見過ごされやすい男児の性被害

男児と先生

顔見知りからの性暴力は「信頼関係」を利用して行われます

「女の子は性被害にあう可能性があるから心配だけど、うちは息子だから安心」そんな書き込みをネットで見かけました。そうであってほしい、という気持ちもあるのかもしれません。しかし、こうした大人の思い込みが、男児への性被害を見えなくしてきました。

日本では、13歳までに女の子の6.4人に1人、男の子の17.5人に1人がなんらかの性被害にあっているというデータがあります。(日本性科学情報センター「子どもと家族の心と健康 調査報告書」1999年) 18歳までに広げると、女子は2.5人に1人、男子は10人に1人と跳ね上がります。男の子にとっても、性被害は他人事ではないのです。

男児への性被害は、肛門性交に限りません。肛門に指や異物を挿入されたり、加害者の性器を舐めさせられたり、性器を見せられたり、服を脱がされて性器や体を舐められたり、服の上から性器を触られたり、無理矢理キスされたり、アダルト雑誌・動画を見せられたり、目の前で自慰することを強要されたり、服を脱がされて撮影されたりするのも、すべて性暴力です。

 

多くの加害者は男性

もちろん女性から男性への性加害もあります。同意のない性的な行為はすべて性暴力だからです。しかし、男児に性加害する人のほとんどは男性です。また、彼らが同性愛者かというと、そうとは限りません。

なぜなら、性暴力というのは、性欲のみが動機ではなく、支配欲や征服欲などと強く関連した暴力だからです。

 

軽視されてきた男児への性被害

2017年6月、性犯罪に関わる刑法が改訂されました。明治40年の「監獄法」の制定以来、なんと110年ぶりの改訂でした。
 
刑法改正のポイントは、以下のようなものです。

●罪名の変更「強姦罪」→「強制性交等罪」
被害者の性別を問わなくなった(強姦罪では被害者は女性に限られていた)

●厳罰化
強姦罪の法定刑の下限 懲役3年→5年に引き上げられた。

●非親告罪化
被害者の告訴がなくても起訴できるようになった。

●親などの監護者による子どもへの性的虐待を処罰
18歳未満の人に対して、親などの子どもを監督・保護する立場の人からのわいせつな行為は、暴行や脅迫がなくても処罰されることになった。


以前の法律では、強姦罪は女性の膣へのペニスの挿入のみが対象となっていて、肛門性交も口腔性交(口淫・フェラチオ)も、強姦罪より軽い「強制わいせつ罪(懲役6か月以上10年以下)」しか適用されませんでした。3年以下の実刑には執行猶予がつくことも多く、そのため、男性や男児への性暴力はたいした罪ではないと考えられがちでした。
 
それには、監獄法が作られた明治時代の価値観が大きく影響しています。当時は、家長を中心とする「家父長制度」のもと、女性は「結婚するまでは父に従い、結婚したら夫に従い、老いたら息子に従う」ことを求められていました。女性は家長の「持ち物」で、血縁をつなぐための「産む道具」としての役割が大きかったため、妊娠の危険を伴う強姦は「血統を汚す行為」「家長の名誉や財産の毀損」だと位置づけられていたのです。
 
ほんの数年前まで、男性も被害にあう「強盗罪」が懲役5年以上の罪で「強姦罪」が3年以上と、女性の被害者しか想定していない「強姦」が軽視されていたのも、その頃の時代背景がそのまま持ち越されていたためです。しかし、強姦罪さえも適用されなかった男児への性被害は、それよりもさらに軽視されてきたといえます。

 

軽視されることの弊害

性被害を受けた男の子は、女の子とはまた違った苦しみを抱えます

性被害を受けた男の子は、女の子とはまた違った苦しみを抱えます

男児への性加害者の多くに、子どもの頃の被害経験があるといわれています。大人の男性が男児に性的なことをするのを「普通にあること」として認識し、成人してから加害者になってしまう。つまり、性暴力を連鎖させてしまうのです。

また、「男児は性被害にあわない」という世の中の思い込みは、成人男性の男児への接近を容易にします。「まさか」とチラッと思っても、「そんなことはあってほしくない」という気持ちが働いて、単に仲がいいと捉えて見過ごしてしまうのです。それは、男児同士の間で起こる性暴力も同様です。

成人男性が女児に声をかけているところを目撃したら「大丈夫かな?」と思って遠巻きにふたりの関係を観察する人は多いのではないでしょうか。しかし、成人男性に声をかけられているのが男児ならどうでしょうか。余程、男の身なりや雰囲気が怪しくない限り、気にも留めない人が多いのではないでしょうか。

また、異性愛が当然とされる価値観の中で育つと、男児自身も、まさか自分が男性から性被害を受けるとは思わないことでしょう。

 

性被害を受けた男児の苦しみ

性教育も十分になされておらず、性的なことはなかなか人に話しにくいという風潮がある中、被害を受けた男児が、自分の身に起こったことを誰かに話すことのハードルは、女児以上に高いようです。

「子どもの方から誘ってきた」というのは、加害者がよく使う暴力の正当化です。実際は、子どもの何気ないしぐさや発言を、自分の都合のいいように解釈したに過ぎないのですが。しかし、被害を受けた子どもからすれば、自分の中に、性被害を誘発するような何かがあるのかもしれないという、悩みというよりは恐怖に近い不安を抱えさせられてしまいます。

「もしかしたら自分は同性愛者なのかもしれない」と、自分のセクシュアリティが揺らいでしまうこともあります。同性愛はひとつの性のあり方として生まれ持ったもので、病気でも異常でもありませんが、未だ根強いセクシュアルマイノリティ(性的少数者・LGBTQ)への社会の偏見が、被害男児の自己評価を下げ、自己不信を育てることは少なくありません。

また、旧態依然としたジェンダー観では、男性は「支配する性」で、誰かに支配されたり従属させられることは「男らしくない」と刷り込まれています。そのような価値観を持った親に育てられていると、被害を受けても、なかなか言い出しにくくなりますし、男としての自分に自信が持てなくなってしまいます。

 

親や周りができること

男児への性被害を見過ごさないために大切なことは、周りの大人が「男児への性暴力は、少なからず存在する」という知識を持ち、子どもにも知らせておくことだと思います。また、性に関することは、なかなか可視化されないものだという認識を持って、「まさか、ね」という気持ちになったときに、その直感を軽視しないことだと思います。

そして、被害を告白されたら、話すことにとても勇気が要ったことをねぎらい、子どもの話を信じて、適切な対処をしましょう。対応の仕方は女児の場合と同じです。「わが子が性被害にあってしまった時の対処法」の記事を参考にしてください。


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※乳幼児の発育には個人差があります。記事内容は全ての乳幼児への有効性を保証するものではありません。気になる徴候が見られる場合は、自己判断せず、必ず医療機関に相談してください。