくみていくことにしましょう。
基準地価とは?
基準地価とは都道府県が判定するその年7月1日時点の土地価格で、1月1日時点における公示地価とともに土地取引の目安とされます。2016年の基準地数は、宅地が21,168地点、林地が507地点、合計21,675地点で、2015年よりも56地点少なくなっています。また、原発事故に伴い福島県では避難指示区域内の28地点で引き続き調査が休止されているほか、熊本地震の影響により3地点で調査が休止されました。
公示地価(2016年は25,270地点)が都市計画区域内を対象とするのに対して、基準地価では都市計画区域ではない住宅地、商業地、工業地や、宅地以外の林地も含んでいるため、全体の平均変動率は公示地価よりも小さめの数値になりやすいでしょう。
基準地価の詳細なデータは、国土交通省による「土地総合情報ライブラリー」でみることができます。また、基準地価と公示地価、路線価との違いについて詳しくは ≪路線価・公示地価・基準地価の違いを知る!≫ をご参照ください。
3大都市圏の基準地価は商業地が伸び、住宅地は足踏み
3大都市圏の住宅地平均はプラス0.4%で3年連続の上昇でしたが、上昇率は前年と同じです。2年前の2014年がプラス0.5%でしたから、上昇傾向の強まりはみられません。その一方で、商業地平均は2.9%(前年は2.3%)、全用途平均は1.0%(同0.9%)上がり、いずれも4年連続の上昇となっています。商業地は年々上昇率が大きくなっており、住宅地と対照的な動きをみせているといえるでしょう。
3大都市圏の住宅地では、上昇が1,749地点(全体の42.6%)となり、前年の1,839地点から減少しています。そのぶん、下落が前年の1,095地点から1,162地点に増加しました。
とくに、東京圏では前年に続いて下落地点の増加が目立つなど、地域による「二極化」も進行しているようです。
それに対して、商業地では1,016地点(71.7%)が上昇し、前年の1,004地点から少し増加しています。商業地では東京圏も含めて着実に上昇地点が増加しており、商業地と住宅地における地価傾向の違いも大きくなりつつあるようです。
また、地方圏では住宅地における上昇が1,328地点(12.5%)、商業地における上昇が617地点(16.9%)でした。3大都市圏に比べて上昇地点数の割合は少ないものの、増加スピードは3大都市圏を上回っているようです。
なお、1月1日時点の公示地価と基準地価の共通地点(住宅地1,147地点、商業地480地点)における半年ごとの推移では、東京圏の住宅地が前半、後半とも同じでしたが、大阪圏と名古屋圏の住宅地は後半のほうが上昇率は小さくなっています。
今年は東京圏で目立ち始めた「住宅地の減速感」が、来年以降は大阪圏や名古屋圏でも表れるかもしれません。
都道府県別平均では、神奈川県の住宅地が下落に
基準地価の都道府県別平均では、住宅地において宮城県、東京都、愛知県が4年連続の上昇、福島県と沖縄県が3年連続の上昇でした。また、大阪府が3年連続の横ばい、千葉県が2年連続の横ばい、福岡県が今年から横ばいとなっています。
その一方で、前年まで3年連続の上昇だった神奈川県が下落に転じたほか、福島県と愛知県は前年よりも上昇率が縮小し、岩手県、三重県、滋賀県、兵庫県、熊本県は前年よりも下落率が拡大しています。
商業地では、宮城県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府が4年連続の上昇、埼玉県、千葉県、滋賀県、京都府、沖縄県が3年連続の上昇、福島県が2年連続の上昇だったほか、石川県、広島県、福岡県が新たに上昇となりました。
また、兵庫県と奈良県が横ばいとなった一方で、三重県と熊本県は下落率が拡大しています。
2014年はすべての都道府県で住宅地、商業地とも下落率が縮小、上昇率が拡大、もしくは下落から上昇へ転じていたのですが、2015年は悪化(上昇率の縮小、下落率の拡大など)する県が表れ始め、今年はさらにそれが広がった印象です。
