一戸建ての売却/一戸建ての売却の基礎知識

相続対策は不動産の売却も選択肢に考えるべき

不動産を使った相続対策といえば、マンションや土地を購入すること、賃貸住宅を建てることが中心になりがちです。しかし、最適な方法は家族の状況によって異なります。不動産を売却することが有効な相続対策になる場合もありますから、固定観念にとらわれず選択肢を広げて検討するようにしましょう。

執筆者:平野 雅之


相続対策を考えるとき、「相続財産の評価額を減らして相続税をできるかぎり節約する」ことに重点がおかれます。現金や預貯金を不動産に換えると相続財産の評価額を大きく減らすことができるため、いくつかある相続対策の中でも不動産の活用は効果の高いものでしょう。

三世代の家族

相続対策を話し合うためには、お互いの気持ちを思いやることも欠かせないが……

そのため、賃貸マンションやアパートを建てたり、節税効果が大きく見込まれるタワーマンションの上階を購入したりすることも少なくありません。

もっとも、タワーマンションによる節税策については2015年11月に国税庁が是正の方針を示したため、その効果は限定的になりそうですが……。

税理士や弁護士あるいは不動産会社に相続対策の相談をすれば、新たに借金をしたうえでアパートなどを建てるようにアドバイスされることもあります。しかし、それが常に最適な方法だとはかぎりません。状況によっては、手持ちの不動産を売却することも有効な相続対策となるのです。


相続争いの大半は相続税が課税されない世帯

相続人同士の争いといえば、テレビドラマでは資産家の家を舞台にしたものが定番でしょう。ところが、現実には財産の少ない家庭で「争族」の起きるケースが多いようです。

家庭裁判所における遺産分割事件(認容・調停成立件数)の内訳(2014年度司法統計年報・家事事件編)をみると、総数8,710件のうち2,784件が「1,000万円以下」、3,731件が「1,000万円超5,000万円以下」の遺産価額となっています。

つまり、5,000万円に満たない遺産価額の家庭が全体の4分の3を占めているわけですが、これは2015年1月の相続税課税強化よりも前(基礎控除額5,000万円+α)のものですから、ほぼ「相続税がかからない家庭」だと考えて差し支えないでしょう。

ちなみに、全体の6割以上は「代償金の支払い」により解決しています。つまり、相続人のうち誰かが何らかの手段で現金などを用意し、それを他の相続人に支払っているわけです。見方を変えれば、別途にお金を出せる相続人がいなければ、争いの解決が難しいのかもしれません。


相続対策で優先するべきは「分けやすくすること」

相続では、父親または母親のどちらか一方が亡くなったときの「一次相続」よりも、残された親が亡くなって子だけが相続する「二次相続」のほうが問題になりやすく、相続税が課税されやすいのも「二次相続」です。

「二次相続」の際に相続人が1人だけなら争いも起きないのですが、複数の子(子が先に亡くなっている場合の孫を含む)が相続をする予定のときは、「分けやすくすること」を第一優先に対策を考えなければなりません。

このとき、親の主だった財産が自宅だけであれば、複数の相続人がそれを共有で相続するか、誰か1人が相続をして他の相続人には相当の金銭(代償金)を支払って処理することになります。親の自宅の価値よりも他の相続財産がだいぶ少ない場合も同様でしょう。

別途にお金を用意することができず、「とりあえず共有」で相続を済ませるケースも多いのですが、これは後々に面倒を引き起こすことになるため、できるかぎり避けたいものです。

相続した家の維持管理をめぐって兄弟姉妹間の考え方の違いや手間のかかり方、費用負担などの問題もあり、結果的に空き家のまま放置されるケースも少なくありません。

アパートなどを相続した場合も同様です。兄弟姉妹の共有財産としてアパートや賃貸マンションを相続した後に、その経費負担や家賃収入の分配、経営方針などをめぐって不満が募ったり争いが起きたりすることも多いのです。

相続にあたって、子Aは親の自宅、子Bはアパート、子Cは現金などに分けたうえで、それぞれに不公平感が出ないようにできればよいのですが、実際のところはそれがいちばん難しい問題になりそうです。


不動産の売却も相続対策の選択肢になる

「二次相続」の際の財産評価額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)よりも多くて相続税がかかる見込みであれば、不動産を使った節税策も有効になります。

しかし、相続税がかからない、あるいは相続税がかかっても少ない金額で済みそうなら、不動産の所有にそれほどこだわる必要はありません。

そのような場合は先に不動産を売却して現金化したり、換価しやすい資産に組み替えておくことも有効でしょう。もちろん、親が住んでいる自宅を生前に売却する必要はありませんが、使っていない土地や家屋があればそれを売却することも選択肢に入れて積極的に考えたいものです。

親に「子へ資産を残したい」という意思があるなら、不動産を売却して得たお金から、さまざまな特例を使って生前贈与していくことも有効な相続対策になるでしょう。


これから値下がりしそうな土地は早めの売却が有効に

親の所有する土地がこれからまだ値上がりしそうなら、あまり急いで売却する必要はありません。しかし、2020年頃からは全国的な世帯数の減少も予測されており、一部の都市を除けば地価は下がり続けるところが大半です。

「相続のときに有利だから」とばかりに土地をずっと所有していたら、いつの間にか想定以上に値下がりしたり、売ることすらできなくなっていたりする事態も考えなければなりません。

親の自宅以外の不動産があれば、その将来性をしっかりと見極めたうえで「売却できるうちに売却しておく」というのも現実的な選択肢でしょう。親が亡くなった後に、売ることも貸すこともできなくてそのまま放置するというのは、絶対に避けるようにしたいものです。


親の自宅を売却しやすくしておくことも相続対策の一つ

親が住んでいる自宅を生前に売却することは難しいものの、あらかじめ相続後に売却しやすく、あるいは貸しやすくしておくことは有効な相続対策にもなります。

具体的には、敷地の測量をする、隣地との境界確定をする、通常のリフォームに合わせて省エネ改修工事やバリアフリー改修工事をする、耐震改修工事をする、擁壁の不具合を直すなどが考えられるでしょう。

売却にあたっていずれは必要となる費用を親が健在のうちに負担しておけば、相続財産を減らしたうえでその後の処分や活用がスムーズになります。

なお、相続後に親の自宅の売却や賃貸がスムーズにできない要因の一つは荷物の処分です。親の家をどう片づけるのか、あらかじめ検討しておくべきケースもあるでしょう。


子の持ち家の売却が有効になる場合も

親の家を相続したときに「小規模宅地等の減額特例」によって土地の評価額を大幅に引き下げることのできるのは、配偶者もしくは「同居する子(または親族)」による相続が原則です。

別居する子が相続する場合は「相続開始前の3年以内に本人またはその配偶者が所有する家屋に居住したことがない」という要件を満たさなければ、評価減の特例は適用されません。

したがって、親の自宅の評価額がそれなりに高く、子がすでに別の自宅を所有しているときは、事前に子が自らの家を売却して賃貸暮らしをしたり、あるいは親との同居を始めたりすることも有効な選択肢になります。

ただし、この場合は親の家を引き継ぐこと、親が亡くなるよりも3年以上前に子の家を売却することが前提となりますから、将来的なこともよく考えなければならないでしょう。

いずれにしても有効な相続対策は親が独断で決めたり、子同士が勝手に考えたりしてもうまくいきません。親の気持ちにも配慮しながらタイミングを見計らってお互いによく話し合い、最適な方法をみつけるようにしたいものです。

そのとき、不動産を買う、建てるだけではなく、売却した場合にどうなるのかもしっかりと考えるようにしてください。


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