1日の半分は「習慣的な行動」に費やされている?
習慣とはいわば自動的な行動のこと。それを変えたくても、意志の力だけでは難しいかもしれません
こうした「習慣」の研究に関しては、南カリフォルニア大学のWendy Wood教授など、多くの成果がこれまでにあります。それらによれば、私たちの多くは1日の活動時間のおよそ40~50%を何らかの習慣的な、いつもと同じ行為に費やしているようなのです。
いったん身についてしまった習慣を改めることは、時になかなか難しいもの。今回は悪い習慣を直したい時に押さえておくべきポイントを精神医学的なアプローチで詳しく解説します。
一度「習慣」になれば意識せずに行動できる
習慣は脳にとってとても合理的なもの。しかし、無意識である分、改めるのも難しいものです
これは、わたしたちが何か習慣的な決まりきった事をする時、それに関与する脳のプロセスが、新しく何かをする時とは大きく異なっていることが原因です。私たちが習慣的な事をする時には、脳にあまり負荷が掛からないような仕組みになっているのです。これはたいへん合理的でもあります。
どんな些細な事でも全神経を集中させていれば、すぐに疲れ果ててしまうでしょう。もしそんな時に重大な決断を下す必要が生じたりしたら大変です。
重要な精神活動に対しては、脳はしっかりエネルギーを消費して対処します。でも決まりきった事をする時はしっかり手を抜く……これが、習慣的な行為ならば、わたしたちが何も考えずにできるようになる原理です。
しかし、それは諸刃の剣です。確かに何も考えずに物事ができればたいへん楽ですが、場合によっては、その習慣自体が本来すべきことではない可能性もあります。
例えば、机についたらまず目先の仕事に取りかかるべきなのに、雑誌をめくることが習慣になっていたら、頭の中ではそれがいけないと分かっていても、つい行ってしまうでしょう。その大きな原因のひとつは、机について、雑誌を手に取り、それを目の前に広げ、ページをめくり始める、までの一連の流れが自動的になされているためです。
なかなか習慣が変えられない場合は「変化」を意識する
「何らかの変化」を作ることで、自動的な行動がストップします。そのタイミングを利用すれば、意思の力で方向修正しやすくなるでしょう
例えば、家のいらないものを捨てようと、つね日ごろ思っていてもなかなかできなかったのに、新居に引っ越したとたん家の中がきれいに片付くようになった……。
こうした「何らかの変化」には、それまでの習慣的な行動が自動的に流れていってしまうのを防ぐ力があります。
夜食をどうしてもやめられない人が、食べ物を保存しておく場所を大きく変えてみたとします。そのあと夜食の時間が来れば、いつも通りに台所へ来てしまうかもしれません。しかし、その場所はいつもと全く違います。脳はその違いに対処するために、しっかり作動する必要があります。そして脳がいざしっかり作動すれば、これから夜食を取ろうとする自分をはっきり意識しやすくなります。その時がまさに意思の力でストップをかけやすくなる時です。
言い換えれば、意思の力で習慣的な行動にストップをかけるためには、その最中に脳がしっかり作動している必要があります。「何らかの変化」はその助けになります。ぜひ試してみてください。
適切な「ご褒美」は新しい習慣づけの原動力になる
モチベーション向上のため、習慣付けたい行動について誰かから褒めてもらえる、評価してもらえる仕組みを作るのもひとつの手です
実際、良い習慣がなかなか根付かない原因のひとつに、その行動をしてもあまりうれしくならない……といった事があります。
自分では全く正しい事をしているつもりでも、もし誰かから「またそんなことをしているの?」といったまなざしを向けられたりしたら、モチベーションはかなり低下してしまうかもしれません。しかし、その時誰かがそんな自分を見て、とてもうれしそうな顔をしていたら、以後それを続けていく原動力になるでしょう。
今回は、悪い習慣をやめるためのカギとして、「そのきっかけとなる変化を作ってみること」、そして「新しい習慣を根付かせるための報酬(positive stroke)」を特に詳しく解説しました。こうした要素は、心の病気の治療法として大きな柱をなす、精神療法の1タイプ、行動療法において、問題のある行動内容に対処していくうえで、重要な要素でもあります。悪い習慣を直したい時には、こうした行動療法の要素も実践してみてはいかがでしょう。