住宅地の上昇率が最も大きかったのは沖縄県の1.9%、商業地の上昇率が最も大きかったのは前年に続いて大阪府で、4.7%でした。東京都は2014年にいずれもトップでしたが、その後は2年連続で住宅地、商業地とも上昇率が2番目となりました。
その一方で、下落率が最も大きかったのは住宅地、商業地とも2014年、2015年に引き続いて秋田県でした。住宅地が3.4%(前年は4.0%)の下落、商業地が3.8%(前年は4.6%)のマイナスで、下落率の縮小は続いているものの、なかなか厳しい状況を脱していません。
東京圏の基準地価は、都心部と周辺エリアで温度差
東京圏の平均は、住宅地が前年と同じプラス0.5%で3年連続の上昇、商業地がプラス2.9%(前年2.3%)で4年連続の上昇でした。東京都特別区および人口10万人以上の市の住宅地における平均変動率をみると、東京23区および横浜市はすべての区が上昇となっています。しかし、多摩地域では青梅市が2年連続のマイナスで下落率も拡大したほか、川崎市麻生区は前年の上昇から下落に転じています。
また、さいたま市は岩槻区が下落に転じたのを除いて他の区はすべて上昇でしたが、千葉市は若葉区および美浜区が引き続き下落でした。
埼玉県と千葉県のその他の市では、おおむね前年と同じ傾向を示したところが多いものの、神奈川県では悪化した市も目立ち、前年は上昇だった鎌倉市、茅ヶ崎市が下落に転じています。
住宅地では全体的に地価上昇の足踏み感があるものの、東京23区平均は2.7%(前年2.1%)の上昇で、とくに千代田区は平均で10.0%の上昇となっています。地価上昇傾向も都心部と周辺エリアでかなり温度差があるといえるでしょう。
商業地は東京23区と多摩地域の市はすべて上昇、横浜市と川崎市もすべての区が上昇となっていますが、住宅地と同様に神奈川県で下落率が拡大したところもみられます。
また、商業地でも東京23区は4.9%(前年4.0%)の上昇だったほか、中央区が平均で10.4%の高い上昇率を示しています。
個別の地点では、上昇が1,863地点(住宅地1,151地点、商業地644地点、その他68地点)で全体の55.4%を占めましたが、2014年は59.4%、2015年は57.0%でしたから、徐々に減少している状況です。
そのぶん、この2年間で下落地点が増加しているわけですが、これは他の名古屋圏や大阪圏、地方圏ではみられない傾向であり、今後の動向にも注意が欠かせません。
東京圏の住宅地では、東京都千代田区六番町の地点における11.3%の上昇が最も大きく、上昇率の上位10位のうち千代田区が4地点、港区が2地点を占めました。それ以外に千葉県木更津市が3地点となっています。
商業地では東京都中央区銀座六丁目の地点における27.1%の上昇がトップであり、上位10地点のうち1位から5位までを「銀座」が占めました。外国人旅行者による消費活動も地価に大きく影響しているようです。
名古屋圏の基準地価は、住宅地と商業地で異なる動き
名古屋圏の平均は、住宅地が0.5%(前年0.7%)のプラス、商業地が2.5%(同2.2%)のプラスで、いずれも4年連続の上昇でした。住宅地は2013年から3年連続して3大都市圏の中で最も高い伸びとなっていましたが、今年は東京圏と並んでいます。商業地では地価の急騰が続き、前年と同様に上昇率の全国1位と2位を名古屋市内の地点が占めています。名古屋駅西口側の地点が32.3%、東口側の地点が32.0%の上昇でした。ただし、前年のトップは45.7%でしたから、ややスピードダウンしたといえるかもしれません。
個別の地点では、上昇が434地点(住宅地271地点、商業地149地点、その他14地点)となり、全体の53.1%を占めています。住宅地では49.7%の地点が上昇であり、これは3大都市圏の中で最も多い割合となっています。
