政府の目標は「介護離職ゼロ」。現実はどうなっている?
2011年10月~2012年9月の1年間の介護離職数は10万人超え。企業活動への影響が顕在化しつつある中、2015年安倍首相は「新三本の矢」の1つとして「介護離職ゼロ」を打ち出しました。2020年代初頭までに介護離職をゼロにする、というものです。介護離職の中でも完全リタイア=介護専念の道を選んだ、あるいは選ばざるを得なかった人の状況を、明治安田生活福祉研究所が行った『2014年「仕事と介護の両立と介護離職」に関する調査』(※1)から見ていきましょう。
60%弱が介護開始から1年以内に離職
働き方の変化でもっとも比率が高いのが、「同じ働き方(=継続就労)」34%、次いで「勤め先を辞めて介護に専念(=介護専念)」と「勤務先を辞めて転職」が25%、「同じ勤務先で働き方を変更」は16%でした。介護開始から1年以内に退職した介護専念者は約60%。もう少し詳しく見ると、「すぐに」が男女ともに12.9%、「6カ月以下」女性33.5%、男性29.1%、「6カ月~1年以下」女性11.6%、男性13.8%です。介護の対応に右往左往している中での退職、という印象です。
次に、介護の負担を軽減する公的介護保険の利用状況を見てみましょう。
未認定や要支援1~2が60%超え
介護専念を選択した人の要介護者の介護保険認定度は要介護3~5が最も多く、40%前後を占めます。要介護3~5では終日介護を必要とするケースが少なくありませんので、介護専念の道を選んだのかも知れません。驚くのは介護保険の「認定を受けていない」や「要支援1・2」で介護専念を選択した人が少なくないことです。「介護認定を受けていない」は女性27%、男性17%、「要支援1・2」が女性12.3%、男性10%に上ります。この場合、介護保険の居宅サービスや自治体・社会福祉協議会の高齢者向け諸サービスを利用すれば、介護専念を避けることができたかもしれません。しかしあえて介護専念の道を選んだその理由は……。
「私しかいない」「自分で親の介護をしたかった」
介護専念を選んだ理由のトップは、女性「自分で親の介護をしたかった」20.6%、男性「自分以外に介護する人がいない」26%でした。女性が「自らの意思」で選択したのに対し、男性は「やむをえず」という印象を受けます。介護に専念することにした人の平均貯蓄額は1200万円
介護専念者は1200万円超の預貯金を保有しています。これに対し継続就労者はおおよそ970万円。1000万円を超える貯蓄のゆとりが、介護専念の道を選ぶ決断に繋がったのかもしれません。50%を超える同居・二世帯住居
介護開始時点の要介護者の住まいとの距離関係を見ると、「同居、二世帯住居」では50%を超える人が、1時間以内でも女性31.0%、男性19.9%が介護専念を選択しています。3時間以上の遠距離介護の場合、男性は介護専念を選ぶ傾向にあります。同居・二世帯住居の人で介護専念が突出しているのは、同居では介護保険の居宅サービスの利用範囲が狭いことが影響しているのかもしれません。
人間関係や家計の維持に悩む
最近感情の起伏が激しくなってきて……
日本生命保険が2015年9月に行った「介護に関する調査」 によると、2014年に比べて「介護経験あり」が50代、60代で急増しており、「介護経験で大変だったこと」のトップ3は、「精神的な負担」(62.6%)、「入浴・食事等日常の介助」(37.7%)、「介護に関する知識不足」「介護施設の入所手配」(29.3%)でした。また、介護対策として必要と思うことのトップ3は「貯蓄」「介護サービスや施設の下調べ」「本人・家族での事前の話し合い」でした。
介護期間は平均4年9カ月。4~10年が33.9%、10年以上が12.5%(※2)と長いのです。介護期間を要介護者と介護者が平安に経済的にもひっ迫せずに過ごすには、「本人・家族での事前の話し合い」と十分な貯蓄が不可欠です。また、介護者本人の老後のシミュレーションも忘れてはいけません。心の満足だけでは厳しい老後が待っています。
(※1)調査対象は、親の介護を経験した(介護中も含む)40歳以上の介護開始時の働き方が「正社員」の人。回答数は2268人。
(※2)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」平成24年度より。
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