ドーピングとは
世界的に禁止されているスポーツにおけるドーピング。普段使用している薬や栄養剤にも注意が必要です
最近は薬によるドーピングだけでなく、自己血液を輸血することによって酸素を全身に運ぶ能力を高める「血液ドーピング」、筋肉疾患を治すための遺伝子治療を悪用して細胞・遺伝子・遺伝因子・遺伝子表現の調整する「遺伝子ドーピング」などもありますが、いずれもスポーツにおいて禁止されています。
ドーピングが禁止される3つの理由
そもそも薬を使って競技力を高めるのは、なぜ悪いことなのか説明できるでしょうか? ドーピングが禁止される理由として、以下の3つが挙げられます。1. 競技者や選手の健康を害するため
薬は病気の治療に使用されるものです。時には体内に足りない成分を補充するために使われることもありますが、薬には、本来の目的としている作用とは別に、副作用があります。病気の場合は、治療効果が副作用のデメリットを大きく上回るために使用されますが、病気でもないのに薬物を使用するのは健康リスクが高くなるため倫理的にも認められません。また、薬は正しい量でその効果を発揮しますが、競技力の向上という本来の目的ではない方法で使用する場合、過剰投与がされたり、長期間にわたっての乱用が起こったりすることが懸念されます。これらによる副作用や後遺症は深刻ですし、場合によっては致命的なものになる危険もあるのです。
2. スポーツの公正さを損なうため
スポーツは一定のルールの中でその技能を競い合うものです。認められていない薬によって短期的に競技力を高めることはフェアではありません。スポーツで八百長が問題になることがありますが、それに等しい裏切り行為とも言えます。正々堂々とプレイすると宣誓しているわけですが、スポーツが認めていない力の高め方であるドーピングを行って競技に臨むことは、その精神に反します。ドーピングがスポーツ競技そのものの価値を損なってしまいますし、ドーピングに頼ってでもスポーツによる金銭的な報酬を目的にするようになれば、スポーツの対する信頼性が無くなってしまいます。
3. 社会において悪影響があるため
ドーピングに使われる薬は、病院で処方されるような薬ばかりではありません。副作用などを無視して運動能力を高めることを追及すると、覚醒剤や麻薬、違法ドラックも含まれてきます。このような反社会的な薬を使用することは、ご存知の通り、スポーツ界にとどまらず、社会全体への悪影響が心配されます。これがプロ選手ともなると、違法な薬を使って違法な勝ち方で収入を得ていることになります。これは社会的にも許容されることではありません。
以上の理由から、世界的に「アンチ・ドーピング」の考えは徹底されており、国際的なスポーツの場においてもドーピングは禁止で、ドーピングが行われないように徹底されているのです。
ドーピング検査の方法…同性の立ち合いによる尿検査が基本
ドーピング検査は時期によって、競技会(時)検査と競技会外検査があります。検査の方法は主に尿検査です。検体である尿のすり替えを確実に防ぐために、尿が本人から採取されたものかどうかを確認する必要があります。そのため、「DC(ドーピング・コントロールの意味)ドクター」、「DC係官(DCO)」の立ち合いの下で尿が採取されます。採尿に立ち合うのは同性で、採取された尿は、封印されて、検査室に運ばれます。もしもドーピング目的ではない、病気の治療で薬が使用されている場合は、治療目的の薬物使用の適用措置申請書(TUE)を提出しておきます。この申請書の提出がない状態で競技で認可されていない禁止物質が検出されると、ドーピング検査陽性となります。
ドーピング検査で陽性が出てしまうと、選手としての活躍の場を失ったり、記録が無効とされたりします。そのときだけでなく過去の記録も疑われますので、選手としての信用も失うことになります。
知らずに陽性? ドーピング検査で陽性になる市販薬の例
市販薬に含まれる成分でドーピング陽性になる例として、エフェドリンがあります。エフェドリンは、風邪薬、麻黄湯などの漢方薬にも含まれています。エフェドリンは自律神経の中で交感神経を刺激して、心拍数を増やして、気管支を拡張させます。本来は風邪の症状の緩和のために役立つ作用ですが、酸素の取り込みが多くなるため、運動能力を高めることにもつながってしまいます。同じことがβ2作用薬にも言えます。男性ホルモンであるテストステロンは、筋力をつける作用がありますのでドーピング対象薬とされていますが、毛髪薬や滋養強壮薬にも含まれています。これらの市販薬は身近に手に入るので、知らずにうっかり服用してドーピング陽性になってしまう可能性があるわけです。
慢性疾患を持っている人でも競技に参加できないわけではありません。インスリンは禁止薬に指定されていますが、糖尿病でも選手として活躍している人がいますし、β2作用薬と副腎皮質ホルモン(ステロイド)は禁止薬ですが、気管支喘息でも選手として活躍しています。いずれにしても事前に正しい申告をしていることが大切です。
ドーピング禁止薬物とは
普段使用している薬や栄養剤には注意が必要です
具体的には、蛋白同化薬は主に筋肉を増強します。ペプチドホルモンには赤血球を増やして酸素運搬能力を高めるものなどが含まれています。β2作用薬は、気管支を拡張させる薬です。利尿薬は、排尿を促す薬です。カンナビノイドは危険ドラッグとされている薬物です。
気管支喘息など持病がある選手はどうすべきか
気管支喘息は、慢性のアレルギー炎症疾患で、長期に治療を必要とします。吸入ステロイド薬およびβ刺激薬吸入を中心に、喘息発作時には、ステロイドの内服や点滴、β刺激薬の内服が必要になることがあります。ステロイドは、経口使用、静脈内使用、筋肉内使用または経直腸使用はすべて禁止されていますが、吸入は禁止されていません。喘息発作がなけれな問題はありません。しかし、治療目的の薬物使用の適用措置申請書(TUE)を提出しておくことが望ましいでしょう。
β刺激薬は常時使用禁止されています。ただし、吸入サルブタモール(24 時間で最大1600μ g)、吸入ホルモテロール(24 時間で最大投与量 54μ
g)が使用される場合は禁止されていません。とはいえ、尿中サルブタモールが1000ng/mL、あるいは尿中ホルモテロールが40ng/mLを超える場合は、競技のために使用したと疑われ、ドーピング陽性と判断されます。
ことわざに、「瓜田に履を納れず、李下に冠を正さず」というものがあります。人に疑われることはするべきではない、という意味です。スポーツへの公正と信頼性のためにも、スポーツをする人には競技参加者としての自覚が必要になります。治療上必要な薬については、主治医にも相談して、正しく対処するようにしましょう。