少し前の話になりますが、2008年2月に国土交通省から「都市部における公図と現況のずれ」(第三次分)が公表されました。これは2004年度~2006年度に実施された「都市再生街区基本調査」の成果によるものです。
公表された資料によると、実際の土地と公図のずれが10cm未満の「精度の高い地域」は全体のわずか5.5%にすぎません。
10cm以上30cm未満の「小さなずれのある地域」も14.6%にとどまり、30cm以上1m未満の「ずれのある地域」が28.3%、1m以上10m未満の「大きなずれのある地域」が何と48.9%に達しています。さらに10m以上の「きわめて大きなずれのある地域」も2.6%でした。
なぜそのようなことになっているのかについては、 ≪公図の正体≫ の記事でご紹介していますが、不動産取引にとって重要な公図がこれほどずれているというのは困った問題でしょう。
すでに60年以上前、1951年に始まった地籍調査(これによってある程度は正確な図面になります)ですが、全国における2015年3月末時点の進捗率は51%にとどまり、いまだに未着手の市町村も198(全体の11%)にのぼるようです。
ところで、公図がこのような状態だと「土地取引をめぐるトラブルの原因になりかねない」とか「不動産取引の停滞を招く」などといった指摘をする新聞報道もありましたが、実際のところはどうかといえば、取引に影響しているケースはさほど多くないでしょう。
というのも、土地を取り扱う不動産業者は「公図は、ずれている」ということを前提に仕事をしているのです。隣地などとの相互の位置関係をチェックするためには公図を参考にしますが、土地の形状や面積、敷地境界などの拠りどころとすることは、まずありません。
もちろん、公図に代わる新しい図面が整備されていれば、それを活用することはあるでしょう。
明治時代から回りがほとんど取引されていないような土地では、公図が大きくずれていることによって売買が阻害されることもあるでしょうが、都市部では過去数十年の間に何度か取引されたり、分筆されたりしている土地が大半です。
そのため、土地の面積や形状、隣地との境界などを示す何らかの資料(公図以外のもの)が存在するケースも多いのです。
とはいえ「公図は、ずれていることが前提」というのには悲しいものがあるでしょう。できるだけ早くすべての地域における地籍調査が完了し、日本中どこでも正確な図面が整備されることを願いたいものです。このままのペースだと来世紀かもしれませんが……。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年3月公開の「不動産百考 vol.21」をもとに再構成したものです)
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