中河内雅貴 85年広島県生まれ。ジャズダンスとクラシックバレエを瀬川ナミ氏に師事。『シラノ』『ALTAR BOYZ』『宝塚BOYS』『ザ・ビューティフル・ゲーム』等様々な作品で活躍している。(C)Marino Matsushima
米文学史を代表する作家の一人で、今世紀に入ってからも代表作『グレート・ギャツビー』の村上春樹さんによる新訳出版(06年)が話題を呼んだスコット・フィッツジェラルド。若くして時代の寵児ともてはやされながら凋落した彼とその妻ゼルダの悲劇を、フランク・ワイルドホーン(作曲)とジャック・マーフィー(脚本・作詞)がミュージカル化、2005年にアメリカで初演されたのが『スコット&ゼルダ』です。
今回の日本初演では演出を鈴木裕美さん(『サンセット大通り』)、上演台本を蓬莱竜太さんが担当。精神病院で過ごすゼルダが、訪ねてきた作家ベンのインタビューに応えて衝撃の事実を告白するさまが、華やかなダンスを交えてスリリングに描かれます。この舞台で、日本版オリジナルのキャラクター「1920年代の象徴」を演じるのが、中河内雅貴さん。“時代の象徴”という一見、つかみどころのない難役を、ダンス力と幅広い演技力に定評のある彼はどう表現してゆくのでしょうか。稽古序盤、少しずつあらわれてきた手ごたえをうかがいました。
ストレートプレイとショーの楽しさが同時に味わえる
日本版ならではの贅沢な「仕掛け」
『スコット&ゼルダ』
「第一次世界大戦後の、アメリカがいろんな意味で非常に盛り上がっていた時期で、大恐慌になる前の色々な出来事や文化も溢れかえっている時代だったようです。そんななかでスコットは若くして小説が大ヒットし、破天荒なゼルダという妻もいて、大衆から憧れの存在とされていたけれど、時の流れは早くてすぐ忘れ去られてしまう。とってもうねりのある、興味深い時代だったんじゃないかなと思います」
――スコットはゼルダという“ミューズ”を自分のインスピレーションとして必要としていましたが、クリエイターはそういう存在を絶対的に必要としているのでしょうか?
「必要な人には必要なんじゃないかな。もともと(インスピレーションを)持ち合わせていて、ミューズを必要としない人もいると思うんです。でも、一つの世界を自分の頭の中で作りあげる仕事だけに、作家って面倒くさいですね(笑)。その中でも特にスコットはリアルな作品世界を追求するから、本作のような悲劇が起きてしまう。きっと本当の天才だったのでしょうね。…共感できるか、ですか? 僕は天才じゃないです(笑)。あそこまでは行けないし、わかりたいとも思いません。でも、なりたいものや目標があると強くなれるし、そのためにいろいろなものを排除してでも到達しようとする、その部分は似ていると思います」
――台本はストレートプレイさながらの、骨太の戯曲のように感じましたが、今回はミュージカルなのですよね、念のため(笑)。
『スコット&ゼルダ』製作発表ではシャープなダンスを披露。(C)Marino Matsushima
ショー部分は振付が素敵で、どの瞬間もシャッターチャンスになるようなカッコよさです。必ずしも20年代のスタイルに縛られているわけじゃなくて、振り自体には今のテイストも入っていますね。ミュージカルなのにここまで踊るの?というくらい踊りますが、今回はすごいダンサーが揃っているので、観ていてすごく引き込まれると思います。ワイルドホーンさんの音楽はリズムはジャズだけど、メロディはキャッチーで、どちらかというとポップスっぽいかな。テンポの早いものが多いので稽古序盤の今は大変ですけど、体に入ってしまえばすごく踊りやすいんじゃないかと思います。ストレート・プレイが大好きな方も、ショーが好きな方もどちらも楽しめる作品になるんじゃないかと。今の時点で、そんな予感があります」
*『スコット&ゼルダ』トーク、次ページにまだまだ続きます!