鍼灸は不妊に効果的と言えるのか…「不妊に効くツボ」の有無

鍼灸治療

当然ながら、「鍼灸が不妊に効く」と単純に言うことはできません。まずは不妊の原因をしっかりと把握することが大切です

2008年、『BMJ』(イギリス医師会雑誌)に掲載されたManheimer(1) の報告では、「胚移植前に鍼灸治療を受けることにより、妊娠率と生産率が有意に上がる」とされています。

一方で、「鍼灸施術の方法とタイミングを標準化しなければ、プラシーボ効果の範囲を超えないだろう」(2)(Meldrum 2013)という報告も。しかし、鍼灸も漢方と同様に、その方法とタイミングを標準化することは至難の業です。なぜなら治療は、ひとり一人違うカラダの様々な状態に合わせて行うため、同じ人であっても毎回手順や鍼を刺す場所が違うからです。

不妊の原因は様々です。私は講演会などで、よく「不妊に効くツボを教えてください」と聞かれるのですが、不妊は症状でもなく、病気でもありません。不妊は様々な原因によって起こる結果です。ですから、その様々な状況に合わせたツボや治療が必要になってきます。当然ながら「鍼灸が不妊に効く」と単純には言えません。鍼灸は不妊に効果的ではあるけれど、それは不妊の原因をしっかりと把握し、その原因に対して適切な治療を行えば……ということなのです。

不妊鍼灸の効果があるもの・効果がないもの

不妊鍼灸は効果があると言えるものの、実は残念ながら効果が見込めないものもたくさんあります。不妊症の主な原因として排卵因子、卵管因子、子宮因子、男性不因子の4つが挙げられますが、卵管が詰まっている、子宮の奇形、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、精索静脈瘤、精管の詰まりがあるなどの「形の異常」が認められる場合は、鍼灸の適応外となります。また、染色体異常や無射精症、原発性精巣機能障害も鍼灸の適応外となります。鍼灸を受ける前に、これらの異常がないかどうかを女性は産科婦人科、男性は泌尿器科にて基本検査を受けることは不妊の原因を早期に発見し、無意味な不妊鍼灸治療を受けないためにも重要です。

不妊鍼灸が効果を発揮するのは、自律神経の乱れが原因の不妊症です。

自律神経の乱れによって人が不妊になる理由

人間のカラダは、高度に発達した神経系や内分泌系を持ち、それを絶妙なバランスで制御するシステムを維持することで健康を保っています。しかし近年、生活スタイルや食生活の激変により、このシステムを維持するのが難しくなっています。

システムが崩れると、妊娠に関連する中枢神経系とホルモン系の統合的・共同的な行動がうまく働かなくなり、それにより妊娠しにくくなると考えられます。また、原因不明な不妊の多くは、この絶妙なバランスが崩れたことで起こると考えられます。

このような場合、カラダをパーツごとに分けて診る西洋医学ではなく、カラダ全体を小宇宙と考え、カラダ全体のシステムを総合的に診る鍼灸が力を発揮します。鍼灸はカラダにあるツボへ鍼を打つことによってカラダのバランスを制御するシステムに働きかけ、崩れてしまったバランスを回復する手助けができるのです。

また、多くの鍼灸院では、治療と並行して生活習慣の見直しも行っていきます。具体的な内容は、私の著書『カラダを温めれば不妊は治る!』で紹介しているので、ぜひご参考にしていただければと思います。

多様な日本の鍼灸……近年は低周波鍼通電療法やレーザー鍼も

日本での鍼灸の歴史は約1200年と言われ、特に江戸期には鍼管の発明や目の見えない人の保護政策として、日本独自の鍼灸療法が確立されました。そのため、現在の日本では伝統医学から現代西洋医学まで、様々な理論や診療技術があり、他国の鍼灸と比べると多様性に富んでいます。

