登山中に見かけたシカ
日本国内で行える「狩猟」とは?
銃や網、ワナを使って野生の鳥獣を捕まえることを「狩猟」といいます。野生鳥獣保護の観点から、狩猟に関わる制度は環境省の管轄です。日本国内で狩猟を行う場合、各都道府県で行われる狩猟免許試験に合格しなければなりません。狩猟免許は、狩猟に使う道具によって以下の4種類に分かれています。1:網猟免許
網を使って、鳥類の狩猟を行うための免許
2:わな猟免許
箱ワナやくくりワナなど、ワナをしかけて鳥獣の狩猟を行うための免許
3:第一種銃猟免許
散弾銃やライフル銃などを使って狩猟を行うための免許
4:第二種銃猟免許
空気銃を使って狩猟を行うための免許
なぜ狩猟をするのか?
様々な地域で、野生動物による農作物被害や事故などが発生しています。狩猟を行うことで、増えすぎた害獣を駆除し、自然環境を保護管理することを目的として狩猟が認められています。鳥獣害問題は、野生動物の数が増えすぎることで起こり、生物の多様性を損なっていきますが、本来は野生動物の個体数のバランスが保たれていれば、人間と動物は共存可能であると考えられています。
狩猟をするために必要なことは?
狩猟免許試験は、毎年夏に各都道府県で実施されます。試験に合格し、狩猟免許を取得した後は、狩猟を行う都道府県ごとの狩猟者登録が必要です。実際に狩猟を行う際は、活動拠点となる地域の猟友会に所属することが一般的です。基本的に、猟はグループで行うことが多く、狩猟免許を持っているからといって単独で自由に猟を行えるとは限りません。また、銃猟を希望する場合は狩猟免許とは別に、各都道府県の警察署が実施する講習会などを受けて、銃の所持許可を取得することが必要です。
ワナの一種
狩猟期間
狩猟可能な野生動物は、鳥獣保護管理法施行規則により定められた48種類。狩猟時期は毎年11月15日から翌年の2月15日まで(北海道では10月1日から1月31日まで)と決められています。ただし、指定管理鳥獣であるニホンジカとイノシシは、都道府県による実施計画に沿って狩猟時期以外にも捕獲が認められています。狩猟免許試験の申込窓口
狩猟免許の取得をめざすなら、まずはお住いの各都道府県の担当部署を確認し、試験の詳細について調べます。東京都の場合は、東京都環境局が担当窓口です。環境省 都道府県別狩猟免許に関する問い合わせ先
試験の申請手続き
狩猟免許試験を受験するために必要な書類は、申請書、写真、手数料、医師の診断書、住民票です。そのほか、返信用封筒など地域によっては追加で必要なものもあります。必要書類の中で少々やっかいなのが、医師の診断書です。具体的には「総合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)、てんかん(発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害がもたらされないもの及び発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)、そのほか、自己の行為の是非を判別し、又はその判別に従って行動する能力を失わせ、又は著しく低下させる症状に該当しないこと。麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者でないこと」を証明する医師の診断書が必要なのですが、心療内科や精神科での受診の際は、家族の同伴が必要な場合や、一度の診療で出してもらえない場合、診断書の作成を断られる場合などがあり、診断書を準備できるかどうかがひとつのポイントになります。一般的な費用
狩猟免許試験の手数料は、1猟法につき5200円です。銃とわなの2種類なら手数料は10400円となります。その他、診断書の取得費用が数千円から2万円程度(担当医師によって異なる)、写真や住民票の取得費用などがかかります。ちなみに免許取得後にかかる費用は、狩猟者登録に関する手数料、猟友会への入会・参加費、罠猟の場合、設置する罠の購入費、銃猟の場合は銃の購入費、管理保管に関する用具一式などがあります。
試験の内容
網、わな、銃猟のいずれの免許も、知識試験、適性試験、技能試験で合否を判定します。知識試験は、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法令や、猟具に関する知識など、適性試験は、視力・聴力・運動能力について審査し、技能試験では、実際にわなや網の使い方、銃の点検、分解、結合などの実技を審査します。大日本猟友会が発行しているテキストや過去問題集などを入手して独学で試験に臨む人もいますが、事前に猟友会で試験対策について先輩から聞くことや、猟友会が各地で行う事前講習会に参加することをおすすめします。講習会の参加費は、地域によって5000円~1万円程度、テキスト付きです。
もっと気軽に狩猟を楽しみたい人におすすめな「罠シェアリング」
試験の準備にもお金がかかるし、実際に猟具を揃えるとなったら、かなりの出費です。免許取得には前述のような煩雑な手続きがある上、実際、免許を取得してもお金がかかりすぎて、狩猟を諦める人も多いのだそうです。そんな中、狩猟にシェアリングエコノミーを導入した「罠シェアリング」の動きが始まっています。狩猟ブームで「もっと多くの人に狩猟に興味を持ってもらいたい」と活動している「サラリーマン猟師」小川さんと、彼が主宰する「罠シェアリング」という新しい取り組みについて次ページでご紹介します。
サラリーマン猟師
サラリーマン猟師、小川さん
会社の行き帰りにワナを確認し、週末には猟友会のメンバーと猟に出かけ、季節ごとにジビエ料理を楽しむイベントや、解体などの体験会、狩猟仲間とのトークショーなどを企画しています。
ジビエ料理会
「罠シェアリング」とは
狩猟に興味があり、免許を取得したとしても、近隣に狩猟可能な森林がない、活動している猟友会がないなどの理由で狩猟に参加できない人もいることから、小川さんは「もっと気軽に狩猟に参加できる方法」として、「罠シェアリング」への参加を呼び掛けています。罠シェアリングとは、罠などの購入費用を共同で出資し、狩猟で得たジビエ肉などを分け合うシステムのこと。小川さん以外は猟友会に入る必要も、罠狩猟者登録の必要もないので、狩猟にかかる経費を節約できます。罠シェアの取り組みが全国に広がり、若い狩猟者が増えることを目指して活動しているとのこと、狩猟に興味を持つ人がもっと気軽に参加できるようにと免許を所持していない人の参加も可能です。
毎年10月ごろ、体験会を兼ねた説明会を開催し、11月に解禁を迎える狩猟シーズンのシェアリングメンバー募集が始まります。罠シェアリングはお住いの地域に関わらず参加できます。メンバー募集に関する情報は、「チカト商会」のサイト内で公開される予定です。
ワナの見回りを行う小川さん
サラリーマン猟師ブログ
わたしが狩猟に興味を持った理由
私自身は、農業関係の取材で鳥獣害について話をお聞きする機会が多く、狩猟がもっと広がれば被害が減るのではないかという環境保護の観点から、狩猟に興味を持ちました。実際に小川さんの罠シェアリングに参加して、ジビエのおいしさ、猟や解体への好奇心、早朝の山の美しさや、夜の森の動物たちの行動など、様々なことを知ることができました。私もわな猟の狩猟免許を取得し、全国各地の猟師さんを訪ね、里山と野生動物の共存方法について取材を続けています。