不妊症

男性不妊に鍼灸は効果があるか?治療のタイミング

【鍼灸師が解説】男性不妊の原因は、性行為自体が行えなかったり射精できなかったりする「性機能障害(性機能不全)」と、精子を作り出す機能に問題がある「造精機能障害」の2つに分けられます。EDや造精機能向上に対する鍼灸の効果や適応、治療のタイミングなどについて解説します。

徐 大兼

執筆者:徐 大兼

鍼灸マッサージ師 / 不妊鍼灸ガイド

男性不妊の原因は性機能障害か造精機能障害の2種類

相談する男性

男性不妊の原因は様々ですが、大きく2つのタイプに分けられます。鍼灸の適応となるもの、ならないものをまずは正しく知っておきましょう

男性不妊の原因は、「性機能障害」か「造精機能障害」かの大きく2つに分けられます。

性機能障害は、性機能不全と言われることもありますが、性行為自体が行えない、射精に至らないといった機能的な原因です。性機能障害の原因の90%はストレス、アルコール、喫煙と心因性のものです。過去のセックスの失敗や妊娠のプレッシャーによる性機能障害がある場合は、カップルカウンセリングやセックスカウンセラーの門を叩いてみるのも一つで手ですが、鍼灸はストレスや心因性のものについては効果を発揮しますので、鍼灸師に相談ください。

もう一つの原因である造精機能障害は、精子を作り出す機能自体に問題があるタイプで、男性不妊の90%の原因を占めるとまで言われています。通常は一回の射精で数億の精子が射精されますが、子宮に到達する前に99%は死滅し、卵子と精子の出会う場である卵管膨大部までたどり着けるのは数百以下と考えられています。そのため、精子の数が少ない、精子の運動性が乏しい場合は妊娠しにくい原因となります。

顕微受精

顕微受精

造精機能に障害のある病気として、無精子症、乏精子症、精子無力症などが挙げられますが、一匹でも精子を取ることができれば、顕微受精により受精卵を得ることが可能です。10~15年前では不可能だったクライフェルター症候群なども、現在では「MD-TESE」という顕微鏡下精巣内精子回収法などにより、精巣の中の精細管に存在する精子を見つけることさえできれば、受精卵を得ることが可能となりました。

顕微授精後に成功しても受精障害が起こる精子側の原因

しかし、顕微授精ができたとしても、受精障害が起こることもあります。受精障害の原因は精子・卵子それぞれにあり、内容も多肢にわたりますが、精子に限っていえば以下のような理由が考えられます。

  1. 精子が卵子を活性化する因子をうまく放出できない、もしくはその因子が欠如していて、卵を活性化できない
  2. 老化や酸化ストレスなどにより、精子のDNAが損傷している

一見元気な精子でも、DNAの損傷があれば細胞分裂が正常に進みません。顕微受精は一匹の精子を培養士が選別し、その精子を直接卵子へ注入する方法です。しかし、その一匹の選別方法は大体が目で見る「目視」で、一番元気が良く、直進していく精子を選ぶことで行います。

目視でわからない精子の状態・精液所見をよくするメリット

通常射精した精子にはDNAが壊れた精子(DNA損傷精子)が混在しているのが普通です。また、精子の数を表す精子濃度や運動率に問題がなくても、精子の卵子に突入する「先体反応」という能力が低い場合があります。これらはいずれも目視では実際の状態がどうなっているか、確認のしようがありません。

また、最近卵子のミトコンドリアが注目を集めていますが、精子のミトコンドリアについても、卵子と同様、注目を浴びています。

いずれにしても、濃度・運動率・正常形態精子が増えるなど、精液所見がよくなることには大きなメリットがあります。 精液所見が良くなれば、当然妊娠する確率もあがるからです。それまで体外受精や人工授精の適応だったケースでも、治療レベルをステップダウンすることもでき、女性側の負担を減らすことにもつながります。

また、同様に精子のDNA 損傷が減ることにも大きなメリットがあります。精子の質が改善することで、流産率低下、自然・人工授精・体外受精・顕微授精の妊娠率の上昇、 胚盤胞到達率の上昇を望めます。

