不妊症

空の森クリニック訪問記(沖縄)(4ページ目)

今回は沖縄の「空の森クリニック」に参りました。実際行ってみて、今までの不妊治療専門クリニックとは一線を画したコンセプトだということが分かりました。とにかくイイ意味で「ぶったまげた!!」というのが本音です。

執筆者:池上 文尋

先生のお話を伺っていると、ボーンホールクリニックみたいで、いろいろな先生方が勉強しに集まって、また散っていくという感じのイメージがあると感じましたが、いかがでしょう?

そうですね。ここでずっと仕事をしてほしいというわけではなくて、ここでやっている医療サービスの形がこれからの流れになっていくのであれば、若い先生方が来て、大学とか研修の時には気が付かなかったけれど、「こういう医療の方がいいよね」って思ってくれて、それぞれが医療をやる場所で実践してくれたら、医療そのものが変わっていくだろうと思います。その礎になっていけたら、本当に望外の喜びですね。
sora

診察室です。


中島先生以外にも、どんどん若い先生がきてくれて、きちんと学べて、生活もでき、そして夢も描けるような経営をしっかりやっていくのが、私の仕事ではないかなと思っています。まだ私が一番ゲストを多く見ているので、一年・二年後にはだんだんそれをシフトしていこうと思っています。

院長や理事長から言われて医療をやるのではなくて、利益はすぐに上がらないかもしれないけれど、優秀な若い医師たちが、精一杯ゲストのために自分のありったけの力を傾けてほしい。そういう医療をしてゆくためには、私が日常診療の第一線から退きながら、経営者として今以上に働き、実際にゲストを診る先生方が最高のパフォーマンスを発揮できる舞台を創らなければと思います。

今後、日本中の先生方がこちらに見に来たいと言われる思うのですが、それについてはどのようにお考えですか?

そうですね。ここがちょっとホットスポットになったらいいなと思います。今の体外受精を含め生殖医療が、本当の目的がどこにあるのかを少し見失っているのではないかなと思っています。もちろん、先生方みなさん一生懸命やっていらっしゃいますが、その本当の目的、誰のための医療なのかということを、もう一度一緒に考えてみてもいいのではないかなと感じています。

それは、もしかしたら、従来の既得権益を少し削ることになるかもしれませんが、医者の方も、今まで得られなかった充実感、幸福度が得られることになるのではないかと思います。
sora

中庭のクリニックを象徴する木です。わざわざ絵本の木と似たものを探し出してきたそうです。


私もずっと働いています。朝早く、小鳥が鳴く頃に登院して、帰りは、素敵な照明に照らされる空の森クリニックを見ながら、9時とか10時頃に帰ります。

最近、働く意味というのが、はっきりとしてきました。なんで働いているのですか?なぜ医療しているのですか?と聞かれた時に、私は、ここに「森を作りたいからです」と答えることができます。ここにいい森をつくるために働いているというすごくシンプルだけど、何事にも代え難いことです。

毎日私はこうして木が育っていくのを見て、鳥が集まってくるのをみて、この森を作って守ることが私の診療の最終的な目的だと思えると、ものすごくピュアな元気がでてきます。難しい症例を抱えている時も、体力的にしんどい時も、すごくピュアなモチベーションが得られます。

ここに来ている患者さんが待合室のベッドで寝ておられたのですが、それぐらいリラックスされているのが衝撃的でした。これについて教えてください。

呼んだら、来なくて、何人か診療した後にまた呼んだら慌てて走ってきて「すみません!寝てました!」って言っているのを見ると、私たちの術中にハマったなという感じですね。

ALBA OKINAWA CLINICのときは小さなビルだったのですが、患者さんは多い時に月に5,6回から10回くらい通院されるわけですが、妊娠がわかるのはそのうち1回だけですね。それも、ほとんどが妊娠しないわけですね。じゃあこの人が通院する意味は何なのかというと、超音波をするため?注射するため?私の中では、それだけではなくて、仕事で何かがあったとか、家庭の中で何かがあったり、姑と何かあったりしても、クリニックに来て私たちとお話し、受付とお話し、看護師とお話して、帰る時にちょっとでも心が軽くなってくれたら、私たちの存在価値があるのではないかとずっと考えてきました。
sora

至るところにこのようなベッドがあり、リラックスできるようになっています。


でも、私たちがどこかが悪いかなと思って従来の病院に行くと、「何でもなかった」と言われた瞬間には、気持ちが軽くなりますが、病院の環境の問題として、入った時よりも帰りは、ぐったりという感じですよね。

私がスタッフにいつも話をするのは、患者さんは知られたくないことを話して、女性にとっては、すごく見せたくないところを見せて、その上、痛いこと、注射もされて、挙げ句の果てに、お金を払って帰るのです。こんなサービス業ってないですよね。だから医療は究極のサービス業だと思うのです。

言葉で伝えるのは難しいのですが、そんなことをしてまででも、また来たい、その中でよかったと思わせるために、そういうサービスを我々は求められているということを、この部分だけはなんとか伝えたいと思っています。先ほどお話しましたとおり、痛い思いもするし、高いお金も払うけど、ちょっと非日常的で、毎日鬱々していたのが、ほんの5分10分でもちょっとでも癒されたら、それは対価に見合うかなと思っています。

空の森の理念を日本の先生方、いずれは世界の先生方と共有できれば、何か変わるんじゃないかなと思うのですが、いかがでしょうか?

世界中の生殖医療に携わる先生方が、いつか生児獲得率50%とか、60%になるようにと望みながらも、やっぱり無理だろうな、とどこかで考えていらっしゃると思います。
sora

手術室の上からのクリニックの眺望。


ものすごい知識や知恵を持っていらっしゃる素晴らしい先生方なので、仕事のゴールを、生殖医療における妊娠・出産率とするのでは無く、もっとご本人たちの充実感や幸せ感を得ていいのではないかなと思います。仕事を通して世の中へ素晴らしいメッセージを発信する、次の世代がより良くなる様な行動をとってゆく。そこに深い満足感が得られるのではないでしょうか。

最後に読者の皆さまにメッセージをお願い致します。

サービスは常に、受ける側が変わっていくことで、みんな変わっていくと思います。空の森クリニックでの体験を通して、他の医療施設での待合や診療のありかたが、どこか違うんじゃないのかなと思ってくれるとうれしいです。 

以前のALBA OKINAWA CLINICのときも、看護師に白衣を着せていなかったのですが、最初はそれが嫌だという人もいたのです。病院は「こうあるべきだ」という考えのゲストもいたのです。しかし私の生きるテーマは新しい価値観の創造なので、新しい価値観を作り、気がついたらそれがスタンダードになっている、みんなの一般的な価値観になっていってほしいなと思っています。

そうではなければ、私が生きた意味がないのではないかなと思います。人には認められなくてもいいのですが、自分自身の納得感が欲しいですね。

でも、新しい価値観はやはり叩かれます。前のクリニックでも叩かれた経験もあります。でもスタッフは、そういう経験がないので、叩かれるとへこんでしまうのですが、新しい価値観を作るべきで、叩かれるのが当たり前だと思っています。

先入観なく、当院を見て感じてもらえると、共有出来ることがたくさんあると思います。ぜひ来て感じてもらいたいですね。


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