「最短ルート」が「最善のルート」とは限らない

高学歴な親が、子供に過度な勉強を強いて、子供を潰してしまうことがときどきあります。医師の息子が、親を撲殺してしまった事件などがその例です。
高学歴な親の過度な期待が子供を潰す!?

高学歴な親の過度な期待が子供を潰す!?

人は誰しも、自分の人生しか知らない。常に最短距離を選んで歩いてきた人は、あえて回り道をして思わぬ感動に出会うような人生の楽しみ方を知りません。たった一度でも回り道をしてしまったら、おしまいだと思ってしまいます。

たいていの場合は、どこかで回り道を余儀なくされ、その道程で思わぬ出会いに恵まれ、最短ルートを行くだけが人生じゃないと悟ります。そこから人生の視野が広がり、味わいが深まることは想像に難くないでしょう。

しかし、幸か不幸か常に最短ルートを進むことができてしまった人は、最短ルートから外れることを過度に恐れます。子供ができれば、子供にも最短ルートを歩ませなければいけないと思い込んでしまうのです。それ以外の生き方を知らないがゆえのある種の強迫観念です。

これが、高学歴の親が陥りやすい心理です。


自分の恐怖心を子供に預けるな!

学歴コンプレックスがあるにせよ、高学歴ルートから外れるのが怖いにせよ、人生の成功を学歴に囚われているという意味で同じ。コインの裏表でしかありません。

「学歴がないとまともな人生を送れない」という恐怖心を植え付けることで、子供をコントロールしようとする。それが教育虐待の温床になることもあります。

自分の知らない道を歩ませるのは怖いから、わが子にも自分と同じ道を歩かせたいと望んでしまう。そうやって自分の恐怖をわが子に引き継いで、自分だけ安心しようとする。しかし、親の恐怖を引き継いだ子供もまた、恐怖を感じながら人生を歩まなければならなくなる。

たしかに高学歴は手に入れられるかもしれません、しかし常に不安な人生です。それが本当に子供のためでしょうか。親自身が、恐怖心から逃れたいだけではないでしょうか。


目を向けるべきは子供ではなく、自分の中の恐怖

あるイギリス人が、笑いながら私に話してくれました。「私の家は代々、名門校を卒業して、オックスフォード大学かケンブリッジ大学に行くのが伝統でした。私も高校までは名門校に進学しました。でも、我が家系の200年の歴史の中ではじめて私が、オックスフォードにもケンブリッジにも合格できませんでした」。

相当なプレッシャーだったはずです。しかし父親は、「そういう人生もある」と、認めてくれたそうです。彼は今、日本で、音楽関係の仕事に就いています。素晴らしい人生を送っていると語ってくれた。

名門校に通い、オックスフォードやケンブリッジを卒業する人生だって悪いものではないでしょう。素晴らしい人生でしょう。しかしそのこと自体が目的化すると、人生がそのルートに規定されます。

わが子がそのルートから離脱するに際しては、父親にだって葛藤はあったでしょう。しかしこの父親は、それを引き受けたのです。恐怖を息子に引き継がず、自分の代で断ち切ったのです。これこそ本当にわが子を守ることではないでしょうか。

「わが子にはなんとしても立派になってほしい。なんとしても東大や医学部に進んでほしい。なんとしても……」。そんなことを思っているようなら、親として、自分の心の中にある恐怖に意識を向けたほうがいいかもしれません。


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