塩化ベンザルコニウムとは? 掃除にも使える!
消毒されているもの、安心の証
「塩化ベンザルコニウム」「ベンザルコニウム塩化物」。ベンザルコニウムって何……?きっと多くの方にとっては、聞き慣れない単語なのでは。もし、この単語に慣れ親しんでいるとしたら、おそらく何らかのかたちで、医療に携わっている方でしょうか。医療現場では、決して珍しくないものです。
でも大半の方にとっては、まさに今「生まれて初めて聞いた」名称かも知れません。ただ実際には、意外なところでこの「塩化ベンザルコニウム」との接点を持ったことのある人が多勢なのではないかと思われます。
それは病院の玄関にあるような手指消毒剤。市販のウエットティッシュ。おしぼり、お手拭き。コンタクトレンズ洗浄液。制汗・デオドラント剤。それからどんな家庭にもありそうな有名な軟膏にも、この「塩化ベンザルコニウム」は配合されているからです。
そんな「塩化ベンザルコニウム」の担う役割は、「消毒」「殺菌」が主で、無色・無臭という性質からも上記のようにさまざまな用途に利用されています。聞いたことがないわりに、その活用範囲は広いのです。
「塩化ベンザルコニウム」って何ですか?
リンスで髪は洗えません!
さて、ずばり。「塩化ベンザルコニウム(ベンザルコニウム塩化物)」とは、何なのでしょう?それは「陽イオン界面活性剤」の一種。水溶液は「逆性石けん」として知られているものです。
「塩化ベンゼトニウム」は類似物質です。これら総称して第4級アンモニウム化合物といいます。
……なるべく、平たくご説明しましょう。「逆性」石けんという文字の通り、いわゆる普通の石けん(これは「陰イオン界面活性剤」、普通の合成洗剤やシャンプーなどもこちら)とは「逆の性質」を持った「陽イオン界面活性剤」であり、「石けん=シャンプー」なら「逆性石けん=リンス」のようなものです。つまり「塩化ベンザルコニウム」はリンスに近いものなので、それ自体に「汚れを落とす」洗浄力はありません。
ただ、「陽イオン界面活性剤」というのは、プラスに帯電している性質から、マイナスに帯電しているタンパク質やセルロース(植物の繊維)に引き寄せられ、これに強く電気的に吸着します。このとき細菌(タンパク質)やカビ(植物に近い)の表面を変性させ細胞を破壊することから「殺菌、消毒」剤として利用できるというわけです。
とても安価な塩化ベンザルコニウム
【第3類医薬品】オスバンS 600mL
「塩化ベンザルコニウム」は上手に活用できれば、きわめて安価に家庭のいろいろな箇所の殺菌、消毒ができる便利な素材です。日本薬局方のベンザルコニウム塩化物液(逆性石けん液)として「オスバンS」という商品名の殺菌消毒剤が市販されているので、これを例にとって計算してみましょう。
この10w/v%水溶液(100ml中に10gの塩化ベンザルコニウムが溶けています)は600ml入り、ドラッグストア等で800円程度で購入できるものですが、これを掃除用途に(清拭、噴霧用として)使用する場合、200~500倍に希釈します(原液で使用することはまずありません)。
200倍では水1Lに5mlを薄めますが、これで200mlのスプレーボトルに分ければ5本分にもなります。このボリューム感でコスト的には(5mlぶんで)たったの7円程度ですから、消毒用エタノール等と比較するとどれだけ安価か分かりますよね。
こんなに使える塩化ベンザルコニウム
意外と汚いのが電話機の受話器。口臭が残っているような気がする場合にはぜひ殺菌消毒を!
この200倍希釈した「塩化ベンザルコニウム・スプレー」は、リビング等の床や畳、手すり、洗面所や浴室、トイレ、また自家用車の座席や、冷蔵庫、電話機(受話器)、ゴミ箱等と言った広範なものの殺菌、消毒に活用できます。
家の中で雑巾のような臭いや、アンモニア臭のような悪臭が気になる場所では何らかの細菌が繁殖している可能性が高く、またカビ臭さがあればカビが繁殖していることが考えられます。まずこういった場所でいろいろ試用してみましょう。
基本的な使い方としては、布等にスプレーしたものでそれらを拭くか、直接噴霧します。ただ、次亜塩素酸ナトリウムほどではありませんが、対象物に対して退色や変色のリスクが全くないわけではないので、最初は目立たないところで試してからの方が安心です。ゴム手袋等もはめておいた方が無難です。
また、この200倍~500倍希釈した液体に「漬け込む」かたちで利用することもできます。例えば部屋干し臭の酷いタオルなどは、一度洗濯して汚れを落とした後で水5Lに「塩化ベンザルコニウム」を10ml溶かしたバケツ等に30分~2時間ほど浸け置きして下さい。
これで臭いのもとになっている細菌を殺菌、浸した洗濯物は一度脱水してからもう一度普通に洗濯し直し乾燥させて下さい。あの嫌な臭いが落ちていることに気づくはずです。
塩化ベンザルコニウム使用の注意点
臭いが気になるシャツやタオルは「塩化ベンザルコニウム」での漬け置きを試してみては?
繰り返しになりますが、「塩化ベンザルコニウム」は「逆性」石けんなので、石けんのような汚れ落とし効果はありません。また汚れ(有機物)に触れることで消毒、殺菌力が落ちてしまいますので、かならず一度石けんで汚れを落としたものの「殺菌、消毒」に使用するようにすることも忘れずに。
言わずもがなですが、陰イオン界面活性剤である石けんと、陽イオン界面活性剤である塩化ベンザルコニウムを混ぜるようなことはしないで下さい(打ち消し合って洗浄力も殺菌力も失われてしまいますので……)。混ぜなくても「同時に使う」「濯がず連続して使う」のもNGです。
「殺菌、消毒」に役立つと言っても万能ではありません。結核菌、緑膿菌などの菌、また基本的にウイルスに対しては効果がありません。インフルエンザ、ノロ、ロタウイルスによる嘔吐物の処理、感染防止の掃除などには残念ですが役立ちません。
また、適切に希釈するという点も必ず守って下さい。無意味に高濃度の使用をして皮膚に触れると化学やけどを起こすことがあります。「濃ければ濃いほど、もっと効くかも!」などと勝手な判断をしないようにして下さい。原液を希釈する際には、手に触れたり目に入ったりしないよう注意して下さい。
一度希釈した水溶液は、もったいないからと残さず、できればトイレ掃除などに転用して当日中に使い切るようにしましょう。子どもが誤飲などすると命に関わりますので、ペットボトルを使用した希釈はおすすめしません。また、くれぐれも原液の保管は子どもの手に触れない場所で!
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