夫婦間あるいは親子間で不動産を売買するときには「時価」が原則です。時価よりも低い価額で売買すると、その差額について「贈与税」が課税されることになりかねません。
しかし、実際に「時価よりもどれくらい低ければ課税対象になるのか」といった明確な規定はなく、相続税法(贈与に関することは相続税法によります)では「著しく低い価額」と規定しているのにとどまります。
その一方で、所得税法の規定では「個人から法人への譲渡」において、「時価の2分の1に満たない価額」を「著しく低い価格による譲渡=低額譲渡」としています。
2007年8月23日に出された東京地裁判決では、時価の約8割の価額による親族間の土地売買に贈与税を課税したことが「違法」だとして、東京国税局の課税処分を取り消していました。
裏を返せば、時価の8割程度でも「著しく低い価格」だとみなして贈与税を課税したことが、それまでにも少なからずあったのでしょう。
時価の何割以下だったら課税するといった規定がなく、それ以前に、そもそも税務署が「時価」をどのように判断しているのかも不透明です。
夫婦間や親子間などの不動産売買がそれほど多いわけではないものの、おそらく類似のケースでありながらある税務署では課税され、ある税務署では課税されないといったことが日常的に起きているのではないでしょうか。
課税される場合でも、税額(課税対象額)が恣意的に変えられることがあるかもしれません。
毎年実施される税制改正で、内容は複雑さを増すばかりでしょう。分かりやすくて明快な「明朗会計」のために、しっかりとした規定の整備を望みたいところです。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2007年9月公開の「不動産百考 vol.15」をもとに再構成したものです)