震災後、心身の疲れが招く命の危険とは
避難生活の中にも命の危険が……。エコノミークラス症候群は誰でも他人事ではありません
非常事態下では、一時的に避難所生活や車中泊を余儀なくされることがあります。降りかかった災害による精神的なショックや、プライベートな空間もなく避難所生活による疲労やストレスは計り知れません。
しかし、この時に最も大切なことは、できる限り心身の健康状態を悪化させないということです。なぜなら、いつ抜け出せるか分からない避難生活の中で弱り切ってしまうことは、さらなる病気やケガ、時には死につながる症状を招いてしまう危険があるからです。
緊張・興奮状態が続くと体調の変化に気づきにくくなる?
災害によりケガをした場合は処置をしようと行動に移しやすいですが、目に見えない疲労やストレスの対処は遅れがちになるようです。自宅はどうなっているか、親族や知人は無事なのか、これからの生活はどうなってしまうのだろう、と心配事や不安、すぐにでもやるべきことなどによって、常に緊張・興奮状態となり自分の体調の変化に気付かないことがあるのです。災害時における生活環境の変化や受ける精神的な影響は、体にとっても緊急事態。心も体もリラックスできる休息時間の確保が難しいため、気付いた時には回復しづらい心身の状態になってることも珍しくありません。
筋肉が張って硬くなるのは体からのSOS!自分でできるケアを
心や体の緊張が続く状態で過ごしていると、体のあちらこちらに「筋肉の硬さ」となって異常を知らせるサインが表れます。このサインを放っておくと、自律神経失調の症状(不眠・胃腸の不調・倦怠感・月経不順・頭痛・めまいなど)や腰痛、膝痛など筋肉や関節の症状につながります。特に背中や首は、強いストレスと疲労によって筋肉が硬くなりやすいもの。また、窮屈な場所で眠らなくてはならない・歩き回ることが多く足が疲労している・運動不足になっているという人も多く、その場合は下肢の血流に問題が生じるケースがあります。
そして気をつけなくてはならないのがエコノミークラス症候群です。同じ姿勢を続けることで下肢の静脈に血栓ができ、その血栓が肺に流れてしまうことで命に落としてしまうことがあります。震災関連死として挙げられますが、被災後の避難生活中に多い症状なので、決して他人事だと考えてはいけません。筋肉の硬さや血流の問題は、その後の健康状態を左右するものにもなりかねないため、非常時であっても自分でできる毎日のケアが重要になります。
エコノミークラス症候群予防のカギ
エコノミークラス症候群予防のために大切なのは、- 十分な休息・睡眠
- 水分補給
- ストレッチ
震災直後は水分を確保するのも大変かもしれませんが、トイレに行く回数を減らそうと水分補給を控えたりしてはいけません。成人の場合、可能であれば1時間にコップ1杯程度の水分を摂るようにしましょう。水分摂取で注意するべきことは、利尿作用のある飲み物(アルコールやカフェインが含まれるもの)は避けることです。また、災害時、気温や湿度の高い環境で過ごしたり、活動したりすることで脱水を起こすことがあります。可能であれば、経口補水液の備えがあると安心です。
以下では特別な道具や広いスペースがなくてもできるストレッチとエクササイズの方法を詳しくご紹介します。仕事で長時間座りっぱなしの場合の疲労回復などにも幅広く使える方法なので、日ごろのデスクでのストレッチにも取り入れて非常時にも役立てるようにしておくことも、立派な防災のひとつです。
誰でも簡単にできる 「その場で足踏み・腕振り」
心身の緊張状態が続くと体の筋肉が凝り固まってしまうため、まずは筋肉の温度を上げるために全身を動かすことが大切です。エコノミークラス症候群の予防のためにも、同じ姿勢が続きそうな場合はこまめに行いましょう。1. 立ち姿勢になり、その場でゆっくりと足踏みをします。膝を90度くらいに曲げて、伸ばして……と20秒間ほど行います。
スペースがあれば腕をゆっくりと大きく振ります
2. その際、両腕を大きく振れることができればなお良いです。肘を伸ばした状態で、腕の付け根から大きく振ります。スペースが限られている場合は、肘を曲げ肩甲骨を動かす意識で腕を振ってみましょう。
肩甲骨が動くように意識をして肘を曲げ腕を振ります
精神的な緊張状態を和らげる「足踏みしながら深呼吸」
前述の「その場で足踏み・腕振り」に引き続き行うことができます。1. 足踏みをしながら、鼻から息を大きく吸い込みましょう。この時、両腕を体の横から天井方向へゆっくりと挙げていきます。
2. 口からゆっくりと息を吐きながら、挙げた両腕を下しリラックスさせましょう。「1」「2」を3~5回繰り返します。
頭痛・不眠の元凶を断つ! 「首・肩の筋肉のリラックス」
無意識のうちに力が入ってしまい、それが当たり前になりがちな首や肩周りの筋肉ですが、意識的にリラックスを促すことで進行を食い止めましょう。1. 両肩をすくめて顎を少し上げ5秒間キープし、顔を正面に戻し両肩の力を抜きましょう。これを3回繰り返します。
後頭部と両肩を近づけるように動かします
2. 両手を組み後頭部へ当て、後頭部と両手で5秒間ごく軽い力で押しあいます。
強い力で押しあう必要はありません。強すぎると首が痛く感じることがありますのでご注意ください
3. 押し合いをやめ、10数えながらゆっくりと顔を下に向け首の後ろを伸ばします。強く圧さずに腕の重みで伸ばすようにしましょう。
腕の重みで首の後ろ側を伸ばします。くれぐれも強く圧しつけないように!
足がつる・むくみ予防にも! 「足末端の血流回復ストレッチ」
1. 仰向けに横になり、膝を軽く曲げたまま拳げます。足指先を手前へ引くように動かします。最初は硬く感じるかもしれませんが、最初は無理せず動かしてみましょう
2. 次に床方方向へ動かす……の動作を交互に繰り返し、足首を柔らかくしましょう。20秒ほど繰り返します。
「1」「2」をリズミカルに行いましょう
下肢のだるさを解消する「ふくらはぎ挟みマッサージ」
1. ふくらはぎの下部(足首の少し上辺り)を両手で挟みます。手のひらの手首寄りが当たる様にします。ふくらはぎへかける圧は気持ちが良い程度が目安です
2. 挟み込むように軽く圧をかけ円を描くように5回動かしたら、少し上方へ位置をずらし同様に円を描くように5回動かします。
少しずつ位置をずらしながら、なるべくふくらはぎ全体をマッサージしましょう
3. 膝下の辺りまでずらしながらマッサージをします。終わったら反対側も行います。
大きな震災後は自分自身の健康を気遣う余裕もなくなりがちですが、心身の健康を悪化させないよう、自分でできるケア方法をしっかりと実践するようにしましょう。