北風が肌を刺すように冷たかった、ある冬の日の夕暮れのこと。最寄りの鉄道駅からはだいぶ離れたエリアにあるバス停の前に、知り合いの女性がぽつんと佇んでいるのを見つけました。
「あれっ、どうしたんですか?」
「娘がバスで帰って来るのを待っているのよ」
なるほど、小学生くらいのお嬢さんが居るんだ。だったら無事に帰って来るまで毎日心配なんだろうなぁ、お迎えも大変だなぁ、などと考えながらその場を離れたのですが……。
後日、別のオバチャンにその話をしたところ「ばかねえ、あそこの娘さんは高校3年生くらい。いまどきは小さい子どもより、お年頃の娘のほうが危ないの!」といわれました。
そう聞いて改めて考えてみれば、たしかに夜になれば薄暗かったり人通りが少なかったりする道が多く、やや寂しげなエリアだったのです。
住宅を選ぶとき、とくに一戸建て住宅のときには、鉄道駅から近いところよりも「バス便エリアのほうが自然環境に恵まれている」といった利点が強調されることもあるのですが、そのぶん夜になると静寂すぎるようなケースもありがちでしょう。
子どもの無事な帰りを待つ親の「手間」として考えれば、鉄道駅でもバス停でも同じことかもしれませんが、鉄道駅なら駅の構内や屋根のある待合室などで待っていることもできます。
ところが、郊外の標識だけがあるようなバス停だとなかなかそうもいかず、椅子やベンチすらないこともあります。気候のよいときならまだしも、寒い日、暑い日、雨の日、雪の日、強風の日など、バス停で子どもの帰りを待つだけでもかなりの忍耐を強いられることになりかねません。
それを子どもが高校を卒業するまで続けるとすれば、親の苦労も相当なものになりそうです。毎日、駅まで車で迎えに行くことも簡単ではないでしょう。
もちろん、そのような不便なバス停ばかりでもないでしょうし、商業施設なども適度にあって利便性が高かったり、夜でも賑やかだったりするバス便エリアもあるわけですが、昼間に物件見学をしただけでは夜の様子がなかなか分からないものです。
「物件の現地へは時間帯を変えて何度でも足を運ぼう」とはよくいわれることですが、バス便エリアのときにはより一層、慎重なチェックを心掛けなければなりません。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年3月公開の「不動産百考 vol.21」をもとに再構成したものです)