丁寧に言おうとする余りに起きる“ 過剰敬語 ”の例文
<目次>
言葉は一語一語それぞれに敬語を用いればより丁寧になりますが、丁寧に言いたいと思うあまりに、おかしな敬語になってしまうといった例も見られます。また、言葉の中には「お」や「ご」が馴染まない語というものもあります。
丁寧に表現したいという気持ちから生じるものですので、相手を怒らせるという類のものではないかもしれませんが、聞き手にとっては「何だか変?」と感じたり、誰に敬語を使っているかわからないような例は、聞いていて不快なこともあります。
よく使う言葉、耳にする言葉の中で、気をつけないとおかしな表現になりかねない言葉や過剰な敬語の例と、それぞれの適切な言い換え例を見てみましょう。
■実は変? と思われているかもしれないやり“過ぎ過剰敬語”の例
【1】「田中様がいらっしゃられました」
【2】「○○の映画はご覧になられましたか」
【3】「こちらのセットにはコーヒーか紅茶がお付きします」
【4】「社長のお車が故障なさったそうで」
【5】「そちらは昨日から雨が降っていらっしゃるそうですね」
【6】「お嬢様がお試験に合格なさったと伺いましたが」
【7】「ソフトドリンクは、ほかにお紅茶やおジュースもございます」
【8】「貴書本日落手いたしました。幸甚の至りに存じます」
【9】「後ほどメールで送らさせていただきます」
【10】「昨日友人の結婚式でスピーチをさせていただいたのですが」
それぞれどのような点がおかしく、過剰なのでしょうか。まずは、その理由から見ていきましょう。
同じ種類の敬語を重ねる“ 二重敬語 ”は誤用
【1】【2】 は「二重敬語」と言われるもの。【1】の「いらっしゃられる」を例に説明しますと、次のようになります。「田中様が来た」ということを尊敬語で言いたいものと考えられますが、「来る」の尊敬語は「いらっしゃる」か「来られる」で、本来使うべきはそのどちらかひとつ。それにも関わらず、ここでは「いらっしゃる」に「れる」を加えて「いらっしゃられる」として同じ種類の敬語を二重に、過剰に用いてしまっています。
「来る」の尊敬語としては、ほかにも「お越しになる」や「お見えになる」などがありますが、こちらも「お越しになられる」、「お見えになられる」としてしまうと誤用になります。
それは誰への敬語? 敬意の対象を誤るとおかしな言葉に
【3】【4】【5】は、本来は高めなくてもよい対象に過剰な敬語を使ってしまった誤りです。【3】は「お付きします」の部分が誤用です。「お付きする」の“お(ご)~する”は謙譲語の形。ですから、「部長にお渡しする」「部長をご案内する」のように「○○に」「○○を」にあたる人物を高める働きをもちます。例文の「お付きします」では、セットやランチなどの品物を高めてしまうおかしな言葉となってしまいます。
【4】【5】は、相手に関係するもの・事柄であるから、より丁寧に表そうと思ってのものと考えられます。相手に関係が深いものという意味では、例えば「社長はお車を数台お持ちでいらっしゃる」などは正しい例です。こちらは、車ではなくて、車の持ち主である社長を高める働きをもつため誤用ではありません。
しかし、例文【4】のような「お車が故障なさった」や「お車のお具合が悪い」などとなりますと、いくら車が相手の所有物であっても直接車そのものを高めてしまう表現になるため不自然です。【5】の「雨が降っていらっしゃる」も、相手の居場所や土地の様子を表してはいても、こちらも雨を高めてしまうため、同じく不自然です。
【6】は「お試験」が過剰。ご入学なさった、ご入学祝いなどは自然ですが、中には「お」や「ご」が馴染まないものもありますから、何にでも付けてしまうとおかしな響きになってしまうことがあります。【7】も「お」の過剰使用の例。お紅茶と呼ぶ人はいるかもしれませんが、響きが自然かというと個人差があったりむずかしいところでしょう。通常、ジュース、スプーン、ナイフ、パンなどのカタカナ語には「お」「ご」は付きません。
たとえ意味が正しくても、漢語の多様は堅苦しくなってしまうことも
【8】の「貴書」「本日」「落手」「幸甚」などは、言葉としては正しいものです。しかし、相手との親しさの度合いや使い方によっては、堅苦しい、仰々しいなどの印象を与えてしまうこともあります。「貴書」は相手を敬い、相手の書いた手紙や本などを指す語。「落手」は、手紙や品物などを受け取り、手に入れることを言います。いずれも漢語で表現したもので改まった感がありますので、話し言葉よりは手紙などの書き言葉として用いられることが多いものです。
先に述べた通り、これらは決して間違いではありません。しかし、相手との関係や場面によっては、和語(大和言葉)に言い換えるほうが柔らかく好ましいこともあります。
ビジネスの手紙やメールでは漢語を用いることも多いですが、日常の場面で「最大の緊要な課題」や「喫緊の問題」など、漢語や専門用語を濫用するのは聞き手には不自然であったり耳障りであったりするかもしれません。うまく使い分けましょう。
「させていただく」の過剰使用は不快に思う人が多いもの
【9】【10】は「(さ)せていただく」の過剰な、不自然な使用例です。【9】は、「送らさせて」の「さ」が余計なため、「さ入れ言葉」などとも呼ばれます。【10】はスピーチを依頼された家族などに対して言うのならばわかりますが、関係のない人に向かって自分がスピーチの依頼を受けたことを話すとすれば、そこにいない依頼者を高めてしまい、聞き手には不自然さや不快感を与えてしまうおそれもある表現です。
正しい、好ましい言い換え例文は?
【1】「田中様がいらっしゃられました」→「田中様がいらっしゃいました」「お見えになりました」など。
【2】「○○の映画はご覧になられましたか」
→「ご覧になりましたか」
【3】「こちらのセットにはコーヒーか紅茶がお付きします」
→「コーヒーか紅茶が付きます」
【4】「社長のお車が故障なさったそうで」
→「故障したそうですが」「故障してしまったとのことですが」「故障したと伺いましたが」など。
【5】 「そちらは昨日から雨が降っていらっしゃるそうですね」
→「雨が降っているそうですね」「雨だそうですね」など。
【6】「お嬢様がお試験に合格なさったと伺いましたが」
→「試験に合格なさった」
【7】「ソフトドリンクは、ほかにお紅茶やおジュースもございます」
→「紅茶やジュースもございます」
【8】「貴書本日落手いたしました。幸甚の至りに存じます」
→「お手紙先ほど頂戴いたしました(or いただきました)」「(勿体ないほどのお言葉)たいへんありがたい思いでございます」「この上ない光栄( or 幸せ)と感じております」など。
【9】「後ほどメールで送らさせていただきます」
→「メールで(or メールにて)送らせていただきます」「メールでお送りいたします」など。
【10】「昨日友人の結婚式でスピーチをさせていただいたのですが」
→「友人の結婚式がありスピーチをしたのですが」
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