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心肺停止とは…心肺停止状態と死亡の違い・定義

【医師が解説】心肺停止とは、心臓と呼吸が止まっている状態です。「心肺停止状態」という言葉を、事件・事故などの報道で耳にすることがあると思いますが、心肺停止と死亡の違いがわからないという方もいるでしょう。法律上の死と生物としての死の定義を含め、わかりやすく解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

心肺停止とは何か……心肺停止状態と死亡の違い

心肺停止と死亡の違いとは

心肺停止と死亡の違いを解説


事件や事故などの報道で「現在心肺停止状態です」と報じられることがあります。「心肺停止」とは、心臓と呼吸が止まっているということですが、「死亡」とは違うのか不思議に思われるかもしれません。実際のところは、心肺停止は死亡している状態とは限らないのです。

法律における死と生物としての死の定義の違いも含めて、わかりやすく解説してみたいと思います。
 

法律で定められた「死亡」の定義

法律においての「死亡」は、刑法上では「死」についての記載があるものの、きちんと定義されているわけではありません。死は当たり前のものとして、法律で定義するものではないのかもしれません。民法では相続の問題から、失踪7年間発見されない時には法律上で死亡とされ、相続などが発生します。

それでは、失踪した場合以外では、何をもって法律上における「死」とするのでしょうか?

社会通念上の観点などから考慮され、法律学者の間で認められている通説があります。医師もその通説に従い、死亡を確認することになっています。
 
  1. 呼吸の停止
  2. 脈拍の停止
  3. 瞳孔反射機能の停止

の3点で判定する三徴候説です。これらは生きていく上で重要な呼吸機能、循環機能、脳機能の停止が回復可能であることを示しております。したがって、ある程度の時間、停止した状態を確認することになります。救急処置をしているときには一旦処置を止めてみて確認することになります。

一方、臓器移植に関する法律によって定義された死亡もあります。そこで挙げられている「脳死した者の身体」とは、「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体」と規定されています。脳死は「移植の時にのみ認められる死」とも言えます。
  1. 深い昏睡
  2. 瞳孔の散大と固定
  3. 脳幹反射の消失
  4. 平坦な脳波
  5. 自発呼吸の停止

これらの5項目を確認し、6時間以上の時間をおいて、同じ一連の検査をして、判定されます。脳死では自発呼吸はありませんが、心臓はまだ動いています。つまり、死の三徴候の脈拍停止がないわけです。

「心肺停止」として心臓と呼吸が停止すると、細胞が生きていくための酸素と栄養がなくなるため、すべての細胞が死んでいくことになりますが、心肺停止からすべての細胞が死んでいくには時間がかかります。

そのため、心肺停止=死ではありません。心肺停止の状態で病院に運ばれるときには、心臓マッサージ、人工呼吸をしていますので、蘇生している間は死ではありません。これらの蘇生法を行った上で、蘇生できない時に死を医師が確認してはじめて「死」となります。蘇生法を行っても心臓が動かない場合で、回復の可能性がないと判断されると「死」とされます。

逆を言えば、事故等で誰が見ても明らかに生存の可能性がない場合でも、基本的には医師が確認しない限り、「死」とはならないということです。

例外となるのは、先述した失踪の場合と、救急隊が死亡を判断する場合です。

1つには、頸部または体幹部が切断されていたり、全身に腐敗がみられたりして、明らかに死亡している場合と以下の項目をすべて満たした場合に
  • 痛み刺激に反応せず、意識レベルが全くないこと
  • 呼吸をしていないこと(死の三徴候)
  • 首の動脈である総頸動脈で脈拍が全く触れないこと(死の三徴候)
  • 黒目である瞳孔が開いていて、対光反射が全くないこと(死の三徴候)
  • 低体温であること
  • 筋肉が硬くなる死後硬直
  • 身体の下側に出血斑ができる死斑が認められること
を総合的に判断し、救急隊が死を判断することがあります。医療機関に搬送しても、蘇生の可能性が全くない状態ということです。
 

生物としての「死亡」の定義

生物として、必ず迎えるのが「死」です。

細胞の核には染色体という遺伝子が含まれていて、その中にはテロメアと呼ばれる遺伝子を保護する部分があります。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなり、それがある程度進むと細胞に死が訪れます。

人の体は37兆個とも言われる細胞で構成されています。多くの細胞が日々分裂を繰り返し、生きては死に、細胞が老化し減っていくことで人も老化していきます。昨日と今日の細胞が異なることもあり、時が経てば体の細胞もほとんど入れ替わります。そう考えると、自分自身が生きているということを保っているのは、「記憶」かもしれません。

しかし、脳を含めた臓器も徐々に機能が低下していきます。そして生きていくことが困難になり、死を迎えることになります。これが「自然死」です。医学は生物の仕組みを知り、様々な病気について知る学問です。医学の中では、死なないための教育が行われます。がんなどで全身状態が悪化し、回復の可能性がなくなり、徐々に心臓が動かなくなり、動かなくなると心臓への酸素と栄養がなくなり、心臓が止まっていく場合で「死」に至ることがあります。この場合、心肺蘇生をしないことを選択することもあります。このように、がんなどで死を直前に迎えた時には、すべての人が死について向き合う必要があります。

生物学的には、体をコントロールしている脳が機能停止することを「脳死」と言います。全身の細胞に必要な栄養と酸素を運ぶ血液が送れなくなる心臓が停止すると、「心臓死」と言います。「心肺停止」の状態は、自力で酸素を取り込めず、血液を運ぶことができなくなるため、蘇生を行わなければ生物としては「死」なのかもしれません。

死に対する考え方は人や社会でそれぞれ異なりますが、生きている以上はいつか迎えるもの。自分自身がどのように死を定義するかを考えている人は、少ないかもしれません。しかし、万一の場合に蘇生を試みてほしいのか、移植に賛同するのかといった意思を家族に伝えておくことは、とても大切なことです。死に伴う相続などの問題とあわせて、話し合っておく方がよいでしょう。生き方を考える意味でも、それぞれが「死」について考えてみることも、大切なことではないかと思います。
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