奈良に地産地消のフレンチ「ラ・トラース」が誕生!
「ラ・トラース(LA TRACE)」の外観。
ここ数年の外国人観光客の増加に伴って、観光客誘致のプロモーションに力を入れる奈良県。一般的に奈良といえば「鹿」や「大仏」の他にも、自然と一体化した雄大な奈良ならではの世界遺産が多いことでも知られていますよね。ですが、「食」の分野において、料理人さん達の食指をそそる素晴らしい素材の宝庫だということは、まだまだあまり知られていないようにも思います。
そんな優れた生産者さん達が多い奈良に、東京の人気フレンチ「カラペティバトゥバ!(Quand l’appetit va tout va!)」を辞したシェフが、2016年6月に新店をオープンされました。シェフの名は佐藤 了さん。店名を「
ラ・トラース(
LA TRACE=フランス語で「足跡」という意味)」としたのは、ルーツを辿れる奈良の食材と、その生産者さん達に敬意を表しての命名とのこと。
カウンター席
日本でもトップクラスに優れた米の産地としても有名な新潟県魚沼市生まれの佐藤シェフは、まず東京に出られて調理師学校を卒業し、東京のレストランに7年勤務した後、フランスはブルゴーニュの「L'Esperance」や「Le Charlemagne」で計2年間の修業の後に帰国。乃木坂にある「レストランFEU」でスーシェフ時代を経て、今回の独立までは麻布十番の「カラペティバトゥバ!」でシェフを務められていました。新潟から東京、そして奈良に移って来られた訳ですが、独立の地として奈良を選ばれた理由の一つは奥様が奈良出身でいらっしゃるからとのこと。今回はその奥様と二人三脚での独立です。
こちらはテーブル席
店はJR奈良駅からほど近い、三条通りに面したところにあります。素朴な木のドアを入ると、店内はコテ仕上げの白い塗り壁に艶消しのフローリング、左手に延びるカウンターは無垢のタモ材で、カウンターの上部には吉野のヒノキという、とてもナチュラルな雰囲気。何と言ってもシェフが調理される過程すべてが見えるオープンキッチンのカウンター席が特等席ですが、テーブル席ももちろん用意されています。
ランチコース
パンは自家製のライ麦パン。バターの代わりに奈良の葛城高原にある「ラッテたかまつ」さんのケフィアヨーグルトが付いてきます。牧場絞りたてミルクを低温殺菌&ノンホモで作られたケフィアと自家製のライ麦パンですから、これは実に贅沢な美味しさです。
それでは、ランチコースからご紹介していきましょう。尚、(2016年7月現在)ランチは3,800円(税別)、ディナーは7,000円(税別)となっています。
・アミューズ
トウモロコシの冷たいムース
スターターは奈良県生駒市にある「ひらひら農園」さんの「トウモロコシ」を使った冷製アミューズ。下はトウモロコシのムース、上にはトウモロコシのスープという二層仕立てになっています。甘味と香り、そして素材そのものの味の濃さが素晴らしく、「ひらひら農園」さんの「とうもろこし」が持つ高いポテンシャルを余すことなく、活かしきった快作!
