EGFやFGFといった「成長因子」の入った化粧品や保湿剤がよく販売されています。アンチエイジングへの効果はどの程度見込めるのでしょうか?
成長因子の種類は「EGF」「FGF」などさまざま
EGF、FGF、VEGF、KGFなど、「GF」とつく成分がいいと化粧品の宣伝で聞いたことがある読者の方は多いと思います。このGFというのは「Growth Factor(グロースファクター、成長因子)」の略です。成長因子は体の中のいろいろな細胞が作っていて、ほかの細胞にはたらきかけることで増殖を促したり、形態の変化を引き起こしたりします。前述のように、EGF(Epidermal Growth Factor)、FGF(Fibroblast Growth Factor)など種類はさまざまです。皮膚においては、キズができて治る過程で成長因子が活躍します。多くの成長因子がキズの部分にいる細胞から作られることによって、新しい細胞が増殖し、傷の部分に血管が新しく作られ、コラーゲンが増えて、キズは修復します。成長因子は体の中で作られますが、さらにそれを外から補うことでキズの治りをよくしよう、というコンセプトで、「FGF」を含んだ「フィブラストスプレー」という薬が皮膚科では処方されています。治りにくいキズやヤケドに対して使われていて、私の実際に使用した印象でもキズの治りはよくなります。
成長因子の若返り」「アンチエイジング」効果の真偽
最近は成長因子が含まれていることを広告している化粧品が増えています。特に、日本ではWeb上で大々的にマーケティングされているので、効果が気になっている読者の方も多いのではないでしょうか。成長因子は新しい細胞の増殖を促します。また、成長因子には血管を増やしたり、コラーゲンを作る「線維芽細胞」を増やす作用もあります。そのため、血行がよくなり、肌のハリが出て、「若返り」「アンチエイジング」によさそう!と思われる方も多いかもしれません。実際、成長因子入りの化粧品はこのようにマーケティングされているのですが、今ふれたような作用は、成長因子が体の中の細胞から作られた場合の効果です。
皮膚においては、キズが治るときに成長因子が非常に重要だということはよく研究され、データも豊富にあります。そのため、フィブラストスプレーというFGF入りの処方薬も厚生労働省の認可を受け、ヤケドや深いキズを短期的に治療するために販売されています。ところが、皮膚にぬったときにアンチエイジングに役立つのかどうか、という点にはしっかりしたデータがありません。(1)成長因子は美容液の中で安定なのか、(2)成長因子は皮膚の外側から吸収されるのか、(3)成長因子の美容に対する機能はどの程度なのか、という3点に関して疑問があるのです。
成長因子の疑問1:安定化
まず、安定した成分であるかどうかですが、成長因子は常温では数時間で分解してしまうことが多いです。キズに対する処方薬のフィブラストスプレーでも、冷蔵庫では2週間もちますが、常温ではすぐに分解して効果がなくなってしまいます。美容液の製造元ごとに成長因子を安定化する工夫はしていると思いますが、どの程度の期間、成分を維持できるかについてはデータが少ないのが現状です。成長因子の疑問2:皮膚からの吸収可否
また、分子量といってその成分の大きさを表す概念がありますが、キズがある場合にはともかく、分子量の大きな成長因子が本当に正常な皮膚の表面を通過できるかどうか、ということに関しても疑問があります。この問題を解決するため、 美容クリニックでは肌の表面に目に見えないほどの細かい穴をレーザーで開け、吸収力が上がった状態ですぐに成長因子を肌に届ける、という方法も行われています。分子量の大きな成長因子がどの程度皮膚から吸収されるのか、はっきりわかっていない
成長因子の疑問3:アンチエイジング効果
さらに、成長因子を正常な皮膚に使った場合の効果に関しては、しっかりとしたデータは得られていません。細胞を使った実験や、キズが治る過程では、たしかに成長因子は細胞を増殖させて新しい細胞ができたり、コラーゲンを作る量を増やしたり、血管を増やしたり、という効果がありますが、正常な皮膚に表面から塗った時にどのような効果があるのか、長期的に調べたデータは乏しいです。化粧品会社のマーケティングで、例えば「この化粧品の成分を培養している皮膚の細胞に使うと細胞の再生力が上がりました」というような写真付きの広告も見かけます。では果たして皮膚の表面に同じ成分を塗ることでアンチエイジングを実現できるのでしょうか?
実はそんなに簡単ではありません。細胞に直接成分をかければすぐに効果が見られますが、実際の人間の皮膚ではまず吸収されて、細胞まで届かなければなりません。その過程で不安定な成長因子は分解されてしまう可能性も高いです。また、培養している細胞の増殖する能力が成長因子で高くなったからといっても、それはキズがある状態の再現ですし、イコール「アンチエイジング」ではありません。
誰もが実践したいアンチエイジング。化粧品会社の研究に基づいたマーケティングが、そのまま私たちの皮膚にも通用するのかどうか、注意深く読む必要がある。
成長因子の副作用・注意点・発がん性の有無
皮膚に塗った時の効果がはっきり証明されていない、ということを紹介しましたが、では安全性はどうでしょうか?こちらに関しても、長期的な安全性に関するデータはありません。懸念されているリスクのひとつには、発ガン性があります。 正常な状態よりもむしろ、病気のときに体の中の成長因子を介したシグナルがアクティブになることが知られていて、その代表例がガンです。成長因子は細胞の増殖を促す成分であり、細胞が異常な増殖をきたすのがガンの原因ですから、成長因子が様々なタイプのガンに関係していることは想像に難くないと思います。
また、ガンにかぎらず、乾癬やケロイドといった病気では成長因子が原因の一部であるという研究報告がされています。成長因子のTGF-αやEGF(の受容体)は乾癬で皮膚が厚くなる原因として報告されていますし、TGF-βやPDGFはケロイドや強皮症といったコラーゲンが過剰に皮膚で作られてしまう病気に深く関わっているとされています。これらのことからも、成長因子は多ければ多いほどいいというものではなく、キズが治る時など、必要なときに必要なだけあればよいものだと分かります。成長因子を含んだ製品が病気の原因になるかは分かりませんが、長期的に皮膚が成長因子にさらされ続けるのが果たして肌にプラスになるのかは未知だということです。
成長因子を使った製品の使用の考え方
成長因子入りの美容液を使うことを積極的にすすめるほどのデータは、現時点ではありません。使用するかどうかは個人の好みや経験に基づいたものになります。皮膚科医としての私の意見では、シミやシワに効果があることがあると実証されているレチノイド(トレチノインなど)や、それに近い成分で最近では市販の化粧品にも含まれることの多いレチノールの方が効果や安全性が実証されていて、安心してアンチエイジングの効果を期待できるのではないかと考えています。【関連記事】