大都市の市街化区域内で、面積など一定の要件を満たす農地は「生産緑地」の指定を受けることにより固定資産税などが大幅に軽減されている場合があります。その代わりに土地所有者には営農義務が課せられ、住宅などの建築も禁止されているわけですが……。
マンションの隣やバルコニーの前面などが生産緑地になっている例も多く、「当分は高い建物が建つ心配はないですよ」という説明を受けることもあるでしょう。ただし、「将来的にも絶対に建ちません」などと断定的な説明をすると法に触れるため、さすがにそのような説明をする担当者はほとんどいないはずです。
生産緑地の指定から30年を経過したときや、農業従事者が死亡したときなどには、自治体に対して買い取り請求をすることができます。そこで、「いざというときには自治体が買い取って公園などになる可能性が高いので、あまり心配しなくてもいいですよ」という説明をされることがあるかもしれません。
ところが、2008年2月の新聞報道によれば、実際に自治体が買い取った例はきわめて少なく、それ以前の5年間における買い取りはほとんど皆無の自治体が多いようでした。
新聞記事内で紹介されていたものでは、大阪市がゼロ、名古屋市が1件のみ、東京・練馬区がゼロといった状況で、おそらく他の自治体でも似たり寄ったりの状況だと推測されます。狭ければ公共用地に向かず、広ければ高額すぎて買えない、といったところなのでしょう。
自治体が買い取らなければ生産緑地としての制限は解除され、土地所有者自身が賃貸マンションを建てたり第三者へ売却したりすることもできるようになります。
ちなみに、国土交通省のまとめによる2010年3月31日現在の生産緑地指定は215都市64,787か所にのぼり、そのうち東京都が12,048か所、神奈川県が9,407か所、愛知県が9,232か所、大阪府が10,017か所となっています。
生産緑地に関する規定は1974年に施行されていますが、1991年の法改正により生産緑地の指定を受ける農地が急増したようです。その頃に指定を受けた生産緑地が、あと数年のうちに30年の期限を迎えるわけですが……。
マンションや一戸建て住宅の隣が生産緑地の場合でも、「そこには何も建たない」のではなく「いずれはマンション用地、住宅用地として開発される可能性がある」という前提で考えたほうがよいのかもしれません。
購入しようとする物件の回りが生産緑地のときは、その指定がいつだったのかを確認しておくことも必要でしょう。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年3月公開の「不動産百考 vol.21」をもとに再構成したものです)