犬の分離不安や恐怖症に関係のある要因・対処法は?

分離不安や、必要以上に何かを怖がる(全般的な恐怖症)、大きな音を怖がる(音響シャイ)というような問題を愛犬が抱えていた場合、なんとか少しでも治してあげたいと思うことでしょう。今回は関係があると思われる要因や、トレーニング方法についてお話ししたいと思います。


不安症や恐怖症の一般的な矯正トレーニング方法

飼い主さんがお出かけ前の犬

分離不安のある犬は、そうでない犬と比べて散歩や運動量が少ないという:(c)Doable/a.collectionRF/amanaimages


犬が抱える不安症や恐怖症を治したいと思った時、一般的には以下のようなトレーニング方法が用いられており、症状によっては薬での治療が併用される場合もあります。

<何かを怖がる場合(例:音)>
  1. 最初は(対象となる)音を、犬が反応を見せない程度の弱い音量で聞かせる。
  2. 犬が音に対して反応せず、おとなしくしていられたら、好物のおやつを与えたり、一緒に遊んであげたりして充分に褒める。
  3. 段階を踏みながら、少しずつ音量を上げて音に慣らしていく。

<分離不安の場合>
  1. オーナーや家族が出かける際の行動パターンを犬が覚えてしまっていることがあるため、その行動パターンを作らない、または崩すようにする。例えば、家や車のキーを手にしても外出せずにテーブルに置いたままにする、外出時には必ずお化粧をするのであれば在宅時もお化粧をしてみる、など。
  2. 犬には声をかけず、出かける素振りも見せずにさりげなく(または犬に出かける姿を見せないようにして)数十秒程度家の外に出る。そして、すぐに戻る。徐々に外に出る時間を長くしていく。
  3. 犬が帰宅を喜んではしゃいでも、声をかけたり、犬を撫でたりせず、犬が落ち着くまで待つ。
  4. 外出中は犬の気が紛れるように、おやつを仕込んだ知育玩具のようなものを置いておく。場合によっては、普段どおりテレビやラジオをつけっぱなしにしておくのもよい。

<注意点>
  1. ある時点でうまくいかなかった場合は、少し前の段階に戻り、そこからやり直す。一気に慣れさせようとは思わないこと。急ぎ過ぎるとかえって問題を複雑化し、トレーニングに失敗することがある。
  2. 雷や花火など季節的な音が原因となる音響シャイの場合、可能な限りその時期を避けてトレーニングを始める。
  3. 犬が望ましい状態にあり褒める時にも、「スワレ」や「フセ」などのコマンドを併用するのが理想。オーナーが犬をコントロールし、犬をオーナーに集中させる練習にもなる。

しかし、上記のようなトレーニングを実践し、努力してみてもなかなか治らないということもあるでしょう。そもそも、このような不安症や恐怖症には何か関連があると思われる要因があるのでしょうか?


犬の不安症や恐怖症と関連があると思われる要因(*1)

不安症や恐怖症に関連する要因は、大きく分けてもって生まれた性格という遺伝的要因と、成長していく過程および生活における環境的要因があり、性格形成には環境的要因が大きく影響します。

フィンランドにおいて、ヘルシンキ大学の獣医バイオサイエンス研究部門のKatriina Tiira氏とHannes Lohi氏らによる調査チームは、犬の恐怖症(人や他の犬、初めての物事などに対するもの)、音響過敏症(音響シャイ)、分離不安、それぞれに関連する環境因子について調査をしました。調査には一般的な質問の他、見知らぬ人や犬、初めての状況に対する恐怖反応とその頻度など35にわたる質問が用意されたアンケートを用い、192犬種(生後3ヶ月齢~15歳、平均年齢5歳)のオーナーから3,284件の回答が寄せられました。このうち生後6ヶ月齢未満の子犬を除いた3,262件の回答を分析した結果、以下のようなことが見出されたそうです(抜粋)。

<恐怖症>
  • 犬の社会化度が低い傾向にある。
  • 母犬から受けた世話の密度が比較的乏しい。
  • 毎日の運動量が少ない傾向にある。
  • 室外犬と比べ、室内犬のほうが恐怖症に対して高いスコアを示す。
  • 同居犬と暮らしているケースが比較的少ない。
  • 年齢は比較的若い傾向にある。
  • 女性が犬を管理しているケースが比較的多い。
  • オーナーが犬と一緒に行う様々なアクティビティが少ない傾向にある。

<音響過敏症(音響シャイ)>
  • 毎日の運動量が優位に少ない。
  • オーナーにとって初めての犬であった場合、より多い傾向にある。
  • 避妊去勢手術をしてある犬のほうが比較的多い。
  • 避妊手術をしていないメス犬は、去勢手術をしていないオス犬と比べて、音に対する感受性がより高い傾向にある。
  • 比較的年齢がいっており、発症も後になってからのことが多い。
  • 1頭で過ごす時間がやや少ない傾向にある。
  • 社会化が不足気味である。

<分離不安>
  • 毎日の運動量が少ない。
  • わりと年齢がいってから新しい家に迎えられたケースが多い傾向にある。

散歩・運動は不安症や恐怖症に対して効力があるのか?

