以前に比べれば減ってきたようにも感じますが、電柱にくくり付けられた「捨て看板」(ステカン)や、貼られたチラシ(電ビラ)などによる不動産広告は相変わらず多いでしょう。東京都が毎年秋に実施している「捨て看板等の共同除却キャンペーン」の結果をみても、除却された違反広告物の大半を不動産業が占めています。
捨て看板などを掲出する行為は、軽犯罪法、道路交通法、それぞれの自治体が定める屋外広告物条例などに違反するほか、自治体によっては景観条例、迷惑防止条例などにも抵触します。
また、捨て看板などを取り付けるところを警察官に目撃されれば現行犯として捕まることになるため、不動産業者にとってもリスクの高いものだといえるでしょう。
そのため、不動産の業界団体でもかなり以前から独自のルールを策定したり、自主規制委員会を設けたりして、会員である不動産業者が捨て看板などを掲出しないように指導しています。
屋外広告物としてあらかじめ自治体の担当部署や所轄警察署長の許可を得ていれば違反にはならないものの、捨て看板による不動産広告が許可されることはまず考えられません。所有者の許可を得て私有地の中に看板を立てるのであれば、問題にならない場合もあるでしょうが……。
また、捨て看板などを掲出する行為だけでなく、広告として書かれた内容自体も宅地建物取引業法に違反することがあるほか、「不動産の表示に関する公正競争規約」からは大きく逸脱し、必要な項目が満たされていることはありません。違反広告物を出すときに、表示のルールだけは守ろうとする意識がはたらくことはないでしょう。
さらに、捨て看板などがそのまま放置されることも多く、街の美観を損ねたり近隣住民に迷惑をかけたりするなど、地域社会の一員としてのマナー面でも大きな問題があります。
違反だらけの捨て看板などがどうしてなくならないのかといえば、それが効率のよい集客手段だからです。他の広告に比べてだいぶ安いコストで、より多くの問い合わせを得られるため、いったん捨て看板などに手を染めた不動産業者は、そこから抜け出すことがなかなかできません。
捨て看板などに書かれた物件そのものを売るためではなく、集客の手段として使われることもあります。それを見て問い合わせをしてきた客の住所、氏名、連絡先を聞き出しさえすれば、別の物件を買わせるように営業攻勢をかけることもできるのです。
そのため捨て看板などに書かれるのは、マイナス面を隠しておけば「割安に感じる物件」、限られた情報だけなら「気になりそうな物件」の場合も多いでしょう。
捨て看板などで「一見すると魅力的な物件」を目にしたとき、どんなものなのか問い合わせをしてみたくなるかもしれません。しかし、その前に冷静になって考えてみることも大切です。
さまざまな法律、条例、規約などに違反しながらも捨て看板などを掲出する不動産業者が、はたして信頼できる相手なのか、その後の取引では消費者保護のためのルールを守るのか、業者の利益優先で強引な営業をされることはないのか、きちんと物件調査をしたうえで正確な情報を伝えてくれるのか……。
どうしても気になる物件があれば、他の不動産業者に調べてもらうことも一つの方法です。
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