糖尿病

糖尿病と腎臓病が両方ある場合の食事のコツ…「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」活用法

【管理栄養士が解説】糖尿病と腎臓病の食事療法は、反対のアドバイスをされがち。糖尿病は腎不全の合併症が起こることがありますが、2つの病気がある場合は何を優先させるべきでしょうか。日本糖尿病学会から発行された「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」の活用法をご紹介します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

糖尿病と腎臓病の食事療法の違い2016年6月に

糖尿病と腎臓病の食事療法の違い

糖尿病性腎症は糖尿病と腎臓病の食事療法を融合させて行います。考え方がまったく違うので混乱してしまう人も多いようです。新しい交換表を使ってどのように食事療法を行えばよいか、整理してみましょう。


「糖尿病と腎臓病の食事療法では、正反対のことを言われる」という声を聞きます。管理栄養士の中でも「糖尿病の食事療法を指導している患者様が悪化してしまい、糖尿病腎症の食事に移行する際、混乱が生じるケースが多い。いかにして混乱を生じさせないかがプロの手腕だ」という人もいます。

実際、「糖尿病の食事療法は“エネルギー制限”であり、食事を制限することである」とされ、「食事量は1日○○キロカロリー以内におさめるように」といった指導がなされることが多いように思います。

一方で「腎臓病の食事療法は“たんぱく質制限”と“カリウム制限”であり、エネルギーはさほど抑える必要はありません」といった指導です。

そのため、糖尿病性腎症の患者様は「糖尿病だから“エネルギーを制限”する必要があるはずなのに、これからは腎臓病もあるのでエネルギーはしっかり摂るようにと言われた。どういうことだろう? 」と混乱するのです。

実はこれにはきちんとした理由があります。少しややこしいので、ゆっくり読んでくださいね。
 

糖尿病の食事療法のポイント

まず、糖尿病の食事療法について正確に説明してみましょう。体内に蓄積されたエネルギー量を一定にするため、

「食事で摂取するエネルギー量=消費エネルギー量(運動、基礎代謝などすべてを含む)」

の数式が成り立つ必要があります。しかし、糖尿病の患者様は体内にエネルギーを蓄積しすぎてしまい、血液の中にまで「血糖」としてエネルギーを蓄積している状態です。そのため、

「食事で摂取するエネルギー量>消費エネルギー量(運動、基礎代謝などすべてを含む)」

の数式が成り立ってしまっていることがほとんどです。そこで、「適正なエネルギー量を摂取するためにエネルギー制限をして下さい」と言われるのです。ところが、この説明をほとんどの栄養士の話術では患者様に伝えきれず、説明の途中で患者様を混乱させてしまうため、「糖尿病だから太っちゃまずいので、エネルギー制限ね!」と短く説明してしまうのです。

または、昨今は流行の考え方である「カーボカウント(糖質制限)」で指導されている場合もあると思います。この場合はエネルギーと考え方は同じですが、短縮すると「血糖値を上げるのは糖質だから糖質を制限して下さい」という指導がなされていると思います。
 

腎臓病の食事療法のポイント

一方、腎臓病の食事療法は、腎臓に負担をかけやすいたんぱく質とナトリウム、カリウムをセーブします。この中で一番の問題は「たんぱく質」です。

たんぱく質には
 
  1. 血肉など体成分の材料となる
  2. エネルギー源になる

という2つの大きな仕事があります。このうち「1)血肉など体成分の材料となる」仕事の代わりができる栄養素はありません。しかし「2)エネルギー源になる」は炭水化物、脂質で代用が可能です。体成分になる量はどのくらいかというと、体重1kgあたり0.8~1.0g程度ですので、「1)血肉など体成分の材料となる」の分のたんぱく質は制限しているといっても、摂る必要があります。そのため、「2)エネルギー源になる」分のたんぱく質摂取量を減らすことになります。ここで気をつけなければならないのは、エネルギー源のたんぱく質を制限するので、「るいそう(著しい痩せ状態)」にならないよう、エネルギー源を確保する必要があります。ここで使えるのは糖質または脂質です。そのため、糖尿病性腎症では、糖尿病のときに糖質は摂りすぎないようにと指導された、脂肪は太る……、でも食べなさいといわれた、というようなジレンマが生まれるのです。

厳しいようですが、糖尿病性腎症の患者様はこのジレンマのような糖尿病と腎臓病の食事療法を両立しなければなりません。そのため非常に難易度の高い食事療法が求められます。
 

「糖尿病性腎症」の食品交換表の活用法

■ポイント1:「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」をベースに書かれている
病院で糖尿病の治療をする際、腎臓機能についても同時にチェックをしています。糖尿病性腎症の病気は5つの病気に分かれており、第1期、第2期は腎臓に負担がかかっていないとみなし「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」を用います。第3期~第5期は腎臓に負担がかかっているため、「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」を用いることになっています。この考え方に添えば、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」を使っていた人が、「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」を使うことになります。

そこで、今回の改訂で、もっとも編集委員の先生方が力を入れたのは「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」から「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」への移行をスムーズに行うことです。実際、編集委員長の講習会での説明では「「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」の考え方がしっかり身についている人にはさほど難しくありません。」とのことでした。(私には患者様に実行していただくにはいささか手間がかかりすぎるのではないかと感じられましたが……)。

