売却すると決めても、場合によっては困難な場合もあります
さて、どうすればいいのでしょうか。
認知症になった親の家の売却には後見人が必要
正常な判断ができない親が持ち主である家を売るには、後見人をつける必要があります。親にとって大切な家を判断能力がなくなったことをいいことに、子が勝手に売ってしまうことは、高齢弱者の保護に反します。一方で、判断能力がなくなったからといって、法律行為がいっさいできないとすれば、放置された空き家が引き起こす問題など、マイナスも生じてしまいます。そこで必要とされるのが、成年後見制度の活用なのです。そのためには、まず、成年後見人を決めなければなりません。どういう手順を踏むのでしょうか。
後見人になれるのは誰?
成年後見人(以下後見人)が必要であることを、被後見人の配偶者、4等身以内の親族、検察官、市町村長が家庭裁判所に申し立てします。その際、後見人候補者も併せて申し立てします。法律上、後見人になれないのは、次のとおりです。- 未成年者
- 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
- 破産者
- 本人に対して訴訟をしている人、その配偶者、その直系血族
- 行方の知れない者
平成24年に専任された後見人と本人(以下親)との関係については、一番多いのが子で、司法書士、弁護士、社会福祉士、その他親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹を除く親族)、兄弟姉妹、配偶者の順となっています。最近の傾向としては子が減り、司法書士や弁護士といった第三者が専任されることが増える傾向にあるようです。
後見人が親の家の売却を裁判所へ申し立てる
裁判所に申し立てをしてから、成年後見制度の利用開始までには4か月以内とされています(法務省民事局)が実際には2か月くらいだそうです。親の陳述聴取、後見人等の候補者の適格性の調査などの審理に一定の期間が必要だからです。後見人が決まれば、居住用不動産処分許可申立書に、家を処分する理由を記載し、裁判所へ申し立て、許可を得ます。この間1週間程度かかります。
成年後見制度や居住用不動産処分について知りたい方は、次のサイトをご参考ください。
・法務省民事局 成年後見制度~成年後見登記制度
・東京家庭裁判所 後見サイト
売却の可否を裁判所はどう判断する?
裁判所は親の家の売却の可否について、明確な判断基準を設けているわけではありませんが、まず問われるのは、次のように親にとって家の売却が本当に望ましいか、不利益にならないか、という点です。なぜなら、後見人の役割は親の意思を尊重し,かつ親の心身の状態や生活状況に配慮しながら,必要な代理行為を行うとともに,親の財産を適正に管理していくこととされているからです。
・売却の必要性
介護や生活費、医療費にあてるためなど、売却の理由が親のためになっているか
・親の帰宅の可能性
万一介護施設や老人ホームから戻ってきたときに、住める家があるか
・親の意向
親が自分の家を売却したい意向があるか、ない(認知症といっても段階があり、意向が確認できることがあります。また、症状が進み親の意向が確認できない場合は、どうするのが本人の利益になるかという観点で裁判所は判断)
・売却代金
売却代金は妥当な額であるか(そのことを裏付ける不動産業者作成の査定書の提出が必要)、本人のために使われるか、その保管先は適切か。上記の観点に加えて、空き家として問題となっている親の家の老朽化の程度、近隣との関係、警備会社や管理会社の利用の可否、空き家を管理するための経済的負担の程度など、様々な要素を総合的に考慮して判断することになるでしょう。
迷惑な空き家だから、という理由だけでは売却の許可は下りないことも
したがって、親の家が空き家のまま放置されることにより、ご近所の迷惑になる、維持・管理費がかさむから、という理由だけでは、裁判所の許可は下りないこともあるのです。今や空き家問題は、日本の深刻な社会問題です。空き家を理由に親の家を売却したいという申し立ては、今後増えていくことが予想されます。そうした中、空き家にかこつけて、子が親の家を売り現金にかえてしまうことで、親に不利益が生じてしまう、ということがないよう、裁判所がきちんとチェックする後見人制度は、子のためというより、認知症になり、判断力の弱まった親の利益を保護する制度といえるでしょう。
子にとっては、一見面倒な制度に思えてしまうかもしれませんが、親の家を売ることを裁判所が認めたというお墨付きは、異なる意見を持つ他の兄弟や親せきとのもめごとを回避する手段として有効なのです。
親の家を空き家にしないためには、親が元気で判断力があるときに、住まなくなった家をどうするか、を親子で話し合っておくことが、とても大切なことだと、改めて実感した次第です。そこでご紹介したいのが「家族信託」です。次回の記事でご紹介します。