亀山早苗の恋愛コラム/連載:アラフォーの“傷跡”

母親の過干渉に対する娘の悲しみ……母との関係に苦しむ娘の心情

テーマは「母と娘の関係」。母親に過干渉で育てられたと感じている女性が背負ってしまった苦しみを見てみましょう。そして、そこから抜け出すことはできるのか……。母親の過干渉が娘にどう影響するか考えてみましょう。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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アラフォーの“傷跡”。ずっと誰かに言いたかったー母親の過干渉

母親の過干渉に対する娘の悲しみを告白

複雑な娘の心境……母親の過干渉による苦しみ

「これまで誰にも言えずに、苦しんできたこと」をテーマに、アラフォー女性が背負っている様々な事情や悩みを聞く。
「母は私を、自分の思い通りの人間にしたかったんですよ」。マリさん(39歳=仮名)は、母親に過干渉で育てられたことを強く恨んでいた。
世のなかには、心身ともに親に虐待されて育った人が現実としている。どうしてそこまでひどいことができるのかと、私自身、話を聞いていて落涙したこともある。そういう人は、とにかく早く親と物理的にも精神的にも離れるしかない。

ただ、「虐待」とは言えず、むしろ、それは「的外れではあっても、親は親の立場としてあなたを愛していたということでしょ」と思われるような関係で、大人になっても親を恨んでいる人も少なくない。

マリさんは、まさにそういう女性。私は彼女のような人に会うと、どうしてそこまで親に対して執着するのか、不思議だなと感じてしまう。親への理想、期待など、いっさい持っていなかった立場としては。
 

過干渉で育てられて……

――マリさんは、お母さんに対して複雑な思いを抱いてらっしゃるとか。
マリ:私がいまだに結婚できないのは、母のせいなんですよね。好きな人ができても、必ず母がぶちこわしたから。

――ぶちこわした?
マリ:最初は学生時代です。とっても好きな人ができてつきあっていたら、母が彼のことを調べたんです。それで、「家柄」がよくないって言い出して。

――家柄?
マリ:ええ。うちだって家柄といえるほどの家じゃありません。だけど、母は一人っ子の私の人生を壊すことだけが楽しみだったから。

どうしていつも私の邪魔をするのか。考えると、今も怒りがわいてきます。
(マリさんの表情が歪んで、唇が震え出す)

――(少し落ち着くのを待って)子どものころからそうだったんですか? かわいがられて育ったんでしょう?
マリ:かわいがられたというよりは、過干渉で育ったんです。小学生のとき、私が着ていきたいと思った服を、母に「それはかわいくない」と止められたことがあって。どうして自分が着ていきたいものを着てはいけないのか。そんな些細なことから、ずっとぶつかりあってきました。

――着たい服を着て、さっさと登校しちゃえばよかったのに。
マリ:それができれば、苦労はしませんよ。

――じゃあ、あんまり反抗的な態度はとらなかったのですね。
マリ:私が一言いえば百言返ってくるのがわかってるから。中学受験もさせられたけど、私は本当はしたくなかった。だけどしないと言ったら、母はすぐ泣いて寝込んで大騒ぎになる。だから受験しました。

受かってしまったために、中学から電車通学。結局、高校生のときに学校になじめなかった私が何度も自殺未遂を図って、ついに父が母に「マリの好きにさせてやれ」と言ってくれて。それで、公立高校に中途入学しました。

――それでもお母さんの干渉はやまなかったんですか。
マリ:「あんたは卑怯だ。自殺のまねごとなんかして」とよく責められましたね。私がつらい思いをしていることを、母はまったくわかろうとしなかった。

それなのに、「私がこんなにあなたを思って、あなたのためにがんばってきたのに、ちっともわかってくれない」とよく泣いていました。泣きたいのはこっちなのに。母は私を、自分の思い通りの人間にしたかったんですよ。

――でも、それは無理ですよね。
マリ:ええ。高校の一件で無理だとわかってもいいはずなのに、今度は成績以外のことで、私を「理想的な女の子」にしようとした。

――お母さんの理想の女の子って、どういう子?
マリ:かわいくて素直でおとなしくて、女子大か短大を出てまっとうな会社に勤めて、見合いで結婚する、というのが母の理想だったんじゃないですかね。