散歩する犬

散歩や運動量の不足が不安症や恐怖症と関連することもある: (c)Doable/amanaimages


前述の項目のうち、太字で示した環境因子部分は優位であったもの、または調査チームが注目している因子です。社会化不足は子犬が成長した後の性格形成や行動に大きく影響するということは周知のとおりですから、これらの不安症や恐怖症の関連要因となっていることは納得できるところでしょう。散歩や運動に関しても関連があるのではないか?ということは前々から言われていたことですし、また直感的にそれを感じて愛犬の問題を修正するトレーニング過程において実践していた人もいることでしょう。今回のこの調査は、それを裏付ける結果となったと言ってもいいのではないでしょうか。

近年、人間においてもセロトニン不足が話題になることがありますが、セロトニンは神経伝達物質の1つであり、不足すると不安や緊張、恐怖、イライラ、ストレス、集中力の欠如、睡眠ホルモンであるメラトニンの減少などに影響すると言われます。不足する原因としては過度のストレスや腸内細菌のアンバランスなどの他に、運動不足や日光浴不足が挙げられています。これが犬にも通用するとするなら、日中の運動量を増やしてあげることによって、多少なりとも不安や恐怖の軽減に効果が期待できる可能性はあるのかもしれません。少なくとも、ゼロではないでしょう。実際、犬の不安症・恐怖症の矯正に薬物治療が必要である場合、セロトニンの量を増加させる効果のある薬が使われることがあるとのことです。

さらには、たっぷりと運動することでストレスの発散にもなり、不安や恐怖を忘れ、疲れきって眠ってしまうことも考えられます。また、以前イタリアで行われた調査では、散歩をする時間が短い犬は散歩時間が長い犬と比較して見知らぬ人や物、大きな音など環境における刺激因子に対して恐怖を抱きやすく、かつトレーニングにおいても反応に欠ける傾向にあるという結果が出ていました(*2)。

こういったことからも、散歩や運動には思った以上の意味があるのだと言えるでしょう。


散歩や運動はただ長ければいいというものでもない

散歩や運動が大事だと聞くと、それにかける時間を長くすればいいのだと思いがちですが、そうではありません。たとえ時間は短めであったとしても、大事なのは密度だとガイドは思います。

様々な犬種は人間が望む能力や性格、形態を強化されて繁殖されてきました。彼らにはその能力を発揮できる“仕事”というものがありましたので、それを疑似体験できるような運動をさせてあげられたら理想だという考え方がありますが、現実的には無理なことが多いでしょう。代わりに、その犬種が、その犬が得意とするようなことを使った遊びとか、それを仕事として与える、体力の他に頭脳も使った遊びを取り入れる、などしてみてはいかがでしょうか。

東京建物リゾート株式会社が「犬の日(11月1日)」に行ったドッグオーナーの意識調査によると、愛犬の幸せは自分の幸せであると考える人が89.8%、愛犬と一緒に旅行に行きたいと思っている人が80.6%、その宿泊先として重視する点は愛犬が楽しく、快適に過ごせることという人が72.4%だったそうです(*3)。

前述の不安症・恐怖症に関連すると思われる環境因子の中には、「オーナーが犬と一緒に行う様々なアクティビティが少ない傾向にある」というものがありました。不安症や恐怖症は原因やバックグラウンドがすべて共通というわけではなく、それぞれ単独で起こることもあれば、合併症として起こり、より複雑化することもあります。ですから単純に考えるのは禁物ですが、多くの人が愛犬の幸せを願うのならばなおさらのこと、愛犬と一緒の散歩や運動、遊び、旅行などの楽しみ(密度も含む)を増やしてあげることは、得あって損はないのではないでしょうか。ただし、無理のない範囲であることはもちろん、あまりに親密過ぎるのは分離不安につながる可能性もありますのでご注意を。


参考資料:
(*1)Early Life Experiences and Exercise Associate with Canine Anxieties/Katriina Tiira, Hannes Lohi(2015)/PLoS ONE 10(11): e0141907. doi : 10.1371 / journal.pone. 0141907
(*2)Relationship between Management Factors and Dog Behavior in a Sample of Argentine Dogos in Italy(2008)/Gabriella Tami, Antonino Barone, Silvana Diverio/Journal of Veterinary Behavior
(*3)ドッグオーナーの意識調査(2015)/東京建物リゾート株式会社

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※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。