オーナードリブンとしての魅力
ロールスロイスの、大胆かつ華麗なるイメチェン、とでも言おうか。ドーンは、その名のごとく、ロールスロイス新時代の“夜明け”を象徴する、4シーター・コンバーチブル、英国車風に言えばドロップヘッド・クーペである。
ロールスロイスといえば、王族や貴族に代表される“雲上人”たちが、後席にキレイな姿勢で腰をかけながら厳かに移動するような、そんな特別なイメージがある。けれども、最近のロールスロイスは違う。もっとアグレッシブだ。
ファントムに代表されるモデルのショーファードリブン性もさることながら、オーナードリブンとしての魅力が、今、史上最強に際立っている。4ドアサルーンのゴーストもそうだったし、さらにドライバビリティを高めたスポーツ&ラグジュアリークーペのレイスもそうだった。
そして、このドーンだ。メカニズム的にはゴーストやレイスのものを踏襲するが、もちろん、モデルキャラクターに併せてパワートレインやシャシー&サスペンションのセッティング、ボディ補強などが施されている。
スタイリングに関しても、パッと見では、2ドアクーペのレイスと共通項が多いようにみえることだろう。けれども、伝統的なファブリック製のトップを筆頭に、ボディパネルの実に80%以上が専用デザインとなっている。つまり、ドーンはレイスの、単なるオープンバージョンではないということ。
走行中でも時速50km/h以下でならフル電動の開閉操作が可能なトップは、なんと6層からなるファブリックでできており、みるからに頑丈だ。もはやソフトトップなんて言えない。この徹底された造り込みは、ロールスロイスがたとえオープンカーであっても、伝統の静粛性の実現にいかにこだわっていたかが判る。開閉に要する時間は、実測で20~22秒程度。その作動は素晴らしく静かなもので、それゆえ、最後のロック音だけが妙に目立っていた。
身を引いてしまうほど贅を凝らしたインテリア
前開きの大きなドアを開ける。とても優越感の湧く瞬間だ。ドアのカタチも素晴らしい。乗り込んでしまうと、当然、ドアのハンドルには手が届かないが、ご安心を。ボタンひとつで閉めることができる。
思わず身を引いてしまいそうになるほどに、贅を凝らしたインテリアである。試乗車両の様子について、事細かに説明するのは無益なことだ。なぜなら、インテリアの誂えはビスポークオーダーが前提で、ひとつとして同じ仕様はないと言っても過言じゃない。仮に試乗車両のことを正確にお伝えしたとしても、皆さんが次に見る個体とはまるで違う確率が大きい。マテリアルの選択はもちろんのこと、その適用範囲ひとつをとっても、オーナーの好みで調整が可能なのだから。
全長5.3m近く、ホイールベースも3.1m以上という巨大さゆえ、完璧なフル4シーターオープンとなる。前席はもちろんのこと、後席の広さも、レイスとまったく同じらしい。
前述したように、メカニズムの基本的な構成は、ゴーストやレイスと同じ。すなわち、ZF製8ATが組み合わされたBMW製6.6L直噴V12ツインターボエンジンは最高出力570psバージョンで、4ドアのゴーストと同じスペックになる。各種補強などにより、車重にしてレイスより約200kg、ゴーストより約100kg重くなってはいるが、動力性能的には申し分ない心臓部と言っていい。
上品かつ洗練された加速フィール、他では得難い心地よさ
海外試乗会は、南アフリカはケープタウン郊外の風光明媚なワイナリー・リゾートを起点にして開催された。南アフリアらしく荒涼とした山肌を縫っては知るワインディングロードや、喜望峰から続くオーシャンサイドで、壮快なドライブを楽しむ。
まずはクローズドで走り出す。なるほど固定ルーフモデルと何ら変わらぬ静かさで、いかにもロールスロイスらしくしずしずと行く。レイスに比べれば、乗り心地はややソフトタッチであり、そのぶん、フロアに震えが出ることも時折あったが、通常のオープンカーに比べればはるかに落ち着いた走りをみせた。
海岸線のテラスレストラン街を走りながら、これみよがしにトップをオープン! まわりからの視線が痛い。驚きや羨望の声さえ聞こえてくる。見合った格好をしているだろうか、単なる回送運転手に見られているのだろうか、などと普段とは違う心配をしてしまう。
大柄ゆえ、オープン状態でも、身長170cmのドライバーの身体はすっぽりと室内空間に収まってしまった。その開放感は同じロールスロイスのファントム・ドロップヘッドクーペに次いで素晴らしい。サイドウィンドウを立てて走れば、頭上かすかに心地よい風を感じるのみで、髪の乱れも最低限に留まる。
海岸線沿いのワインディングロードに入った。12気筒エンジンにムチを入れる。一瞬のためののち、かすかにターボ音を響かせて、ウルトラスムースに加速した。たしかに、レイスほど過激ではない。暴力的なフィールを排除し、あくまでも上品かつ洗練された加速フィールに徹する。乗り手の腰下から丁寧に前へ前へと運ばれているかのようなフィーリングは、ゴースト三兄弟に特有の、他では得難い心地よさだ。
こうみえて、ハンドリングも、実に楽しめた。もちろん、大きさを感じないと言ったらウソになる。ノーズはそれなりに重いし、長いホイールベースゆえ、車体が遅れてついてくる感覚は否めない。けれどもひとたび、そのリズムを掴めば、ひらりひらりとコーナーを駆けぬけて、もう2クラスくらい下のサイズのクルマを操っているような感覚にはなれる。機敏なスポーツカーとはまるで別種のハンドリングではあるが、すべてにおいてレスポンスは柔らかくも正確で、ハードな山道でもリラックスしながらアグレッシブに攻め込めた。
行く道をまるで選ばぬ快適さとドライバビリティの高さは、既存のロールスロイスイメージを一新するものだ。すべてにおいて、パーフェクト。若き成功者たちにこそ、乗っていただきたい。