日本版リステージ アンディ・セニョールJr.インタビュー
RENT日本版リステージを担当するアンディ・セニョールJr. (C)Marino Matsushima
――2012年から日本で新演出版のリステージをされているそうですが、新演出のポイントは?
「11年にマイケル・グライフが演出をリニューアルしたのは、オフ・ブロードウェイでの初演からブロードウェイに進出するまで全く時間がなく(注・2週間という短さ)、もうちょっと(演出で)どんなことができるか、探求したかったためです。ビデオの使い方をはじめ、主に技術的な部分で手をいれていきました」
――初演から20年近い時が経ち、社会的な状況が変化したことでリニューアルされたのかと思っていました。
「そうではないんです。作品の舞台は91年のNYで、そこにいかに真実味を持たせるかというテーマは変わっていません。社会状況という意味でいえば、“LGBT”というワードがよく聞かれるようになった今の日本では例えば(トランスジェンダーの)IVANが(ドラッグクイーンである)エンジェル役を演じることはとてもタイムリーなのではないかな。性転換を経験している彼はこの役にぴったりだし、実際稽古もとても楽しんでいますよ」
――今回のカンパニー、どうご覧になっていますか?
「僕はとても好きですね。エネルギッシュだし、キャストの中にはいわゆるスターも多いのに、お互い、そして作品に対して敬意を忘れない。キャリアステップとして本作をとらえている人は一人もおらず、自分を完全にショーの一部と意識しています」
「美しさ」に満ちた
今回のRENTキャスト
――ファンの方がたのために、メインキャストの一人一人について、コメントをいただけますか?「ええ、もちろん。マーク役の村井良大さんは(表現者として)ハングリーで、作品をとても愛している。スポンジみたいな吸収力で、今はなんでもとりこんでいます。ロジャー役の堂珍嘉邦さんはRENTファミリーの中心的な人物として、日々みんなに接している。とても謙虚な人で、僕も大好きです。もう一人のロジャー、ユナク(超新星)さんは勤勉。韓国のポップスターだが、皆に敬意をもって接している。と同時に、抗えないような魅力があり、彼と仕事ができて嬉しく思っています。
製作発表に集結したキャスト(C)Marino Matsushima
コリンズ役の加藤潤一さんは、オープンハートの持ち主。前回公演に引き続きの出演だけれど、技術面はもちろん、“男”としての成長を感じさせてくれる。もう一人のコリンズ役、TAKE(Skoop On Somebody)さんは落ち着いた、素晴らしい人。カンパニーのパパ的存在です。エンジェル役を演じる平間壮一さんとIVANさんはとても個性を異にする二人で、平間さんは高度なテクニックがあり、演劇的。IVANさんは演技経験は少ないですが、とても豊かな人間力がある方です。そんな二人が一緒に稽古をし、助け合っているのを見るのはとても面白いですよ。モーリーン役の上木彩矢さん、ソニンさんも作品をとても愛し、作品に自分を捧げています。ジョアンヌ役の宮本美季さんは今回が初挑戦ですが、自分をさらけ出して取り組んでいる。そしてベニー役のSpiさんはかなりのベテラン(注・10年にアンサンブル出演、12年からベニー役)ですが、彼も前回は男の子っぽかったのが、今回は“男”に成長していますね。
チームとしてもとても団結していて、稽古を見ていると美しいものを感じます」
――アメリカのキャストとはどう違うでしょう?
「やはり文化的な違いで、日本人は表現の仕方が異なるので、この作品においては例えば性的な部分について、より西洋風の表現に踏み込んでもらうようにしています。逆に、お互いを本当に理解し、本当に思いやろうとする姿勢は、日本人ならではだと感じますね」
――この20年近くの間に、この作品が意味するものは変わったと思いますか?
「そうは思いません。ジョナサン・ラーソンは“ファミリー(注・“血縁関係”という意味ではなく、“一緒に生きる者たち”の意)”“愛”そして“真実”についての、普遍的なミュージカルを書いたのだと思う。それは何世紀経っても不変であろうと思います」
――アンディさんが本作の中で特にお好きな曲は?
「(ロジャーとミミが「あなた無しでは生きられない」と歌う)“Without You”ですね。ステージングもゴージャスだし、体の奥深くで共感できる曲なんです」
――では、この作品全体の魅力とは?
「真実を描いている、ということ。常にこの作品をベストの形でお見せできるよう力を尽くしたい、と思わせるものがあります」
「RENT」2012年公演より。写真提供:東宝演劇部
「それぞれのキャラクターを通して、心を動かし、何か新しい可能性を感じてほしいですね。皆さん、いろいろな状況の中で、もしかしたら問題を抱えながら生きていらっしゃると思いますが、人生について、人間関係について、まだそこには可能性がある、と。
本作はシンプルなロック・エンタテインメントであるように見えるかもしれません。もちろんロック・ミュージカルだし、娯楽的な要素もありますが、決してそれだけではない、深い真実がこの作品にはあります。あなたの人生を変える可能性が。」
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かたや出演者、かたやスタッフと立場は違えど、ユナクさん、アンディさんの『RENT』、そして今回のカンパニーへの愛着と信頼は揺るぎないものでした。なぜここまで、固く信じることが出来るのか。本作を一度でもご覧になったことのある方なら、きっと頷けるものがあることでしょう。まだ『RENT』を体験したことのない方も、久しぶりという方も、アンディの言う「真実」を掴みに、ぜひ劇場へお出かけください!
*公演情報*『RENT』9月8日~10月9日=シアタークリエ、10月16~18日=森ノ宮ピロティホール
*次頁で『RENT』観劇レポートを掲載しています*