不妊症

空の森クリニック訪問記(沖縄)

今回は沖縄の「空の森クリニック」に参りました。実際行ってみて、今までの不妊治療専門クリニックとは一線を画したコンセプトだということが分かりました。とにかくイイ意味で「ぶったまげた!!」というのが本音です。

執筆者:池上 文尋

今回は沖縄の「空の森クリニック」に参りました。京野アートクリニック理事長の京野先生にぜひ見ておくべきだと薦められたためです。実際行ってみて感じたことは、今までの不妊治療専門クリニックとは一線を画したコンセプトだということ。とにかくイイ意味で「ぶったまげた!!」というのが本音です。

sora

理事長の徳永先生です。

それでは徳永理事長へのインタビューをお送りいたします。

このクリニックを作ろうと思ったきっかけについてお話頂けますか?

不妊症として治療を受けることは、夫婦関係や人生について考える、とてもいいチャンスなのではないかと思うのです。同じようなことを池上さんもご自身のサイトに書いていらっしゃったのを読んで、ぜひお話したいと思っていました。

私は佐久本哲郎先生が1990年に体外受精を成功なさった時期に、琉球大学に入局して、お産で赤ちゃんを取る前に卵子をとっていたのです。産婦人科医としては珍しいスタートで、佐久本先生に本当に可愛がっていただきました。それから、滋賀県に行って研究をしたりして、その後戻ってきて、また佐久本先生にお世話になっています。

sora

沖縄生殖医療の父と呼ばれている佐久本院長先生です。

患者さまは、治療に対してものすごく一生懸命です。こちらも日曜日も夜もなくずっと一生懸命働いて、どちらも一生懸命頑張っているのですが、なぜかどちらも疲れて、幸せを感じないのはなんでだろう?というのが、私が独立しようと思ったきっかけでした。

一生懸命それなりに勉強してきて、誠心誠意を持ってやっているつもりだけれど、妊娠しなかったら、それでお互いが幸せじゃない、という風になってしまいますので、この治療で妊娠をエンドポイントにしてしまってはダメなのではないか思っていました。私は、そこからスタートしています。

例えば、治療の1回のサイクルにしても、妊娠できる確率は良くて3割ちょっとですよね。ということは、その1回のサイクルで考えると、7割近くの人が不成功というか、不満足ということになりますね。

このクリニックの前、10年くらい前になりますが「ALBA OKINAWA CLINIC」を作るとき、2年間の準備期間があったのですが、何もないところからスタートする私が経営者になるということで、まずどのようなビジネスモデルを立てるか考えました。

普通マーケティングの世界で考えられている方法だと、たくさんの人に満足してもらうことが重要なわけですよね。不妊治療でのたくさんの人というのは、治療で妊娠しない人です。その人たちが「また行きたいな」「また頑張りたいな」「あの雰囲気のところに行きたいな」と思ってくれるものを作らなければいけない、というのが、私の原点です。
sora

クリニック受付の様子です。


私自身としては、私という人間・医師・医療技術で来てもらうのではなくて、その場というか、クリニックや空間の魅力で治療される方が来てくださるようにと思い、そのために前のクリニックでもいろいろな工夫をしていました。

例えば、ドクターやナースが白衣を着ないことや、「患者」という名前ではなく「ゲスト」という呼び方、ゲストの名前を人前で呼ばないようにクリニック内でPHSを使ったりと、不妊治療という枠を超えたサービスを提供しようと思っていました。

じゃあ、技術・医療の質はどうなのかというと、それは“言わずもがな”にしたいというのがありました。「うちはこれだけすごいですよ」っていうのは、医者として、あるいは看護師として、当たり前なので、そこはあえて言わないけど、人には絶対負けないだけの努力をするという気持ちでやっています。だから、最初は1人でスタートしたのですが、今ではこうして佐久本先生を含め、麻酔科医の先生1人もいれるとドクターは8名です。また東京から来たいと言ってくれている先生もいます。

優秀なドクターの皆様なので「考え方が面白い」だけではなく、医学としてもある程度のものがないと、先生方は集まらないと思います。だから、ビジネスモデルの部分だけではなく、医療技術も日々研鑽しているし、他の人たちが考えないところにも目を注いで10年やってきて、ようやく実を結んできたかなという気がします。
sora

駐車場も広々と。


でも医療技術の面を、私は売りにはしたくなかった。なぜかというと、どんなにすごい技術を持っていても、実際にエンドポイントとして「健康な赤ちゃんを抱く」のが最終的な成功だとなってくると、2割弱ですよね。

どんな技術をもってしても、皆が健児を抱くことはかなわないのに、医療技術をことさら強調するのは、どうなんだろうと疑問に思っています。少なくても不妊治療は1ヶ月や2ヶ月という短期では終わらないということをずっと前提に考えてきました。

いろんな先生方もこういうことをしたいと思っていらっしゃると思うのですが、実際にここまで具現化されているというのはなかなかないと思います。
なぜ、このように実現化できたのでしょうか?

「IVFなんばクリニック」の森本義晴先生にはALBAを作る時から、すごく応援して頂き、今回の開院式にも御夫婦でご参列頂き、励まして下さいました。森本先生にすごく感化されている部分がありますね。

私たちは宇宙の中のひとつの存在であり、宇宙的な時間軸の中で考えると、私たちの一生なんて、ほんの一瞬の光のようなものですよね。生きている中で、例えば子を持つとか持たないとか、子どもができるとかできないとかっていうことは、精神的に病んだりとか、本当にそこまでするようなことなのか、大切な人生の中でそこまで思い込むようなことなのかなという疑問は、おそらく森本先生と私に共通している部分であると思います。

今、子どもがいないというこの状況っていうのは、はたして不幸せなことだったり、遠回りだったりすることなのか……逆に宇宙の全体の中からすると、本当はすごく意味のあることなのではないかなというのは、私も森本先生も池上さんと同じ認識であるのではないかと思います。

だったら、それをどう演出するか。不妊治療を受けたことがない夫婦には感じられないような「気づき」を演出するのが私たちの本当の仕事なのではないかなと思うのです。だけど、そのためには不妊治療という一つの題材を持って、そこに精一杯やらなければ、「気づき」は得られないんですね。達観して、「いや、一生の中で子どもができなくたってクヨクヨする必要はない。できないなら、できないでいいじゃないか」ということでは、「気づき」は得られないです。
sora

中庭の様子です。


精一杯やってみたうえで、それでも届かないというのは、何かの力ですよね。何もしないでぱっと子どもができる、あるいは一生懸命全てのことをやっても妊娠できなかったのに、「先生、今までありがとうございました」って言った次の月に妊娠するということもあるじゃないですか。

その時に、「あ、私たちはやっぱり宇宙の中の一つであって、最後に妊娠するかどうかは、やっぱり何かの力が授けてくれるからじゃないか」と思える。精一杯やったからこそ感じることだと思います。だから精一杯やるんです。でも、精一杯やったところで、妊娠したかしないかという成果のところを目的にするのではなくて、本人の成長や、夫婦の成長や絆を深めるという部分をエンドポイントにおきたいと思っています。

妊娠して、健康な子どもができることはもちろん目標ですが、このクリニックの目的ではないんです。私のスタートがそこだったので、どうしても真の目的を追求することになりますよね。

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