審査委員長:安藤忠雄氏の記者会見
神宮の森、周囲環境との関係などその場に馴染む佇まいか、どうか・・・巨大すぎる景観の問題。五輪後の施設利用、維持費の問題。そして、膨大にふくれあがった巨額な建設予算の問題。そもそもコスト面も含め、コンペ条件をクリアし選定した最優秀案であるはずなのに「何故?」という疑問が当然湧いてくる。
関係各省庁、関連団体、それぞれが互いに責任回避を始め、それでも巨額な予算で強行突破を選択した矢先の白紙撤回。分かりやすく情報開示もままならぬ間に二転三転するとは、合点がいかない。
先の首相白紙撤回表明の前日7月16日、今プロジェクトの国際コンペでイラク出身の建築家:ザハ・ハディド氏の案を最優秀賞に選んだ国際コンペ審査委員長の建築家:安藤忠雄が記者会見で重い口を開いた。
・安藤忠雄氏の会見ノーカット(1)
・安藤忠雄氏の会見ノーカット(2)
・安藤忠雄氏の会見ノーカット(3)
安藤氏の記者会見での発言趣旨は以下の通りだ。
■ 新国立競技場の総工費が増えた責任
有識者会議を欠席したからといって、全ての責任が自分にあると言われるのは理解しがたい。ザハ案を選んだ責任はあるが、委員会が任されたのはデザイン選考迄であって、それ以降の基本設計、実施設計には関わっていない。
■ 選考時の総工費の検討
選考時は、予算1300億円とされていた。だが、選考はあくまでもどのデザインにするか、を決める場でありコストについて徹底的な議論はなかった。
■ 総工費が増えた感想
選考後基本設計時に1625億円の額が示されたが、時間の経過で2520億円迄上がったのは驚いた。もっと下がらないのか、自分も聞きたい。
■ 計画の見直しについて
値段が合わないことについては徹底的に議論し、情報公開しながら調整すべきだ。しかし、いったん選んだザハ案は残してほしい。そうしないと、日本は国際的信用を失う。現行案の中で、上手くコストを減らせれば良いと思う。
そして、このように述べた。
「日本国民の一人として調整して上手く進めてもらいたい。」
「ゼネコンは、国の為に儲からなくてもやってもらいたい。」
「いったん選んだザハ案は残してほしい。」
安藤氏は確かに国民の一人だが、今回のコンペ審査委員長であり、最終的にザハ案に決めた人である。「委員はデザインだけを選定したところ迄、その後の経緯は何も知らない、どうしてこうなったのか?自分も知りたい。」は、無責任極まりないと思った人も多いのではないだろうか。
デザインとは、形状や色だけではない。
ここではっきり申し上げたい。そもそも「デザインだけを選定したところ迄」と仰るが、「デザイン」とは、形状や色だけではなく、考え方(コンセプト)、計画(プランニング)、形状(フォルム)、色・素材(カラー・テクスチャー)、構造(コンストラクト)、予算(コスト)、日程(スケジュール)等全体を示すモノであって、けっして部分だけを捉えたものではないということ、である。
このことは、モノ創り・デザインを業にしている者の「い・ろ・は」である。
当然のごとくこのデザインコンペでも、それら全てのバランスを考慮した内容でなくてはならない。特にコスト面は、重要なポイントのひとつ。
斬新で超越した内容であっても採算を度外視にしたものであればそれは別物。条件の2~3倍では話にならず、当初の予算自体も過去の事例と比較すると倍以上の設定だから、コストの異常さが尋常ではない。
今回の会見を聞いて、世界建築界で輝かしい作品を生み出した建築家との弁とは到底思えず、コストを置き去りにしたデザイン視点が招いた結果と言って過言ではない。
この経緯の中で選択した責任がある以上、問題となった事態を謝罪し、打開策を提示すべきであろう。
日本が国際信用を失うのなら、少なくともその為に何をなし、何をすべきなのか?・・・審査委員長として出来るコトを述べてほしかった。
では、これからどうすれば良いか?提案「新国立競技場の今後の進め方」は次のページにて。