「奥の細道」に思いを馳せて
前回の記事では凹版切手の楽しみ方を紹介しました。今回の記事ではグラビア印刷の切手「奥の細道シリーズ」についてお伝えしたいと思います。郵政博物館(東京・押上)では2016年1月23日(土)から3月27日(日)にかけて、「日本の美・奥の細道切手原画展」が開催されています。そこで今回は「奥の細道シリーズ」の概要と、郵政博物館の展示の観賞のポイントについてご紹介したいと思います。なお、『奥の細道』は現在、『おくのほそ道』と表記するのが一般的ですが、ここではシリーズ名を優先して『奥の細道』としたいと思います。展示概要は以下のとおりです。
- 日時:2016年1月23日(土)~2016年3月27日(日)10:00~17:30(休館日:2月3日、17日、3月2日、16日全て水曜日)
- 入館料:大人300円、小・中・高校生150円
- 主催:郵政博物館 後援:日本郵便株式会社、NHK学園
- 協力:江東区芭蕉記念館、全国街道交流会議、全国街道資料ネットワーク
- 公式サイト:http://www.postalmuseum.jp/event/2015/10/okunohosomichi.html
芭蕉はどうやって句を詠んでいたのか?
この記事をお読みになる方の中で、「月日は百代の過客にして行き交ふ年も又旅人也」という書き出しで始まる『奥の細道』を知らない人はいないでしょう。ところで、松尾芭蕉はどうやって作中の句を詠んでいたのでしょうか。芭蕉が活躍していたのは江戸時代ですから、やはり墨と筆で書いたわけですが、旅先でいちいち硯(すずり)を用意するのも大変です。そこで当時の人は矢立(やたて)という道具を使っていました。墨壺の中にもぐさなどを入れて墨汁がこぼれないようにして、1本の筆とともに携行していたのです。当時の旅行の様子を見てみよう!
「日本の美 奥の細道切手原画展」の前半では、松尾芭蕉が旅した日光街道を始めとする江戸時代の街道の様子を展示しています。当時の旅行の携行品なども展示されていて、その中にはもちろん矢立も含まれています。矢立は明治時代までは旅先で手紙を書く道具として一般的だったもので、時おり古道具屋さんなどで見かけることもあります。郵便切手や手紙に関心を持つ人であれば、ぜひご注目ください。『奥の細道』の矢立初め
話を元に戻しますが、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅に出たのは、元禄2(1689)年の弥生(旧暦3月)のことでした。西暦に直すと5月中旬に当たります。いよいよ出発の日を迎えると、芭蕉は知人や門人たちに千住まで見送られました。そこで彼は矢立を取り出して「行く春や鳥啼魚の目は泪」と句を詠んで、一生の別れになるかもしれない旅の始まりに涙したのでした。これが『奥の細道』の冒頭をなすエピソードであり、矢立初めの句として最もよく知られたものです。こうやって見ると、矢立はずいぶん重要な役割を果たしていたことが分かることと思います.。次のページでは、いよいよ切手原画について見ていきたいと思います。