伝統医学の代表としては「経絡治療」や「中医鍼灸」があり、現代西洋医学の代表としては「神経反射理論」や病態把握に基づく「鍼灸療法」があります。私の鍼灸院では、経絡治療をベースに、現代鍼灸や最近普及しつつある頭皮鍼の一種、山元式新頭皮鍼(YNSA)。さらに、より効果を高めるため、低周波鍼通電療法やレーザー鍼(直線偏光近赤外線・スーパーライザー)などを併用しています。不妊鍼灸の選び方については、「失敗しない、不妊鍼灸の選び方」もあわせてご覧ください。

鍼灸の不妊に対する治療的作用・効果

次に、鍼灸の治療的作用と、それに付随する不妊領域への応用について紹介します。

■鍼灸の鎮痛作用
鍼灸刺激は、ポリモーダル受容器(侵害受容器)をはじめとする各種の感覚受容器を興奮させ、鎮痛効果をもたらします。ポリモーダル受容器とは痛みを感じる感覚器官で、機械・化学・熱刺激のいずれにも反応するため、鍼灸刺激の末梢受容器(経穴=ツボ)の有力候補とされています。また、炎症関連物質によって反応性が高まることから、圧痛点(阿是穴・あぜけつ)や痛みの引き金になるトリガーポイントの成因の一つとも考えられています。

婦人科領域において鍼灸は、生理痛などの痛みに対する予防・治療に効果を発揮します。また、生理痛を治療、予防することにより、妊娠しやすいカラダを作ることが可能です。なぜなら、生理痛は多くの場合、体調と密接に関わっていることが多く、生理痛を改善することで、妊娠される患者さんが多くいます。

排卵には、プロゲステロン及びその受容体とプロスタグランジンの合成が必要ですが、プロスタグランジンの生成を妨げる薬に、解熱・鎮痛剤などの非ステロイド性消炎鎮痛薬(アスピリン・ロキソニンなど)があります。こうした薬を使わずに鍼灸治療によって重度の生理痛を治し、自然妊娠した症例を数多く経験しています。

また、鎮痛作用として鍼灸が思いのほか不妊領域にて役に立つのは、採卵後の痛みや不快感に対する処置です。採卵後、下腹部が重いといった症状を訴える方が大変多くいらっしゃいますので、鍼灸にてある程度痛みを和らげることが可能です。

■手足など、四肢末梢循環に及ぼす作用
鍼灸刺激は交感神経性の反応や血圧の変化に伴う受動的な変化、また軸索反射による局所性の反応が、両手足の末梢循環に影響を及ぼします。たとえば鍼を刺したあと、手足がポカポカしてくるのは、鍼灸のこういった作用によるものです。このメカニズムを利用して、カラダの細部にまで栄養と酸素がしっかりと届くよう、様々な鍼灸手技を使って、末梢循環の血流を良くします。

不妊領域においては、子宮動脈や卵巣動脈の血流改善が妊娠に向けたカラダづくりのポイントになってきます。「鍼灸を特定の部位、深さに刺すことによって、その刺激が子宮動脈の血管抵抗を有意に減少させた」(5)といった学会報告があり、私の治療院でもこの方法によって、良好胚の採卵率の上昇を経験しています。

また、子宮・卵巣・脳への血流が改善することは、子宮内膜や卵質の改善にも影響を与えます。鍼灸治療によって子宮動脈や卵巣動脈の血流を改善することは卵の質を左右し、また子宮動脈の血流改善は子宮内膜のクオリティーに直接かかわると思われます。

■脳の血流に及ぼす作用
健康な人では、手足のツボへの鍼刺激が脳の血流を増加させるといわれています。PET(陽電子放出断層撮影)やfMRI(磁気共鳴機能画像法)を用いて脳局所の血流を測定した報告も数多くあります。最近では、脳循環障害に対する鍼灸治療も注目されています。また、鍼灸治療が脳の遺伝子的表現に何らかの影響を与え、視床―下垂体―卵巣軸の異常を調整することによりGnRh(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)、LH(黄体化ホルモン)、E2(エストラジオール)といった妊娠にかかわるホルモン分泌の正常化を図る(6)ことも報告されています。

