マンションの管理人や理事長、会計担当者などが管理費や修繕積立金を着服する事件がときどき報道されています。管理会社による不正の場合もあり、再発防止策なども講じられていますが、まだ対策が十分ではないマンションもあるでしょう。
少し古い話になりますが、2008年7月に長崎市内のマンションで「管理人が数年間にわたり管理費や修繕積立金の約2億円を着服していたことが発覚」という事件が報道されていました。
ちょっとした規模のマンションでは、みんなから集めた修繕積立金などの口座残高は数億円にもなります。もし、これを一人で管理していて、目の前に数億円の通帳があれば……。ほんの出来心から、とんでもない事態へと発展しかねません。
平成13年に施行されたマンション管理適正化法では、管理組合の通帳と印鑑を管理会社が同時に保管することを禁じています。そのため、平成11年に30.2%だった「通帳と印鑑をともに管理会社が保管」のケースが、平成15年には4.2%まで激減しています。
もっとも、法律で禁止されてから2年後の時点ですら、まだ4.2%の管理会社が同時保管をしていたということも気になる話でしょう。
ちなみに、国土交通省が平成26年度に実施した「マンション管理業者への全国一斉立入検査」では、検査対象となった149社のうち16社が「財産の分別管理」に関する是正指導を受けています。お金の管理に関することが十分に徹底されているとはいえません。
管理会社による通帳と印鑑の同時保管は禁じられましたが、万全を期すのであればさらに踏み込んで、管理組合の役員などによる同時保管も避けるべきです。
「通帳を管理会社、印鑑を管理組合役員が保管している」というのが最も多いパターンのようですが、通帳を管理組合がもつ場合には、毎月一定の期日に必ず記帳をして残高を確認するといった対応も考えたほうがよいでしょう。
また、年に1回の会計監査をするときに金融機関から発行してもらう「残高証明書」は、いつも通帳や印鑑を管理しているのとは別の人が受け取りに行くなど、お金に関わる業務はできるだけ複数の人で分担することも考えるべきです。
上で紹介した長崎市内のマンションにおける事件では、「着服を隠すために管理人が残高証明書を偽造していた」ということも報じられていました。
中古マンションを購入するときには、売主に対して「会計の不正防止のためにどのような対策をとっていますか」と聞いてみるのも有効でしょう。何も対策を講じていないというのであれば論外で、「人を疑いたくないから、すべて一人に任せている」というのも理由になりません。
また、実際には万全の対策が講じられていたとしても、それを売主が「知らない」というのであれば、管理組合の活動に対する居住者の関心が低いこと、あるいは管理組合自体が十分に機能していないということも推測できるでしょう。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年8月公開の「不動産百考 vol.23」をもとに再構成したものです)