人口10万人以上の市の平均変動率をみると、住宅地では名古屋市が1.4%の上昇(港区を除いて他の区はすべて上昇)だったほか、下落は半田市など3市にとどまり、12市が上昇でした。商業地でも名古屋市のほか11市で上昇しています。
ただし、名古屋市でも住宅地における上昇率の鈍化がみられます。ここ数年、住宅地の平均上昇率は名古屋市が最も高い状態が続いていましたが、今年は日進市、みよし市などいくつかの市の上昇率が名古屋市を上回りました。
その一方で、名古屋圏における上昇率上位10地点のうち、商業地ではすべての地点を名古屋市が占め、そのうち6地点が20%以上の上昇となっています。住宅地と商業地で異なる動きが表れ始めたといえるでしょう。
大阪圏の基準地価は、住宅地が依然として動かず
大阪圏の平均は、住宅地が前年に引き続き0.0%(横ばい)でした。その一方で、商業地は3.7%(前年2.5%)のプラスで4年連続の上昇となり、前年に引き続き上昇率は3大都市圏で最も大きくなっています。大阪圏内の上昇は581地点(住宅地327地点、商業地223地点、その他31地点)です。住宅地の上昇は28.8%にとどまり、東京圏や名古屋圏に比べてかなり出遅れ感もあるでしょう。
人口10万人以上の市の平均変動率では、住宅地において大阪市、京都市、堺市、神戸市がいずれも上昇だったものの、大阪市の4区、京都市の2区、神戸市の3区が依然として下落してます。周辺の都市でも、下落の続く市が多い状況に変わりありません。
商業地では大阪市中央区、北区、西区、福島区、浪速区が2ケタの上昇となり、中心6区の平均では12.8%の上昇でした。京都市中京区でも2ケタの上昇を記録しています。
大阪圏の住宅地における上昇率上位10地点では、大阪市、京都市、神戸市、池田市、箕面市などが並んでおり、特定のエリアに集中しているわけではありません。
それに対して商業地における上昇率上位10地点は、前年と同じく6地点が大阪市、4地点が京都市の地点であり、この2市に集中する傾向がみられます。大阪市中央区南船場三丁目の28.9%を筆頭に、10地点が20%以上の上昇となりました。
地方圏の基準地価は多くの地域で改善が進む
地方圏の平均は、住宅地が1.2%(前年1.5%)のマイナスで24年連続の下落、商業地が1.1%(同1.6%)のマイナスで25年連続の下落でしたが、下落率は5年連続で縮小しています。また、国土交通省が「地方中枢都市」として区分する札幌市、仙台市、広島市、福岡市の4市平均では、住宅地が2.5%(前年1.7%)の上昇、商業地が6.7%(同3.8%)の上昇となり、前年に引き続きいずれも3大都市圏の上昇率を上回りました。
地方圏における上昇は前年の1,764地点から2,016地点(住宅地1,328地点、商業地617地点、その他71地点)に増えました。依然として71.7%の地点では下落が続いているものの、住宅地における上昇に減速感がみられる3大都市圏とは対照的に、地方圏では着実に下げ止まり、上昇傾向が広がりつつあるようです。
住宅地では、北海道倶知安町の地点が全国1位となる27.3%の上昇、金沢市本町二丁目の地点が2位となる15.6%の上昇でした。また、全国の住宅地における上昇率上位10地点のうち8地点を地方圏が占めています。
しかし、前年は全国の上昇率上位で8地点を占めた福島県いわき市が、今年は2地点にとどまり、被災地の地価上昇は落ち着きを取り戻しているようです。
商業地の上昇率で全国の上位10位以内に入ったのが地方圏では石川県金沢市の1地点だけでしたが、札幌市中央区・北区、福岡市博多区では平均で2ケタの上昇となるなど、地域によってかなり温度差もあるでしょう。
地方圏における人口10万人以上の市の平均変動率は、住宅地で28市(前年22市)、商業地で35市(同28市)が上昇となりました。地方圏でも、商業地が先行して上昇傾向を強めている例が多くみられます。
なお、今年の基準地価では2ケタの下落地点が、全用途でようやくゼロとなりました。
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