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市村正親 NINAGAWA・マクベス観劇レビュー(2ページ目)

9月7日(月)にシアターコクーンで初日の幕を開けた『NINAGAWA・マクベス』。演出家・蜷川幸雄氏がシェイクスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」を安土桃山時代の日本に置き換え、市村正親さん、田中裕子さん、吉田鋼太郎さん、橋本さとしさん、柳楽優弥さんらの出演で上演されるこの秋話題の舞台です。あらすじ、みどころなど演劇ガイドが作品の魅力をお伝えします。(9月14日・舞台写真追加しました!)

上村 由紀子

執筆者:上村 由紀子

演劇ガイド

市村正親×田中裕子
超実力派の出演者たち

『マクベス』は言わずと知れたシェイクスピア・四大悲劇の一つ。主要登場人物であるマクベス夫人はシェイクスピアの戯曲の中でも”悪女”として捉えられることが多いのですが、田中裕子さんのマクベス夫人は生粋の悪女というより、愛する人を王位につける為、意識的に悪役になって夫の背中を必死で押す妻……そんな存在に思えました。

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(提供:ホリプロ 撮影:渡部孝弘)


マクベス役の市村正親さんは「野心はあるが悪心はない」と言われるマクベスそのもの。魔女の予言を信じ、ダンカン王(瑳川哲朗)を殺害するものの、結局極悪人にはなり切れず、良心の呵責と罪の意識とで幻影に苛まれ、自らを追い込んでしまうという人物造形がすっと胸に届きます。市村さんが持つどこか憎めない雰囲気も相まって、マクベスが遠くの時代の外国の人ではなく、すぐ近くに生きている人間のようにも感じられたり。

悪人になり切れない夫婦が自分たちの容量を超えた悪事を働き、一度は頂点に上り詰めたものの、最終的には自分で自分を追い込み破滅してしまう……マクベスとレディ・マクベスの人生の動線には現代に通じるメッセージが込められていると、二人の姿を見ていて強く思いました。

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(提供:ホリプロ 撮影:渡部孝弘)


バンクォー役の橋本さとしさんは今年3月のシェイクスピア作品『十二夜』で見せたコミカルさと哀愁とを併せ持ったマルヴォーリオ役とは180度違う、凛々しく正しい武将を好演。マクベスに対する微妙な距離の取り方や、口では説明できない不信感を繊細に表現する姿が響きます。

国に残した妻と子どもをマクベスに殺され、悲嘆にくれながらも復讐と国の正常化を誓うマクダフ役の吉田鋼太郎さんは、スケール感の大きさで作品に深みを与えます。市村正親、橋本さとし、吉田鋼太郎という今をときめく舞台俳優三人を、同じ作品で堪能できるのは蜷川作品ならではの醍醐味!素晴らしい!

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(提供:ホリプロ 撮影:渡部孝弘)


素晴らしいと言えば、ダンカン王の長男、王子マルカムを演じた柳楽優弥さん。父王を暗殺され、誰も信じられなくなったマルカムがマクダフを相手に打つ人生を賭けた一芝居には鬼気迫るものがありました。『海辺のカフカ』初演で、複雑な関係を演じた田中裕子さんとの久々の共演も(絡みがほぼないとはいえ)本作の見どころの一つかもしれません。

マクベスに大きな影響を与える三人の魔女が棲むバーナムの森は、NINAGAWA版では満開の桜の森として描かれています。今生とあの世とを繋ぐ「仏壇」の中で展開する人間達の愚かなドラマと、その模様をまるで芝居小屋の客のように見つめる二人の老婆。老婆は市井の人々、桜は刹那的に散りゆく人間たちの象徴、なのでしょうか。

骨太でありながらエンターテインメント性も満載。愚かで愛すべき人間たちの時代と国とを超えたドラマティックな舞台『NINAGAWA・マクベス』。”演劇”ならではの重量感をこれでもかと味わえる作品です。


【NINAGAWA・マクベス】
Bunkamura シアターコクーン(東京・渋谷)にて10月3日(土)まで上演中

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