2011年3月11日に発生した地震は東北地方に甚大な被害をもたらしましたが、首都圏では「帰宅困難者」の問題が改めてクローズアップされました。後日、内閣府がまとめた推計では東京都の約352万人を筆頭に、首都圏全体で500万人以上が当日に帰宅できなかったようです。
東日本大震災よりも3年前の想定になりますが、政府の中央防災会議が2008年4月2日に公表した「帰宅行動シミュレーション」では、首都直下地震直後に交通機関がストップし、歩いて帰ろうとする人で大混乱する様子が示されていました。
満員電車(混雑率180%相当)並みの密集状態のまま押しとどめられ、3時間以上も身動きの取れない人が約201万人にのぼるほか、外出中に地震に遭遇する人は約1,400万人に達すると想定されています。
そのうち約1,252万人が自宅を目指して歩き始めることで道路には人があふれ、短時間だけでも満員電車並みの混雑に巻き込まれる人を含めれば、約475万人が思いどおりに動くことのできない状態となるようです。
「帰宅困難者の3分の1が帰宅を翌日に延ばせば、満員電車並みの混雑を半分に減らせる」、あるいは「家族や自宅の無事が分かれば急いで帰ろうとはしない人が多いはず」などといった分析もされていましたが、実際のところ、それはどうでしょうか。
同じ首都直下地震による死者は約11,000人と想定されています。安否確認のためのシステムを強化するとしても、ほとんどの人が経験したことのない大惨事のなかで、はたしてそれがうまく機能するのか、家族の無事をスムーズに確認できるのか、といった疑問も残るでしょう。
スマホや携帯が使えないこともあるでしょうし、仮に家族の無事が分かったとしても、大惨事であればあるほど「早く家族のもとへ帰りたい」という人が増えることも否定できません。
しかし、いざ帰ろうとして大混雑、大混乱に巻き込まれれば、途中で体調を崩したり倒れたり、あるいは怪我をしたりする人も続出するでしょう。あまり語られることはありませんが、何時間も身動きがとれないときはトイレも大問題になるはずです。
それに加えて、想定されているような地震火災が何か所も発生すれば、おそらく精神的に興奮状態となる人も多く、あちこちで喧嘩が起きたり、将棋倒しなどの事故が起きたりすることもあるのではないでしょうか。
また、政府の想定では幹線道路などは緊急車両が通行したりするため、歩行者は歩道に留まっていることが前提とされているようですが、満員電車並みの混雑になれば当然ながら車道にはみ出す人も多いと考えるべきでしょう。そうすると消防活動や救助活動の大きな妨げになることもあります。
東日本大震災のときには、東京都心部だけでなく各地の幹線道路で激しい渋滞が発生し、それが解消するまでにかなりの時間を要しただけでなく、緊急車両の通行にも大きな支障が生じていました。
いずれにしても首都直下地震が起きれば大混乱は必至です。帰宅困難者による「帰宅混乱」ですが、いざというときには職場で泊まれるような態勢を整えたり、大地震のときにはどうするのかを家族で話し合ったりしておくことも欠かせません。
「東日本大震災の後に話し合った」という人も多いでしょうが、生活環境の変化に合わせて定期的に見直すことも必要でしょう。
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(この記事は2008年4月公開の「不動産百考 vol.22」をもとに再構成したものです)
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