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玉川学園前、大学のために作られた坂の街

大学のために開発された街はどこか品が良く、街並みも美しいという共通項があります。東京都町田市にある小田急線玉川学園前駅もそんな駅のひとつ。坂が多い分、眺望、日当たりにも恵まれた街を見てきました。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

大学が土地を購入、
駅を誘致して作り上げてきた街

階段

階段自体は大変なのだが、登り切ったところ、しかも住宅内からは素晴らしい眺望が広がる(クリックで拡大)

大正末から昭和初期にかけて学校を中心に作られた街がいくつかあります。そのうちのひとつが成城学園前で、それを手掛けたのと同一人物がその後に作ったのが玉川学園前(東京都町田市)です。いずれも小田急線沿線に位置していますが、この2つの街は地形的に大きく違います。成城学園前は武蔵野台地の高台に位置し、基本、町域内は平坦ですが、玉川学園前はさらに高い多摩丘陵にあり、小田急線沿いの一部を除けば、後は坂、また坂の街。それが街の魅力でもあり、見方を変えれば大変さでもあるという場所です。

 

大学入口

入口からは敷地全貌は見えないが、小田急線トンネルが敷地内を通っているといえば少しは想像できるかもしれない(クリックで拡大)

さて、当然ですが、この街で大きな面積を占めているのは玉川学園。ここは幼稚園から小中校はもちろん、大学、大学院まであり、その敷地面積は約59万平米。東京ディズニーランドが51万平米だそうですから、それよりも広いわけです。当然、敷地内には様々な施設がありますし、過去には高射砲陣地があった、古代の遺跡もあるなどと聞きます。広大な敷地を利用、幼稚園から高校まで一貫した独自の教育が行われており、約1万人がここで学んでいます。ちなみにこの広大な敷地に隣接して和光大学がありますが、ここも成城学園から分かれてできた私立大学です。

 

大学の看板

小田急線沿線には大学が多いが、このエリアにも集まっているわけである(クリックで拡大)

もうひとつ、駅から南側、町田駅寄りには昭和薬科大学もあります。最寄り駅は玉川学園前で歩いて15分ほど。やはり、坂もあります。

 

地名の標識

住居表示に加え、坂の名称が書かれていることに注目。かわいいネーミングの坂もある。のらくろ坂はかつてここに漫画の作者である田河水泡氏が居住していたことから名付けられた(クリックで拡大)

このエリア一帯は玉川学園◎丁目という住居表示になっていますが、これは玉川学園が地域一帯の元々は山林や農地だった土地を買い取り、建設費用は玉川学園が負担することで駅を誘致、宅地の開発費用を学校の運転資金とするというやり方で街を作ってきた結果。地域には教職員の住宅が点在、教育理念に賛同して移転してきた人たちなどもあり、学者、芸術家の多く住む場所としても知られています。ちなみに地名が玉川学園になったのは1967年のことで、それ以前は本町田、芝生(しばう、あるいはしばお)などと呼ばれた場所でした。

線路を挟んで2つの商店街、
街中には小さなギャラリーが点在

商店街の様子

小田急線東側の商店街。駅ビルにも商業施設が入っており、コンパクトにまとまっている(クリックで拡大)

駅、線路を挟んで両側は細長く平坦な土地が続き、商店街は主にそのエリアに広がっています。それほど数は多くはありませんが、スーパーやドラッグストアのような生活に必要な店に加え、スペインやネパール、インドなど各地の料理が食べられる店、雑貨店などもあります。若い人や夜遊びしたい人にはカラオケ、ゲームセンターなどの娯楽施設、夜遅い飲食店などがないのは物足りないかもしれませんが、そのあたりは隣駅町田を利用している人が多いようです。

 

小さなギャラリー

個人宅らしいギャラリーの表示。販売をしていたり、カフェ併設だったりといろいろなタイプがあるそうだ(クリックで拡大)

この街らしいのは個人の住宅を改装したような小さなギャラリーが点在しており、そこが小さなギャラリー会を作り、年に何度かギャラリーウォークをしたり、統一テーマの展示をしたりという活動があること。大邸宅というほどではないものの、ある程度の規模のある住宅が中心の街だからできることとも言えます。

 

ベンチが点在、
桜や花壇が美しく、風情たっぷり

桜

上り下りはあるものの、紅葉や桜の美しさが魅力的で、散歩が楽しい街とも言える。商店街のホームページでは眺望の良い尾根道などを紹介したマップが掲出されている(クリックで拡大)

