現代の鎌倉彫の誕生と博古堂
明治維新を迎えると「廃仏毀釈令」が出され、各地の寺院や仏像が打ち壊されました。これにより仏像を彫る仕事を失った当時の仏師たちは、鎌倉彫の制作へと舵を切ったのです。この大変な時期に、新しい時代の鎌倉彫を確立し、鎌倉彫を再興したのが、後藤斎宮(いつき 1841~1912)と、その子の運久(1868~1947)です。圭子さん、尚子さんの曾祖父にあたる運久は、若い頃には京都・奈良をよく旅して、天平・藤原時代の古典を学ぶとともに、明治になって海外から入ってきた写実主義を取り入れました。
後藤家の門前に立てられた「鎌倉彫再興碑」。後藤斎宮と運久、三橋鎌山と鎌岳父子を顕彰する
驚くのは、当時の商品に付けられた、なんと100年間有効という保証券。明治23(1890)年の発行ですから、つい最近まで有効だったことになります。製品への自信と同時に、どうしても鎌倉彫を世に出そうという心意気も感じます。
その後、鎌倉彫を後押しすることになったのが、横須賀線の開通(1889年)。別荘地としての鎌倉の発展に伴い、皇室、政財界人、外国人など富裕層の顧客を得ました。
『博古堂』が誕生したのは、明治33(1900)年のこと。後藤流の特徴でもある「後藤彫り」や、塗りの仕上がりに古色な趣を出す「乾口(ひくち)塗り」の技法は、この頃に考案されたもの。
『博古堂』を代表する、俊太郎氏の作品を復刻した商品
戦後は、圭子さん、尚子さんのお父様である俊太郎さんの時代になり、株式会社博古堂に改組。その後も鎌倉の文化人をはじめ多くの人々に愛され、平成18年俊太郎さん他界後は、圭子さんが後を継ぎます。
現在の当主である圭子さんは、『博古堂』について、以下のように話されます。
「鎌倉彫らしさをきちんと残しながらも、 時代に応じた形をご提案して行きたいと思います。具体的には、鎌倉彫の粋とも言える作品を目指す一方で、現代の生活でも使いやすいラインナップや、デザインや技法を工夫して価格を抑えたものもご用意しております。」
現代の生活でも使いやすいモダンなラインナップ「刀華」
鎌倉彫ときくと、とにかく"高価なもの"、というイメージがあるかもしれませんが、実際にお店に足を運んでみると、デザインも価格も様々な商品があることが分かります。
筆者は自宅で鎌倉彫のお盆を使っていますが、とても軽くて使いやすく、また、漆はアルコール、酸、油、塩分、高温などにも強いので、手入れも基本的には水洗いと乾いた布で拭くだけで、とても簡単です。
観光で鎌倉を訪れたら、ぜひ、一度お店に立ち寄り、本物の鎌倉彫を手にとってみられてはいかがでしょうか。
彫りや塗りを少なめにし、求めやすい価格の「Hakko」シリーズ
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■鎌倉彫 博古堂
住所:鎌倉市雪ノ下2-1-28
アクセス:鎌倉駅東口より徒歩12分
TEL:0467-22-2429
定休日:なし(年末年始を除く)
営業時間
3月~10月 9:30~18:00
11月~2月 9:30~17:30
ホームページ → http://www.kamakurabori.org/
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