6位:ラトル(指揮) シベリウス:交響曲全集
圧倒的ベルリン・フィルな、シベリウスの提示
峯:ベルリン・フィルのシベリウスはカラヤンが指揮者の時代にやっていた印象があるのですけれど、意外にも3番の初演はラトルがポストについてからだそうですね。ですので、ベルリン・フィルのシベリウスと言えば、カラヤンというイメージはありますけれど、集大成ということではパッケージのこの出で立ち含めてこれが代表盤になりますかね。
久:ベルリン・フィル自身が作った商品であり、値段はそれなりにしますが「きちんとしたものを作る」という方向性は個人的にはありと思いますね。
北:パッケージとしての作りが良いので所有する喜びと聴く喜びの両方を体現できると思いますね。もちろん演奏は今のベルリン・フィルの姿で価値がありますし。力強さというかベルリン・フィルでしか得られない響きがありますから。
峯:そうですね。力強く、管も弦も全く言うことはなく充実した良い演奏ですけれど、果たしてそれでシベリウスがすべて表現されているのか、というのもありますね。良し悪しというか、シベリウスにはもっといろいろな表現の可能性がある。先のラハティもそうなんですけど、一つの演奏の仕方を示した、という感じですかね。
大:ざっくり言うと、ラハティ盤はシベリウスを聴く盤、こちらはベルリン・フィルを聴く盤という感じがしました。
久:間違いなく上手いですからね。あと、札幌交響楽団と尾高忠明さんが出したシベリウスも良かったですよ。
北:確かに素晴らしかったですね。シベリウスは本当に様々な盤にそれぞれの良さがあり、それぞれ楽しめますね。
久:これだけの著名なオーケストラ曲にしては懐が広いですよね。普通は次第に無難に固まっていってしまう気がしますけど。
峯:5~7番あたりが特にオーケストラや指揮者によって雰囲気が変わってきますよね。繰り返し聴くうちに味わい深くなる。
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5位:ポッジャー(指揮) ヴィヴァルディ:調和の霊感
合奏の楽しさに満ち溢れた、さらりと流れるヴィヴァルディ
峯:出すものは全て話題になりますが、これは大変に心地良く、ヴィヴァルディの雰囲気がバッハ以上にポッジャーとこのアンサンブルに合っている気がしました。ピリオド解釈のピリオド演奏ですけれど、しなやかでなめらか。すーっと聴き手に入ってきます。
録音の優秀さもあるのでしょうけど、最初から最後まで良いですね。ヴィヴァルディを聴いて「いいなぁ」と思うことは正直あまりないのですけれど、これは良かったですね。まず自分たちが音楽を楽しんで弾いている。どの録音を聴いても楽しんでいる雰囲気を感じさせる類稀な素晴らしいヴァイオリニストだと思いますね。『調和の霊感』の盤の中でもひときわ推薦できる1枚になったと思います。
北:バロック・ヴァイオリンだから、モダン・ヴァイオリンだから、といった垣根を取り払った功績というのでしょうかね。ポッジャーはスタイルなど関係なく評価されるヴァイオリニストだと思います。「バロック・ヴァイオリンの演奏だから」と買っている方はいないのではないでしょうか。純粋に楽曲を楽しめるという点で功績が非常にあるヴァイオリニストだと思います。音も確かに素晴らしいですし。
峯:学究的なところがほとんど感じられないというか、ピリオド演奏でありながら、ほんとに自然に音楽を演奏していて、皆様と一緒に楽しみましょうという感じ。ヴィヴァルディ演奏の、一つのモデルを示してくれたような気がします。
久:楽しませてくれるヴァイオリニストですよね。好きです。
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4位:ハーン(ヴァイオリン) モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」、ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲
新女王ハーンの美学に貫かれるモーツァルト&ヴュータン
久:感心したのがヴュータンです。とてもロマンティックな曲ですが、この曲の演奏で度々されるカットをせず完全に演奏していて、それが良いのですよ。3楽章は同じようなリズムがずっと続くためカットしたくなる気持ちも分からなくないのですが、指揮のパーヴォ・ヤルヴィと共にメリハリをつけてそのリズムの面白さをよく出していましたね。4楽章の冒頭も非常に美しい。そういったところで曲の本当の価値を示したかったのかなと思いました。とにかく美しい演奏ですね。
峯:伴奏のパーヴォ・ヤルヴィの芸の幅広さにも驚かされましたね。本当に何でも屋ですよね。彼女はまた独特の音で、響きを追求するアーティストという感じがします。どんなオーケストラと共演しても自分の音の特質を際立たせることができる稀なヴァイオリニストだと思います。最初に出したブラームスの協奏曲も今もって印象深いです。
久:シベリウスも良かったですね。速いパッセージをきれいに歌っていて「ここまで歌うんだな」という。
北:そうですね。強靭な力強さというか、音に芯を感じますよね。出るアルバム全部注目されますよね。ヴュータンの演奏は、日本だとグリュミオーの時代から止まっている気がします。パールマンなどもやっていましたが、あまり注目されてきませんでした。ヴュータンとモーツァルトというのが奇抜というか、組み合わせの妙もありますよね。アルバム一つひとつにこだわりがあり、ハーン自身の考えがあって作られた感じがします。
大:ハーンは孤高の道ですよね。
北:若手ヴァイオリニストの中で髄一というか。
久:揺るがない感じですね。“新女王”と言われますが、本当にそうかもしれませんね。
大:オーラがありますよね。
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