ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.33 森公美子、愛される理由(4ページ目)

14年に日本初演、連日満員の大ヒットとなったミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。初演に引き続き、今年の再演でヒロイン・デロリスを演じるのが森公美子さんです。笑いと涙の傑作にぴったりの配役ですが、30年がかりで初の主役に辿り着いたご本人にとってはとても感慨深いお役だそう。感動ポイントをうかがいました!*観劇レポートを掲載しました*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

世界中のマダム・テナルディエに影響を与えた「森公美子版」のインパクト

『ラ・カージュ・オ・フォール』写真提供:東宝演劇部

『ラ・カージュ・オ・フォール』写真提供:東宝演劇部

――そして思いもよらぬ役が回ってきたのが、『ラ・カージュ・オ・フォール』でした。

「24歳にして「お母さん役」でした(笑)。娘役の遥くららさんは宝塚を退団して朝のテレビ小説をなさっていたころだったかな、実は私よりも少し年上でした(笑)。最後に大胆なシーンがあって、あれが「できるかな」と心配されながら頑張って、それが注目していただくきっかけになり、いっぽうでは『屋根の上のヴァイオリン弾き』のアンサンブル、そして『ラ・マンチャの男』などのたくさんの作品に出演させて頂き、勉強になりました」

――近年の代表作としては、『レ・ミゼラブル』のマダム・テナルディエが挙げられます。

「実はこのお役、それまでは鳳蘭さんのような方がおやりになっていて、私には縁がないだろうと思っていたんですよ。ところが97年に「やってみない?」と言われてオーディションに行ったら、演出のジョン・ケアードさんが私を見て「この10年間、君が現れるのを待っていたんだ!」。どうして?と思ったら、「原作を読んでみなさい」ということで、読んでみたら「熊のような女」と描かれていました(笑)。それ以降、世界中でマダム・テナルディエは大柄な女優が演じるようになったそうです。

この役もずいぶん長くやらせていただいていて、もし私くらい声の強い人がでてくれば勇退してもいいかなと思っています、でも私みたいな濃いキャラなかなかいないですよね(笑)、もちろん(浦嶋)りんこちゃんも(谷口)ゆうなちゃんも頑張っているけど、今では私が一番長くやらせていただいていますね。マダム・テナルディエって、テナルディエの奥さんということで彼の次に出てくるし、実はそれほど大きな役どころではなかったんですよ。それが(大柄な)私が演じたことでどうしても存在感が大きくなり(笑)、13年の新演出版では明確に「実はマダムが陰で操っていた」という位置づけになりました。
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

テナルディエ夫妻はコミックリリーフであるだけでなく、(劇中で多くの死が描かれるなかで)「死なない人間の代表」として、作品の唯一の悪役と言われています。でも、実は当時はそういう市民のほうが多くて、命を懸けてでも自由を勝ち取るんだ!という人の方が少数派だったと思うんですね。誰にも迷惑かけてない……わけでもないけど(笑)、生き抜くということが普通だった。悪人のように見えるかもしれないけど、実は「生きることに必死だった人間」なのだと思います」

――ミュージカル以外のお仕事も幅広く手掛けていらっしゃいますね。テレビドラマやバラエティーにも出演されているし、ディズニー・アニメ『リトル・マーメイド』の悪役アースラで、アフレコにも挑戦されています。

「自分の可能性は限定したくなくて、なんでも来たものはお受けしています。与えられたものを一生懸命やれば、「こういう道もあるんだ」と開けてきたりとか、可能性が大きくなると信じているので、いただいた仕事には丁寧に取り組みますね。『リトル・マーメイド』のアースラも、今でもディズニー・シーでヴィランズのパーティのアフレコをお願いします!と声がかかったりしています。アフレコのキャスティングって変わらないんですよね。この声をキープしてるぶんには使っていただけるのかなと思います」

皆が幸せな気分になれるよう心掛けている、シンプルなこと

――ところで、他の役者さんに取材していますと森さんのお名前が出てくることがあって、皆さん非常に森さんを慕っていらっしゃるのですが、お稽古や公演中にはどんなことを心掛けているのでしょうか?

「みんなを空腹にさせないことです(笑)。差し入れですよね。買ってくることもありますし、シャワーキャップをかぶって加熱したものを手作りすることもあります。おなかがすくと、つい「まだ稽古終わらないのかな」って落ち着かなくなったりするじゃないですか。私は祖母から「誰かと一緒に仕事をするときには、『おなか空いてない?』って聞きなさい」と言われてきました。「一緒に働くにはまず、おなかを満たしてもらうこと」と。食べることって、人間の基本なんです。モチベーションも集中力も違うし、おいしいものを食べると幸せになるじゃないですか。共演歴のある人たちはみんな知っているから、逆に「そろそろあれが食べたいんだけど」とリクエストしてきたりしますね(笑)。(慕われる理由は)食べ物ですよ(笑)」

――今後、どんな表現者でありたいと思っていらっしゃいますか?

「皆さまに求めていただければ、私はずっと表現者として存在してゆくと思うんですね。もういいやと思われないよう、次々に新しい自分に出会えるよう、表現者としての努力、声のキープ、そして健康管理を一番大切にしています。やはり心も体も健康でないと表現はできませんので、こんな体格に見えてしょっちゅう病院で検査して「OK」をいただいているんですよ。

もう一つ心掛けているのは、「笑顔の私」でいること。何かネガティブなことを言われても、常に笑顔。そうでなくなったら、きっとこの仕事はやめるのでしょうね。その原点は先ほどお話しした父の一言でもあるし、みんなからよく言われる「あなたの笑顔見ると幸せになれるわ」という一言でもあります。私の笑顔でいいなら笑顔でいましょう、と思うんですよ。だって世界中どこに行っても「Hi!」といってにこにこしてると、みんなオープンマインドになってくれるじゃないですか。しかめ面をしていても何も生まれないけど、レストランで「Buono!」と言いながら笑顔を見せると、つらい仕事をしているウェイターさんだってちょっと幸せな気持ちになりますよね。人に嫌なことはしないけど、嬉しいと思うことはどんどんしてやろう、というのが私のモットーかな。笑顔でいよう、と。感動して泣いてるときもありますけど(笑)」
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』

*****
明るく優しく、人情家。そんな森さんにとって、『天使にラブ・ソングを~』のデロリスはこれ以上ないほどのはまり役、当たり役であることが、今回のインタビューを通してまざまざと感じられます。普通は3年ほど間隔をあけるところを、初演からわずか2年後の再演が早々に決まった背景には、彼女の好演に対する高い評価があったことは想像に難くありません。ダブルキャストという趣向で、全くタイプの異なる蘭寿とむさん演じるデロリスとの見比べも楽しめる本作。初夏の帝劇を大いに揺るがしてくれそうです。

*公演情報*『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』5月22日~6月20日=帝国劇場 7月2~3日=梅田芸術劇場メインホール 7月8~10日=愛知県芸術劇場大ホール 7月14~15日=岩手県民会館 7月23~24日=ニトリ文化ホール 8月6~7日=東京エレクトロンホール宮城 2017年博多座、アクトシティ浜松大ホール、まつもと市民芸術館主ホールでも上演予定

*次頁に観劇レポートを掲載しました!*
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