■着床・免疫寛容について
免疫寛容とは妊娠成立のために着床した胚を異物としてとらえず、攻撃しないようにするメカニズムのことをいいます。

受精卵が子宮に着床しない着床不全の原因としては、卵管や子宮の問題、免疫因子、凝固因子や卵、精子、胚の問題など様々な要因がありますが、免疫に関しては、リンパ球の一種であるNK細胞が子宮における免疫システムの維持に重要な機能を果たしています。NK細胞の異常は、着床不全のリスク因子となりえるのです。(6)鍼灸では、この着床のリスク要因を減らすことができます。レーザー鍼(LLLT)を使用することにより、リスク要因となりえる特定のNK細胞を制御できることがわかっています。(7)

■鍼灸刺激のリラクセーション作用
鍼灸には気分をリラックスさせる効果があり、心地良い鍼灸刺激はα波を増大させる作用があることは、脳波所見からも伺えます。また、鍼灸刺激には抗ストレス効果あるとも言われています。

不妊治療をしていると心身共にストレスを感じることは少なくありません。筋肉の緊張を緩め、肩こりの解消やリラクセ-ション効果を得ることは不妊治療のストレスや疲れを和らげることにつながります。

まとめ

不妊鍼灸治療において大切なことは、鍼灸刺激による生理的反応をしっかりと整理し、不妊の原因を特定、推理して、適切な処置を行うことです。不妊の原因は多肢に渡り、原因を特定するのが困難な場合も少なくありません。そんな時はカラダをパーツごとに考えるのではなく、東洋医学特有の考え方で健康について見直してみるのも一つの方法です。不妊に加え、腰痛・めまい・耳鳴りなどの不定愁訴も一緒に治療してもらえます。

東洋医学では“冷え”の概念や「身心一如」といった独自の健康観があります。薬で調整する治療が上手くいかない場合は、鍼灸を試してみてはどうでしょう。西洋医学と上手に組み合わせることにより、相乗効果が期待できます。

不妊鍼灸では多くの場合、患者さんと接する時間が長く、鍼を刺すために患者さんのカラダに必ず毎回触れます。鍼灸師はカラダに触れることによって、ご本人が気づいていない、カラダが発するメッセージをキャッチすることができるのでは、と思っています。


■引用文献

1)Manheimer E1, Zhang G, Udoff L, Haramati A, Langenberg P, Berman BM, Bouter LM.:Effects of acupuncture on rates of pregnancy and live birth among women undergoing in vitro fertilization: systematic review and meta-analysis, BMJ. 2008 Mar 8
2)Meldrum DR, Fisher AR, Butts SF, Su HI, Sammel MD : Acupuncture--help, harm, or placebo?、Fertil Steril. 2013 Jun;
3)川喜田健二:侵害刺激としての鍼灸刺激―ポリモーダル受容器仮説―。鍼灸臨床の科学、医薬出版、395-408,2000
4)辰巳千之, 木津正義, 森誠一郎, 美濃佑果, 長谷川謙介, 岩崎礼佳, 杉本純一, 鈴木裕明, 本城久司. 仙骨部鍼治療が ARTの妊娠率と妊娠までの期間に及ぼす影響. 第61回全日本鍼灸学会学術大会抄録集. 全日本鍼灸学会, 2012. p.239.
5)Chen BY. Acupuncture normalized dysfunction of hypothalamic-pituitary-ovarian axis. Acupuncture and Electro-Therapeutics Research, 1997, 22:97–108.
6)福井淳史、難治症例に対する新たな着床不全対策 -着床不全に対する免疫学的アプローチ、日本受精着床学会第10回ART研修コースブログラム2014
7)渡部 一郎、局所直線偏光近赤外線照射が生理機能に及ぼす影響、Biomedical Thermology(0916-6238)25巻2号 Page34-39(2005.11)
8)矢野忠、図解鍼灸療法技術ガイド 2012 Page 124-209
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