だから私、がんばって共学の四年制大学に入ったんです。それは母にとって、明らかに「裏切り」だったみたいですね。

――それでお母さんがあきらめてはくれなかったんですか。
マリ:あきらめるという言葉は、あの人の辞書にはないんですよ。だから、私のボーイフレンドを調べたりするんです。

――お母さんは、どうやってマリさんのボーイフレンドのことを知ったの?
マリ:私が一度、家に連れていったから。

――そこが不思議なんですよ。お母さんに会わせる必要なんてないと思うけど。
マリ:……。

――お母さんに認めてほしいという気持ちがあった?
マリ:……。

――もっと、マリさんが思うような方法でお母さんから愛されたかった?
マリ:……。


マリさんは、私に責められていると感じたようだ。何を言っても、石のように硬く口をつぐんだまま。このときは、そのまま物別れに終わった。私としては、このまま終わるわけにはいかない。人間関係を放り出すのはイヤなのだ、個人的に。

後日、改めて連絡をとった。ぶしつけにいろいろ聞いたことは謝った。マリさんとしては、途中から「わかってくれない人間に何を言っても無駄だ」と思ったようだ。

もう一度、会って話したい。率直に言うと、マリさんも応じてくれた。
 

母親の過干渉で育てられた娘の苦しみ……

――マリさんは、やっぱりお母さんが好きなんですよね。
マリ:あれからちょっと冷静になって考えました。私、母親との関係について、誰にも話したことがないんです。だからうまくまとめられなくて……。
泣く娘

母に認めてほしかった

私は母が好きというより、認めてほしかったんです、ひとりの人間として。別人格をもったひとりの人間としてね。

――わかります。それだったら、一度、物理的に離れようとは思いませんでした?
マリ:家を出るということですか。学生時代はきっかけがなかったけど、就職してから一度、部屋を借りたことはあります。

――実家から遠くに?
マリ:
実家の隣の駅に。そうしたら母がしょっちゅう入り浸って、掃除したり洗濯したり。

――遠くにすればよかったのに。もしくは、鍵を渡さなければよかったのに。
マリ:
今思えばそうですよね。

――またマリさんを傷つけてしまうかもしれないけど、結局、マリさん自身も親離れできなかったという側面があるように思うんです。責めているわけじゃなくてね。それを認めたら、何かが変わるかもしれない。
マリ:
親の思い通りになるまいとしながら、でも私のために必死になっている親を振り捨てるようなこともできない……。それが積み重なって、今があるのかもしれません。

――優しいんですよね、マリさん。私だったら、さっさと親から離れて、どこに住んでいるかも知らせないと思う。
マリ:
そこまではできない……。

――今、お母さんとの関係はどんな感じですか?
マリ:
相変わらずです。今、また自宅に戻ったので、朝から母は、「今日は何時頃帰ってくるの?」と聞くし、帰りが遅いと「つきあっている人、いるの?」と。いったいいくつの娘に言ってるんだと怒りがわいてくる。

――これからどうしたいと思っていますか。
マリ:
早く結婚したいです。母の影響下から逃れたい。もしくは母に謝ってほしい。私の人生をいつも邪魔していることを。


母親との関係に悩む女性は多い。気持ちはわかるのだが、精神的にも物理的にも、さっさと離れればいいのにと思うこともある。結局、「親に愛されたい」思いが強いほど、苦しんでしまうのかもしれない。個人的には、親きょうだいという「家族」は、自分が選んだ関係ではないと思っている。だから、若いときは早く逃げ出したくてたまらなかった。

学生時代、私はよく朝帰りをしていた。最初は小言を言っていた母親も、しまいには「近所の目があるから、普通の人が起きる時間前には帰ってきなさい」という妙な妥協案を出してきたことがある。あのとき、親は、子どもがすでに「自分の影響が及ばない存在」として認識したのだと思う。

子どもは親の言うとおりにはならない。それを子ども側からも親に突きつける時期が必要なのかもしれない。

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