社会ニュース/よくわかる時事問題

報復の連鎖はなぜ起きるのか(2ページ目)

パリで起きた同時多発テロを受け、フランスのオランド大統領は「これは戦争だ」と発言。アメリカ、ロシアとともにIS(イスラム国)の拠点を空爆することを明かした。しかし9.11(アメリカで起きた同時多発テロ)後を見てわかるように、武力での報復はテロを沈静化させるどころか更なるテロを誘発してきたのが実態だ。負の連鎖はなぜ終わらないのか。

松井 政就

執筆者:松井 政就

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負の連鎖は断ち切れるのか

だが、どうすれば報復の連鎖は断ち切れるのか、そのその答えは現在のところ誰にもわからない。

ただ、これまで起きてきたことから言えるのは、テロリストあるいはテロ国家とされる国に武力行使した結果、事態が好転したケースはないということだ。

今回テロを行ったISも、アメリカが武力で崩壊させたイラクの旧軍部を母体としていることが明らかとなっているように、武力行使はテロの被害者(被害国)が一時的に溜飲を下げる効果はあってもテロを収束させる解決策にはなっていないのが現状だ。


浮き彫りにされた「警備強化のジレンマ」

ところで、これまでのテロというと、その国の象徴的な場所や、要人あるいは政府の重要施設などを狙うイメージがあった。

ところがパリでのテロは不特定多数の一般人が行き来する場所、いわゆる「ソフトターゲット」と呼ばれる場所で行われた。

これはテロを防ぐという点で非常に深刻な傾向といえる。なぜなら、国として警備を厳重にすればするほど反比例して警備が手薄にならざるをえない場所が狙われたからだ。

国として警備を強化する場合、要人や重要施設が優先され、警官など警備のリソースもそれらに優先的に配備される。しかし、当然のことながら警備のリソースは限られているため、一方が優先されればもう一方は手が回らなくなり、一般人向けの警備は手薄にならざるをえない。

テロリストが狙ったのはまさにその「警備のジレンマ」だ。


不毛な論争によるもう一つの憎悪を避ける

パリでのテロの後、私たちのいる世界で不毛な論争も生まれた。いわゆる「トリコロールアイコン」の件だ。

フェイスブックがパリでのテロへの哀悼の表現として、利用者のアイコンにフランス国旗(トリコロール)をかぶせるオプションを用意したことが思わぬ論争を生んだ。

それは、
(1)トリコロールにしない人が「哀悼の意がない」「テロを容認するのか」と批判された点
(2)トリコロールにした人が、それまでに起きてきたテロを考慮せずパリだけ特別扱いしていると批判された点

に大別される。

しかしどちらも不毛な論争だ。(1)は、同じ意見を表明しない者を反対意見の持ち主であるとみなす極端な二極化であり、(2)は、いかなる立場の人からも批判を浴びないような意見以外を表明させなくさせる圧力である。

いずれも自分と異なる意見を排除する考え方で、力を合わせなければいけない集団が内部で敵対し、本来の目的とは無関係のことにエネルギーを奪われる行為である。

こうした論争が社会での対立構造というもう一つの憎悪を生み、テロリストが与えた以上のダメージを社会に与えかねないことを忘れてはならない。
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