男性不妊に対する鍼灸の効果・適応について

鍼灸全般的に言えることですが、形の異常は鍼灸の適応ではないことが多いです。男性不妊の場合、「精索静脈瘤」や「閉塞性無精子症」といって精管が閉塞しているために射出精液中に精子がまったく出てこない状態などは、鍼灸での改善は期待できません。また、性機能障害の原因が病気のものについてはケースバイケースですので、患者様の状態をお伺いして決めなければなりません。いずれにせよ、病気が原因の場合は病院との連携が重要になってきますので、かかり付け医師の診断と現在服用中のお薬一覧表などを持参し、鍼灸師に相談されることをお勧めします。

以下で、それぞれの男性不妊の原因に対する鍼灸治療効果について具体的に見ていきましょう。



ED・性機能障害・性機能不全に対する鍼灸治療の効果

性行為自体が行えない、射精に至らない原因が、日常的なストレスや海綿体への血流低下の場合は、鍼灸の適応となる可能性が高いです。但し、うつ病の薬や育毛剤など、服用している薬が原因になっている場合もあるので、必ず鍼灸師に服薬の有無を伝えてください。

造精機能向上のための鍼灸治療の効果

性行為を介さない妊娠、つまり人工授精や体外受精や顕微受精による妊娠を目指している方にとっては、精子の質の向上を図ることが目下の目標になります。 精子は卵子と違って、一日に一千万から一億以上、一秒に数百個ぐらいの勢いで大量生産されています。精子を大量生産するためには正常なホルモン分泌と大量の血流を要します。そのため、精巣を栄養する動脈は、精巣動脈、精管動脈、外精動脈という主に3つの動脈があり、それらの血流抵抗をできるかぎり減らし、血流を上げることが大切になります。鍼灸には血流を改善する効果があるため、その点で精子の質向上に役立つと言えます。

2009年のシモン氏による発表では、無精子症及び重度の乏精子症に鍼灸は効果的であることを示唆しています。陰嚢の表面温度と精子の数を比較している研究では、陰嚢の温度の低下がみられた症例については、精子の数の改善割合が高かったこと。すなわち、推測にはなるものの、精巣への血流が改善したことにより、陰嚢の温度低下に寄与しているものと考えらえると報告されています。

また、精巣動脈の血流抵抗を調べた論文によるとある一定の周波数にて鍼通電を5分間行うことで、精巣への血流改善が示唆されている。

また、ホルモン分泌で特に重要なのが脳(下垂体、視床下部)から分泌されているホルモンです。女性同様、男性もFSH、LH、プロラクチンなどのホルモンを分泌しており、脳の興奮状態が続くことで、それらホルモン分泌異常が起こり、男性不妊の原因となります。

男性不妊鍼灸をはじめる時期・タイミングの目安

精子が精子のおおもとの精原細胞から精母細胞と成長して、精子になるまでにおおよそ70~80日かかるといわれています。ですから鍼灸を始める時期は結果を出さなければならない大切な日から逆算して70~80日前になります。結果を出すためには継続的に鍼灸治療を受けていただく必要があるので、覚えておいてください。

男性不妊に効くツボ

鍼灸が仕事の都合などで受けられない人にはお灸もおすすめです。男女一緒にできるお灸のツボなども紹介していますので、「「冷え」は不妊の大敵・・・セルフ灸で体質改善」もあわせてご覧ください。男性不妊で使うツボは女性が使うツボと同じですので、夫婦やパートナー同士で一緒に楽しんでください。

不妊治療のための鍼灸治療に関しては、「失敗しない、不妊鍼灸の選び方」「鍼灸は不妊に効果があるのか……妊活での鍼灸・効果」記事もぜひあわせてご覧ください。

■参考文献
1)Siterman et al, “Success of acupuncture treatment in patients with initially low sperm output is associated with a decrease in scrotal skin temperature”, Asian J Androl. 2009 Mar; 11(2): 200–208.
2)Yo et al, “Point- and frequency-specific response of the testicular artery to abdominal electroacupuncture in humans”, Fertil Steril. 2008 Nov;90(5):1732-8. Epub 2008 Feb 20.
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