ゼロ・カーボンを目指した街づくりを展開
取材してきたのは、「みんなの未来区 BONJONO(ボン・ジョーノ)」。「環境未来都市北九州市」の主要プロジェクトとして、小倉北区のJR城野駅の北側で開発中の街です。約18.9haの土地で戸建て、分譲マンション、賃貸住宅、病院、商業施設という複合的な開発が進められています。現在、戸建て街区の一部と、病院、商業施設棟などが完成していますが、最終的には住宅だけで約850戸(うち300戸は既存建物のリニューアル)の街となるといいます。その特徴には大きく以下の二つがあります。
・「ゼロ・カーボン先進住宅街区」の形成
・「タウンマネジメント」による街の運営
まず、ゼロ・カーボンについてですが、これは地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2、カーボン)の排出を街として大幅に削減し、概念上ゼロに近くするもの。この街では、戸建て住宅で100%以上、集合住宅60%以上の削減を行い、全体として理論上100%を目指すとしています。
ですので、全ての戸建て住宅には太陽光発電システムと家庭用燃料電池「エネファーム」のほか、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)による「スマートハウス仕様」が採用されています。
エネファームは、都市ガスなどから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させ、電気を作ると同時に、発電の際に発生する熱を活用してお湯を作るもので、非常にエネルギー効率の高い給湯システムです。
HEMSとは、各住戸で使うエネルギーを管理し、モニターなどで発電や使用の状況を「見える化」するもので、時間ごと、日ごと、月ごとの比較が可能になり、エネルギーのムダがわかるわけです。
この街ではさらに、今後本格化するエネルギー自由化によるエネルギーの一括購入や、住民の間で賢いエネルギーの使い方を追求するといった取り組みを行うことで、CO2排出量を街全体でゼロにしようとしています。
街の魅力を高めるタウンマネジメントを展開
次にタウンマネジメントですが、これは上記のエネルギーに加え、グリーン(緑化)、タウンセキュリティの三つで構成されます。そして、このタウンマネジメントが、表題の「トリセツ」と強く関わりを持っています。まず、エネルギーについては、街全体のエネルギーをCEMS(コミュニティ・エネルギー・マネジメント・システム)で管理しています。これはHEMSの街バーションで、戸建て、マンション、集合住宅のみならず、病院や商業施設を含めたエネルギーの情報が把握できるシステムです。
つまり、この街では住民の方々は必ずHEMSを通じたCEMSの管理下に入り、エネルギー削減のための努力をしなければいけないということです。そのためのコミュニケーションツールとして、街独自のポータルサイトがあり、省エネの講習会も行われるといいます。
次にグリーンマネジメントですが、これは住民全体で遊歩道や公園などの植栽、花壇などを手入れし、常に美観を維持するというものです。つまり、自分の住宅の周りだけきれいにしておけばいいしておけばいい、ということではないということです。
住民の方々は住宅地の管理組合に必ず参加し、景観協定というルールの下で街の維持管理に取り組む必要があるわけです。景観協定には、住宅などの高さや大きさはもちろんのこと、植栽などの種類や管理の仕方などが盛り込まれたものです。
最後に、タウンセキュリティに関するマネジメントについては、公園や街角に防犯カメラを設置することはもちろんのこと、建物の配置や植栽のあり方などについても防犯に適した配慮が行われています。このため、例えば商業施設もオープン外構、要するに周り様子が分かりやすいようになっています。
管理組合が主体となって地域コミュニティを形成
さて、このようなマネジメントの仕組みや体制は、管理組合である「一般社団法人 ひとまちネット」が主体となって行われます。構成するのは住民の方々はもちろんのこと、病院や商業施設も含まれます。そして、この組織が「まちなみ部会」、「エネマネ部会」などの専門部会など(計画案)を立ち上げ、魅力的で資産価値の高い住宅地の形成に努めるというスタイルがとられています。また、住民の方々などから選出された「ひとまちネット担当マネージャー」がマネジメント活動をサポートします。
中でも特徴的なのが、「くらしラボ」という組織です。賛助会員であるガス会社や病院、造園会社などのサポートにより、住民の方々の生活向上やコミュニティ育成のためのサークル活動のようなものを展開します。
その拠点となるのが「暮らし製作所 TETTE」という集会施設。ここには、図書コーナーのほか、キッズコーナーキッチンやDIYなどの設備が揃っています。前述した賢いエネルギーの使用の追求などといった勉強会など様々なイベントが展開されるとのことです。
ちなみに、この施設は一般の方にも開放されますが、それは閉鎖的な街にならないための工夫です。そこがセキュリティをより重視した海外のいわゆる「ゲーティッドタウン」と呼ばれるものと異なる点です。
ところで、「ひとまちネット」などの活動には当然、費用がかかります。ですから、例えば住民となる方々は、住居の形式にかかわらず基金として1戸あたり10万円、月会費1700円を負担する必要があります。
ということで、この街に住むにはコミュニティ活動などの参加義務のほか、住宅購入費用や賃貸費用意外にも金銭的な負担もしなければならないというわけです。それは、普通の暮らしをしている私たちにとって、なかなか大変なことと思われます。
ルールと義務を守るからこそ資産価値の高い街となる
しかし、そうしたことも含めたルールや義務を守って暮らすからこそ、地域コミュニティがしっかりと形成され、それは仮に災害が発生した際などの助け合い、つまり安心安全につながり、最終的には資産価値の高い住まいのということにつながるわけです。また、そうなるためには街に住む前からしっかりとルールを理解して納得しておくことが必要となります。それが表題にあるトリセツで、ここでは「BONJONO くらしのトリセツ」としてまとめられ、住民の方々全てに配布されています。
ここまで徹底した街づくりとその運営は、北九州市のほか、賛助会員である企業、「タウンマネジメント運営協議会」という外部の専門家などが関わっているからできることで他にはあまり例がないように思われます。
しかし、この記事を通じて皆さんに最も知っていただきたいのは、実は規模や内容は異なりますが、このようにしっかりとしたルールづくりを行う、または行った住宅地というのは最近結構増えていることです。
例えば、景観や街並みに関する協定などを策定した上で、それに理解と納得した方ではないと購入できない住宅地というのは全国各地にあり、共通して建物や植栽に統一感があり、美しい街並みが整えられています。
それは、住宅地を供給する事業者が何らかの仕掛けをし、住民コミュニティづくりに関わり続けているからです。また、そうすることで魅力が維持され、新しい住民が流入し、かつてのベッドタウンのように高齢化や過疎化を免れることができるからです。
住宅取得、あるいは住むということ自体には様々なスタイルがあって良いのですが、もし皆さんが資産価値の高い住まいの獲得を目指そうとするなら、街のルールに注目してみてください。それを守ることはなかなか大変なことですが、きっと長期的な満足につながるはずです。