・前菜
ひらひら農園のいんげん、レモンヴィネガー、白と緑
こちらも「ひらひら農園」さんの「いんげん」を使った一皿。下には白いんげん豆のペーストが配置されており、まさに「緑」と「白」が織り成す「いんげん」尽くし! ドレッシングには円やかな酸味のレモンヴィネガー、そして周りにはパルミジャーノチーズが散らしてあり、この芳醇なコクと塩味が程好いアクセントになっています。全体的にシンプルな盛り付けですが、その味はとても繊細で瑞々しさに満ち溢れた美味しさがあるのです。
私の個人的な経験になりますが、「いんげん」でここまで感動したのは初めて。トリュフやフォアグラを使わずとも、食べ手を感動させるのがフランス料理の真髄。良質な食材の持ち味を引き出した美味料理こそ、本当の意味での職人仕事、優れた名人芸と呼べる料理なのだと思うのです。
先述したトウモロコシのスープもこの御料理も奈良の食材の良さを知り、敬意を表す作り手(シェフ)と、有機栽培で最高の食材を作り出す生産者さんとの繋がりが生み出したミラクルといっていいでしょう。
・お魚料理
さごし、大和野菜、ココナッツ、レモングラス
魚料理は「さごし」。下にはココナッツとレモングラスを使ったグリーンカリー風の香り高いスープ、そこに茄子やズッキーニ、ヤングコーン、オクラ等々の大和野菜を入れた料理です。低温で優しく熱入れされた「さごし」はとても柔らかく、しっとりとした舌触り。ローストした大和野菜も素材感が際立っていて、各個それぞれが活き活きとした味わいで食べていて実に心地良い。特にココナッツの円やかさが繊細な身質の「さごし」に寄り添うような相性の良さを発揮し、この組み合わせの美味には思わず唸ってしまいましたね。
・メインディッシュ
五條のばあく豚、茄子、万願寺とうがらし、ピメンデスプレット
そしてメイン料理は奈良県五條市の泉澤農園で作られている「ばあく豚」! ソースは茄子のピュレに豚の骨からとった出汁(フォン)を添え、旨味とコク深さが加味されています。その横には今が旬の「万願寺とうがらし」。その周りには「ピメンデスプレット」(エスプレットという名前の主にバスク地方で生産される唐辛子のこと)の粉末を散らしてあります。
この焼き色だけでも食欲を誘います。
「ばあく豚」は丁寧に精密に火入れされており、弾力のある肉質はもちろん、ほんのりと甘味さえ感じられる上質な脂身まで、素材の持ち味を極限まで引き出した感のある仕上がり。イマドキ料理にありがちな花もハーブも添えず、ただひたすらシンプルに一筋に素材の本質を見極めようとする姿勢と、高い実力と経験値があればこそ、ここまで突き抜けた美味料理になるのでしょう。豚も野菜もどれもが隙の無い完成度の高さで、食べ終わった後には爽快なほどの気持ち良さがありましたね。
・デザート
吉野野迫川村の沢わさび、マンジャリショコラ
デザートは奈良吉野の野迫川村産「沢わさび」のアイスクリーム! それに合わせるのは下に敷かれた「マンジャリショコラ」という組み合わせ。「沢わさび」にチョコレート? と一瞬思いましたが、食べてみると納得。マンジャリならではのフルーティな酸味が「沢わさび」の風味に見事に合うのです。
アイスクリームだけ食べると確かに「沢わさび」の強い風味があるのですが、マンジャリと合わせて食べると未体験の美味しさに食べる手が止まらない! こういう組み合わせで新しい味を生み出せる佐藤シェフ、さすがです。
・コーヒー又はお茶
羽間農園さんの「自然発酵紅茶」
食後はコーヒー、又は紅茶が選べます。コーヒーはFuglen(フグレン)のノルディックロースト(浅煎り)のコーヒー(この日の豆はBiftu Gudina)を使われており、紅茶は奈良県の大和高原都祁南之庄町にある羽間農園さんの「自然発酵紅茶」! 上写真はその羽間農園さんの「自然発酵紅茶」です。
標高500メートルという地で自然発酵で作られる紅茶の味わいは、身体が自然に受け入れるような優しい感じがしました。レストランで食事の後に、こういう本当に素晴らしい生産者さんの自然派紅茶が飲めるのは嬉しいですね。
自然派ガストロノミーと称したくなる一軒
奈良に素晴らしいレストランの誕生です。
素材重視をコンセプトとする佐藤シェフにとって、熱意ある生産者さん達が丹精込めて産みだした奈良の食材はまさに宝物。そして、素材の持ち味を存分に引き出した美味料理には、ビオを中心にしたワインがラインナップされ、ビオ&地産地消という、まさに「自然派ガストロノミー」と称したくなる料理世界。世界に向けて奈良を盛り上げて行きたいという意欲に満ち満ちた実力派レストランの誕生です。
<DATA>
・店名: LA TRACE (ラ・トラース)
・所在地: 奈良県奈良市大宮町2-1-5 カーサヤマグチ1F
・アクセス: JR西日本「奈良駅」西口から徒歩約3分
・地図:
Yahoo!地図
・TEL: 0742-33-4000
・営業時間: 11:30~14:00(LO)、18:00~20:00(LO)
・定休日: 水曜日&第一・第三火曜日
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