基礎となる「「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」については「糖尿病食事療法のための食品交換表…改訂後のポイント」で詳しく説明しました。ご参照下さい。

■ポイント2:表3(たんぱく質)、表4(乳製品)の配分が減り、表1(糖質)、表5(脂質)の配分が増える!
「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」が分かっていれば難しくないといわれても、異なるところがあります。最初に注目すべきは、表1~表6の配分です。「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」を理解している人の中でも、気持ちの切り替えが必要な人がいます。炭水化物50%、55%の配分を使っていた人です。

「糖尿病性腎症の食品交換表 第3版」の配分例は、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」で最も糖質を多く摂っていた60%よりも多くの単位数が表1(糖質)に配分されており、面食らってしまうのではないでしょうか。

先にも説明しましたが、糖尿病の患者様で腎臓に負担がかかっている場合、1)血糖値を下げること、2)腎臓を守ることの2つを両立させることが最大のポイントになります。ここまで病気が進行すると、無投薬で治療をすることはできませんので、薬を使うことになります。薬の種類を考えると、血糖値は薬で何とか対処できますが、腎臓を守るための薬は高血圧などの周辺症状を改善する薬しかありません。食事療法では薬でカバーし辛い腎臓を守ることが優先されます(苦渋の選択ですが)。そこで、表3(たんぱく質)、表4(乳製品)の配分を減らし、表3と表4で補いきれないエネルギーの分として、表1(糖質)と表5(脂質)の配分を増やすのです。そのため、「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」と配分が異なるのです。

「カーボカウント」を勉強してきた人には「糖質はどうなるの?」と心配になる人がいると思いますが、交換表の配分の通りに行えば、炭水化物量はほぼ一定になっています。

■ポイント3:表1、表3、表5のたんぱく質量区分が大切!
2つめに、たんぱく質含量が食品によって大きく異なる表1(糖質)、表3(たんぱく質)、表5(脂質)の3つについて、たんぱく質含量の少ない順にA、B、Cのたんぱく質量区分にグループ分けしました(表5はA、BのみでCはありません)。右図のように、各表によってA、B、Cのそれぞれのたんぱく質量区分に含まれるたんぱく質含量が異なりますが、対応はすべて同じです。
1単位に含まれるたんぱく質量

1単位に含まれるたんぱく質量

これを使ってさらに表1、表3、表5のそれぞれの中で、配分を考えることになります。

例えば、「1日23単位(1840キロカロリー、たんぱく質50g)の指示が出ている人は、表3から2単位を摂りますが、そのうち0.5単位をたんぱく質量区分Aから、1.5単位をたんぱく質量区分Bから摂るようにし、たんぱく質量区分Cは摂らないように気をつける」といった具合です。
学校でたとえるなら、1学年(食品)をクラス分け(表)し、さらに各クラスを班分け(たんぱく質区分)するとイメージすると分かりやすいと思います。

さらに、表6(ビタミン、ミネラルを多く含む食品)の100gあたりたんぱく質3g以上を含む食品は青色の文字で表記されています。余力があったらこちらも注意して見るとよいでしょう。

■ポイント4:ナトリウム量は備考欄に! カリウム量はイエロー、レッドのKマークで表示!
塩辛いものを控えることが大切なのは糖尿病の食事療法でも同じことですので、ナトリウム量に気を使うことは、今まで通りです。特に食塩含量の多い食品が含まれる表3と調味料には1単位に1g以上の食塩が含まれる食品に盛り塩のマークがついていますので参考にして下さい。
次に「カリウム量」です。「腎臓病治療食の人でも生でOK! 低カリウム野菜」でもご紹介しましたが、腎臓に負担がかかっている人はカリウム摂取量を減らすことも大切です。厳密に腎臓病食を作る場合には、カリウム摂取量も気をつけなければなりませんが、たんぱく質摂取量が増えるとカリウム摂取量も増えるので、たんぱく質摂取量をしっかり守ることができれば、カリウムにはさほど気を使わなくても大丈夫、とも言われていますので、「まずはたんぱく質摂取量をしっかり計算し、余力があればカリウム含量にも気をつける」といった程度で始めればいいと思います。

カリウム含量の多い食品の見分け方としては、表5以外の食品には1単位あたりカリウム300mg以上を含む場合はイエローのKマーク、1単位当たりカリウム500mg以上を含む場合はレッドのKマークがついています。選べるようであればKマークがついていない食品を選ぶようにするとよいでしょう。

糖尿病患者様の3人に1人は腎臓病を合併するといわれています。腎臓透析となる患者様で一番多いのは、糖尿病性腎症の患者様だというデータもあります。しかし、糖尿病は治療をしっかり行えば進行を遅らせたり食い止めたりすることはできます。腎症を合併しなければ、このややこしい交換表を使う必要はありません。

交換表を製作された先生方には申し訳ないのですが、糖尿病治療の現場にいる管理栄養士の端くれとして、この交換表は「あまり売れない交換表」となってくれることを願ってやみません。
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