駅から少し離れるともうすぐに坂が始まります。駅から西に行っても、東に行っても上り坂で、中には非常に急な坂、長い階段もあり、辛いといえば辛いところ。自転車での移動も押して歩くことになりそうです。その分、坂を上がったところからは街並みが見下ろせ、眺望にはどこも恵まれています。街並みは美しく、通り沿いに桜の古木があったり、手入れの行き届いた花壇がある場所も。街の人がこの街を大事にしていることがよく分かります。

 

ベンチのある街かど

ところどころに置かれたベンチ。季節の良い時期なら外でおしゃべりや読書も楽しいだろう(クリックで拡大)

また、町内会の人たちが用意したベンチが街のあちこちに点在しているのも他にない風景。せっかくの眺めを楽しむのはもちろん、急坂を上った後に一休みという使い方もあるのでしょう、桜の時期などであれば花を見ながらのんびりできるのかもしれません。

 

コミュニティバス

駅を挟んで2つのルートでコミュニティバスが運営されている(クリックで拡大)

坂も多く、広大な土地のため、駅からは東ルート、北ルート2路線のコミュニティバスが走り、地元の足となっています。愛称は玉ちゃんバスで、車体には地元在住の漫画家みつはしちかこ作の『ハーイあっこです』のキャラクターがラッピングされています。

 

植栽

植栽の手入れが行き届いた家が多く、その意味でも緑を感じる街(クリックで拡大)

住宅は大半が一戸建て。塀を作らず、芝生の庭からフラットに続く家があったり、植栽の見事な傾斜地の住宅があったりと住宅好きには眺めて歩くだけでも楽しい街です。一方で学校のある街であることから、賃貸住宅も点在しています。

 

学生向け物件はあるものの価格はお手頃、
一戸建ては1000万円台から1億円オーバーまで

続いて住宅価格を見ていきましょう。

アパート

駅近くも含め、あちこちにアパートも点在。高台で長めの良い物件もあった(クリックで拡大)

まず、賃料は小田急線の都内部の中ではかなりお手頃でワンルームマンションで5万円~、2DKで7万円~と言ったところ。駅から10分ほど歩いても良いというのであれば、ワンルームで3万円前後という部屋も見つかります。どちらかといえば環境を重視するファミリー層にはうれしいものの、利便性を求める人にはいささか不便さも感じる街という評価の反映ではないかと思われます。ちなみに数はそれほど多くはありませんが、3LDK、4LDKなどの一戸建ての供給もあり、13万円~と言ったところ。70平米以上など比較的広めの物件もあるので、広さと安さを追求したい人は狙い目かもしれません。

 

駅西側には1970年代に開発された藤の台団地、町田山崎団地のような大規模で、環境の良さで知られる団地がありますが、町田からのバス便を利用する人が多く、玉川学園前駅を経由することはほとんどありません。

斜面に立つマンション

斜面を利用してルーフバニーを作ってあるマンション。高低差をうまく利用している(クリックで拡大)

集合住宅は平坦な土地が少ない土地柄から、非常に少なく、特に駅に近い場所では期待できません。多少中古物件があるのは小田急線の東側の高台、駅から歩くと10分ほどの場所。築20数年以上、専有面積60~70平米で価格は2500万円前後が目安です。ちなみに東側は横浜市青葉区奈良町と接しており、当然ですが、公共のサービスも異なるのでどこを選ぶかは悩みどころかもしれません。

 

一戸建て建設現場

坂の途中で建設中の一戸建て現場。数棟以上、規模のある現場が多い(クリックで拡大)

新築建売住宅は3500万円から5500万円くらいが中心。土地面積は場所にも寄りますが、120平米以上はあり、比較的ゆったりしています。10棟、20棟という現場もあり、集合住宅よりは選びやすいかもしれません。中古になると駅から徒歩20分圏で見ても1800万円くらいから1億円以上まであり、広さ、間取り、築年も様々。5SLDKなどといった広い住宅もあります。

 
駅前のイルミネーション

ちょうどクリスマスシーズン前ということで駅前にはきれいな飾り付けが。学園祭などでは学内で作った乳製品などが売られることもあるそうで、街と大学は切り離せない存在だ(クリックで拡大)

目立つ店や変わった施設があるわけではないものの、静かでどこか品の良さを感じる街、玉川学園前。環境を優先するなら一度は訪ねてみても良い場所といえます。



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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